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revol†  作者: HP3
1章 Red Cross Hearts
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第17話 また孤島

 体が重い...ダルい...


 そうは思いつつも神経を体に通わせ、体を起こす。


 指先に柔らかなものを感じ、見てみるとロトカの下には薄い毛布が敷かれていた。


 体を何とか起こし、周りを見渡す。


 ここは外ではなく、木造の小さな平屋の中だった。

 視線の先には傾いた棚や小さなキッチンがある。机はこのちっぽけな家には不釣り合いなほど大きく、見る者に圧迫感を与えてくる。その上には埃のかぶった本や、マグカップ、眼鏡が置いてある。


 右の窓からは憎たらしい日光が差し込み、ロトカの体を焼いていた。寝起きの身には少々鬱陶しく感じるだろう。

 

 日光の侵入を許しているガラス窓の先には、丁寧に刈り込まれた芝生の絨毯が広がっていた。昼寝でもしたらさぞ気持ちが良いことだろう。


 部屋を物色していると部屋の角の扉がギイィと開いて誰かが入ってきた。


 背丈は1メートルくらいだろうか。小さな人族の老人が杖をコツコツしながら入ってきた。目が悪いのだろうか。


 「お腹減った」


 「開口一番がそれかな。獣人のお嬢さんよ」


  ちんまりした爺さんは急に声をかけられたにも関わらず、特に驚く様子もなかった。


 「よっこらせいっと!」


 そのまま、よたよたと歩いて椅子の上にぴょんと飛び乗った。足が悪いわけではなさそうだ。

 

 机の上に置かれたマグカップをつかむと、湯気が上り始める。


 「それって魔法?」


 「魔法なんてあるかい。このマグカップは触れると体温を利用して中を温める機能があるだけだよ」


 そのまま中の液体を口に含んで飲み始めた。


 「ふい~。儂がお嬢さんを見つけたのは1週間前ほどだったな。外で畑仕事をしていた時のことだ。後ろで大きな音がしたんでな?何事かと思って見てみれば、儂の芝生に大きなクレータが出来ていて嬢さんが倒れていたと。そういうわけだな」


 「部屋の中まで運ぶのは骨だったぞ?儂の倍以上大きいお嬢さんを運ぶのに台車を引っ張り出してこにゃならんかった。何とか運び込んだものの、一向に目覚める気配もないしなあ。お嬢さんが死んじまったら儂が殺したみたいになっちまうし。何も食べなかったんだぞ?水もダメ、パンもだめ、野菜もダメでなあ」


 「今だったら食べられますよ?」


 「さっきからふてぶてしい奴だな、まったく」


 口では文句を言っているが、直ぐに椅子から立とうする。


 「自分で持ってきます。どこにあります?」


 「そうか。キッチンの左から2番目の引き出しにパンとかが入ってる。一番手前の大きな缶が飲み水だ」


 「了解」


 ここで盲目のお爺さんに行ってもらうのは時間がかかるだろうし、多少気が引けたため、自分で行くことにする。


 キッチンの大きさはお爺さんにしてみればちょうど良い大きさかもしれないが、私には少々小さすぎる。手を腰に当てて少し動くだけで何かにぶつかってしまうくらいだ。


 「コップは?」


 「一番奥の棚に入ってる」


 最近の若者は礼儀がなっておらん、だのなんだのブツブツお爺さんが文句を言っていますね。とりあえずそんなことよりも食事が優先です。


 入って左にコンロがあり、右手に棚が4つある。一番奥の棚を開けると食器類が収納されていた。マグカップがいくつかあった内の一番手前にある。


 ロトカは黒っぽいものを選んだ。


 …カビてないですよね?

 息を吹きかけたり、匂いを嗅いで確かめてみるがよく分からない。まあおそらく大丈夫でしょう。


 食材が入っていると言われた奥から2番目の棚にはパンや肉、チーズなどが入っている。


 ロトカはパンだけでなく、肉やチーズまで余計に取った。そして最後に缶からマグカップに桶で水を入れた。

椅子まで戻るが、ロトカの体には椅子が小さすぎて座るというよりも、腰をかける感じになっている。


 「なにやらパン以外のものも混じっていそうだが?」


 「なんで分かるんです?」


 「まあ、別に構わんが。これくらい分からなければ1人で生活など無理だろう。ところで、儂も少々腹が減ったな。少しパンを千切ってよこしてくれ」


 ロトカはパンを少し千切ってお爺さんに手渡してやる。


 「はい、どうも。ってなんで儂の食糧なのに礼を言わなくてはならんのだ...」


 いつの間にか家主と間借り人の立場が逆転してしまっていた。


 「ところでお嬢さんはなんでこんな所に来たんだね?」


 「そうですねぇ。どこから話したら良いのか...変な女に吹っ飛ばされたのが始まりですかね...そこから海を飛んで2日までは覚えているけど、先の記憶がないんですよ」


 いつ落下するのかと危惧していたが、一向に速さと高度が落ちることなく飛び続けたのだ。最初こそは死を覚悟したが、しばらくしたら慣れてしまった。途中、渡り鳥の群れなどに突っ込んで突っつかれもした。最後の方は雲の中で家を見るという幻覚まで見ていた。


 「だからここのこともよく分からないですし、正直困惑してますよ...なんだかあの女を思い出したらムカムカしてきましたね。次会ったら私がぶっ飛ばしてやりましょう」


 「そうか、ずいぶんと波乱万丈な移動方法だな」


 「疑ったりしないんですか?」


 「そりゃあ、疑念がないわけではない。なんせこの島から最短の陸地までは何キロもあるんだぞ?だがまあ、信じられん話でもない。儂の友人にも変なのがいる」


 お爺さんは、茶をすすりながらしみじみと言う。


 「口から火を出す奴、空を歩く奴、どこからともなく現れる奴、木を食べる奴だとかな」


 「お爺さん、サーカス団かなにかの人ですか?」


 「やははは。そう思われるのも仕方ないが、実際は違う。他にも色々いるぞ。同じ人間など1人として存在しないし、皆多かれ少なかれ個性を持っているもんだ。自分ではないと思っている奴でもな」


 「面白そうな人達ですね」


 「変な奴に変わりないがな...そういうことで特に疑ってはいない。海岸にも行っては見たが、船もないし。急にここに飛ばされたというのも頷ける話というわけだ」

 

 「さてと、お嬢さんも早く大陸に戻りたいだろうに。今から船を漕ぎ出して行けば良いんだろうが、そうもいかない」


 「どうして?天気は穏やかだし海も荒れて無い様だけど?」


 「見た目はな。最短でも陸地に着くまでは100キロ近くある。条件が完璧でも小舟で踏破するのは体力的に難しいぞ。それにこの近海には小魚が多かった。しばらくは帝尾目が沖の方にうろついている可能性が高い。あんなのがいたら数キロ行かない内に沈没されてあの世行きだ」


 「帝尾目って何ですか?でっかい魚?」


 「そうだ。帝尾類と呼称されることもある。胴体も一隻の船以上あるが、特徴的なのはその尾だ。胴体と同じくらい長く、形もそれぞれ違う。真っ直ぐなのもいれば、錨の様に不思議な形の奴もいる」


 「かっこいいですね」


 「お嬢さんは見てないからそんなことが言えるのだ。見たら血の気が引くぞ」


 お爺さんはぶるっと震える。


 「気性も荒いのが殆どだし、飼育に成功した例は世界でもないと思うが。そいつらは尾を使った攻撃をしてくる。当たったらひとたまりのない。船乗りたちは天気や海の荒れ具合よりもそいつらを恐れるくらいだ。どんなに荒れた海域でも帝尾目がいる穏やかな海よりもましだと喜んでいくだろう。間違いなく海洋生物の中で最も強い存在だな。まあ普通に陸で生活してる内は縁がないから庶民の多くにとって縁遠い話だ」


 飼いならして上に乗って旅することを想像したが、どうやら難しそうだ。


 「ほれ、ちょうどこの杖も帝尾類の尾骨から切り出された逸品だぞ」


 「これが?なんかつるつるして持ちやすいですね」


 お爺さんから手渡された杖は取っ手が角ばった渦巻き状をしていて、そこから先は若干曲がりながら伸びていた。長さは60cmほどあり、乳白色でつるつるした肌触りだ。


 「なかなか高くてな。やはは。口に出せん額だったが、つい大枚はたいて買ってしまった。って振り回すな!曲げるな!ま、まあ折れはせんだろうが…止め!折れてしまうわ!」


 『折れない』と言われ、ロトカの闘争心が燃え上がる。そして過度な荷重を加えられたかわいそうな杖が断末魔をあげる。


 「なんと乱暴な!よしよし」


 お爺さんはロトカに曲げられた杖をまるで孫にするかのように、優しく撫でる。


 「折れてもその辺の木で作れば良いじゃないですか」

 「そういう問題ではない!それよりも力を込めて曲がるような代物でもないんだが…お嬢さん相当な馬鹿力の持ち主だな」


 「ちょっと力入れたくらいで曲がるなんて。帝尾類っていうのも大したことなさそうですね。そういえばお爺さんは見たことあるんですか?」


 「儂は遠目で2回くらいあったな。明らかに鯨ではなかった。水平線に三日月形と二股に分かれた奴を見たことがある。水平線ともなれば距離にして3キロほどだが、肉眼で確認できたくらいだ。相当な大きさだったと思うぞ。もし遭遇してたら儂はここにはいなかっただろう。まあ、ともかくそいつらは必ず避けなくてはならない。大体1週間くらいは様子見だな」


 「1週間ですか…長いですね。…さてと、それまでぐーたらしてるのも何ですから家事を手伝いましょうかね」


 「家事か、正直お嬢さん出来なさそうだから食料の調達とかをお願いしたいのだが」


 「失礼な…しかし私としても力仕事の方が向いてますからね。狩猟は任されました」


 「女性に普通は頼まないが、お嬢さんは相当な力がありそうだからな。なに、森の奥に入らなければそんな強者は出てこんさ。無理そうならすぐ帰ってくればよい。倉庫から金棒を持って行け。というか武器はそれしかないしな」


 「剣とかの方が強いのでは?」


 「剣は切れる物には良い。しかしこれは例えば敵兵の場合、鎧ごと叩き切れる剣なんて少ないぞ?それに使い手の技量も必要らしい。動物も同じ様なものだ。猪だってワニだって色々いるが、結構硬いもんさ。手入れも必要だしな」


 「その点金棒は良いぞ。対象に関係なく攻撃できる。しかし欠点もある。それはかなり筋力がないと自由の振ることなんて出来はしないことだが。お嬢さんは体がしっかりしてるから問題なく扱えるだろう」


 「あの森は罠なんて仕掛けんでも、1時間も歩けばそれなりの大物に出会うくらいの野生の宝庫だ。だから心配いらん。むしろ心配なのはお嬢さんの方だ。動物は強さはまちまちだが、強いのは強い。儂も入口から少し行った所に罠を仕掛ける程度だからな。無理そうだったら帰ってきなさい」


 さてと、体を動かしに行きましょうか。


「出来るだけ大きいのを頼むぞ」


 ロトカがベッドから降り、家を出ていく際にお爺さんはそう言った。


 「止めたいのやら、行かせたいのやら...」


 家の裏にあったカギの掛かっていない倉庫から金棒を引っ張りだす。保護する布もなく、ただぞんざいに突っ込んである。


 柄には汚れた包帯が巻いてある。匂いを嗅ぐと血液と泥や汗、カビのにおいもした。少なくともここしばらくは使われていなかったものだろう。


 柄の尻は丸い輪っかがあり、何かに引っ掛けることが出来るようになっている。


 肝心のスウィートスポットがある部分からはいくつかの棘が生えている。金棒の長さは170cmくらいだろうか。胸ほどの高さはあった。


いったい誰が使っていたのか。あのお爺さんの身長では扱えないだろう。となると別の人物が使っていたことになる。まあ、後で聞けばよいか。


 このまま使うには若干抵抗があるので海まで行って、柄の包帯をよく洗った。


 まあ少しはましになっただろう。


 本来の白さをかすかに取り戻し、これ以上洗っても仕方ないと思い、それで妥協することにした。金砕棒自体も汚れているので、海でバシャバシャと洗う。汚れが落ちたところで水を切るとこと慣れを兼ねて素振りをしてみる。


 少し力を入れればそれなりにブンッ!と空を切る音がする。


 「よし!ぶっ潰していきますか」


 仮想あの女を想定し、そのまま素振りをしばらく行ってから森へと向かった。

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