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revol†  作者: HP3
1章 Red Cross Hearts
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第16話 海軍の猛者

 「やっと出られましたか...中々時間がかかってしまいました」


 ロトカが返り血を全身に浴びて、サンタクロースさながら真っ赤になって姿を表した。元々茶色だった外套は赤色だと認識してしまう程の変色具合だ。


 ロトカが収容されていた区画は5階層で、そこから下に向かった。途中迷ったり、看守達と激しい戦闘を繰り広げながら今に至る。


 監獄の前は広場になっていた。周りには垣根もなく、花もなく、ただただ殺風景である。

 そしてどんよりとした空気が漂っている。物陰から魑魅魍魎でも出てきそうな。


 地面はタイルが規則正しく敷き詰められ、馬車が通りやすいように平らにしてある。


 霧が出ているが、100メートル位の半径でロトカの場所を焦点とするように、砲台が向けられているのが辛うじて見える。


 看守達は大砲に球を入れ終え、こちらを何時でも打てるように構えていた。

 遂に訓練で行なっている事が現実のものとなった。そもそも脱獄者が監獄から出られる事などほぼ想定されていなかった。だが、万が一の事を考え、少なくない予算を割き、固定砲台を導入していたのだ。


 「大砲なんかで死ねるわけないでしょう」


 空腹が酷く、大尉に呆気なく負けた。


 しかし、今は違う。


 道中は真っ直ぐ出口を目指していただけでなく、食糧庫を熱心に襲っていた。空腹で死にかけていたロトカに食えないものなどなかった。なんの動物かわからない肉、2メートルくらいある紫色のワカメ?何でもかんでも手新次第に食い散らかした。


 「腹ごしらえもしましたし、そろそろ出ていきましょうか」


 その時、窓から何かが飛び出して、30メートルくらい先に落ちた。


 それは女だった。


 白地の帽子に”海軍”と筆で書かれたものを頭に乗せている。細身で胸は大きい。白地のシャツを深いブルーのパンツにインして、第2ボタンを開け、腕捲りをしている。

 そして何故か白い皮の手袋。ブーツを履き、白い羽織ものをしている。何と髪型は超短髪で薄赤い。

 身長はロトカと同じく2メートルオーバー。


 女の周囲にはワニやサメ、アンコウと言った海の生物の絵がフヨフヨと浮かんでいる。


 「何だか強そうなのが出てきましたね」


 月光がロトカと女を照らし出す。


 歳は40代くらいの様にも見えるし、それにしては肌に皺がない。


 「監中引っ掻き廻してくれたね。ファイゼンの名に泥を塗られる所だったわ」


 「いや、私がこうして外に出た時点で脱獄成功と言って良いでしょう」


 「死人に口なし。殺せば終いだ」


 「女なのに”殺す”とか言ってたら親に心配されますよ」


 「殺sオォエッ!」


 「うわっ!」


 ビチャビチョッ!


 いきなり、女が血を吐いた。


 ちょっと口内を怪我して、血が出た...そんな量ではない。コップ2、3杯位の血が一気に飛び散る。


 血独特の鉄のような匂いが辺りに広がる。


 人を殺す事に抵抗がないロトカでも咄嗟の事態に驚きを隠せない。

 跳ねた血が自分に付着しないように数歩後ずさる。


 「た、体調が悪いなら帰ったらどうですか?」


 「ただの呪いだ馬鹿」


 「呪い?何ですかそれ」


 「不思議な鉄塊(グレア)の所為に決まってるだろうに」


 グレア?何のことですかね?食べ物でしょうか?


 血を吐いた女はズボンの尻ポケットから小さな道具を取り出して口に咥えて思い切り吸い込んだ。


 なんだか道具からキュイィン...という音がする。


 一体何なのか。薬?


 「囚人番号6022番、名はロトカ。出自不明。よくもまあお前みたいな者が無名でいられたもんだ...監獄所長を始め、主力が出払っているとはいえ、十分な戦力が配置されていた筈なんだが...私がいる時にこんな騒ぎ起こされちゃぁ、面子が潰れるだろう」


 「それはすいませんね。でも食べ物もろくに出ないし、娯楽もないんじゃあ出て行きたくなるってものでしょう。人生とは...自由でなきゃいけない」


 「貴様ら犯罪者の言う”自由”の所為で苦しむのが沢山いるんだ。不法侵入、公務執行妨害をはじめ、貴族へ後遺症が残るほどの暴行。どれも悪質、反省の色もなし。これじゃあ捕まっても文句は言えない」


 「細かいことは良いじゃあないですか。自由になったら懺悔とかしますから、ね?だから邪魔しないでください」


 「それを諦めろと言っている。一本通すぞ。『血果双槍(げっかそうそう)』」


 女はさっき吐いた血溜まりの前で膝を曲げて、徐に手を着いた。そしてそのままズズズっとその手が沈み込む。


 そこから徐々に女は何かを引っ張り出す。手を引くにつれて、血溜まりが小さくなっていく。


 そして深紅の棒状の何かを手に掴んで引っこ抜く。それは棒ではなく、一本の槍だった。


 真すぐな槍で、長さは2mほどだろう。先端が10cm位の間隔を空けて、二又に分かれているのが特徴的だ。それ以外は特に握るような場所もなく、飾り気のない。ただの槍だった。


 「自分の血で武器を作るとは...汚い」


 「まあそれについては同感だが、己は何分持つかな」


 この時、ロトカは戦いは避けられないと悟った。


 一本一本両者がゆったり穏やかに歩み出す。そして歩みが早くなり、走り出す。


 女はまず槍を突いてきた...と思いきや、左手でロトカに投擲する。

 女から放たれた槍はロトカによっていなされ、ロトカの右後方の地面に深く刺さり込む。


 「直撃は避けたいですね」


 ロトカは一撃を難なく防いだ事で、少し笑みを浮かべる。が、目の前まで女が接近し、左フックがロトカの右頬に叩き込まれる。

 ロトカはワンバウンドしたが、両足と片手を地面に突き、踏みとどまる。


 血の味がする。


 「ぺっ。油断してしまいましたね....」


 目線を上げると女は槍を引っこ抜き、こっちに向かってくるの見える。


 「戦い甲斐がありますねっ!」

 

 膝を曲げて溜めた弾性エネルギを解放し、運動エネルギにして速度を得る。そして女に右ストレートをお見舞いし、吹っ飛ばす。

 しかし女の方もダウンするには至らず、槍を地面に刺して器用に体勢を立て直す。


 「...うおぇっ!」


 女は槍をクルクルと回転させ、腰を落として構える。しかし吐血している所為で格好がつかない。


 「ちょっと効きすぎじゃないですか?」


 「ばか言え、これも呪いの所為だ」


 女がぽろっと語り始めた。


 「本当の私はな。もっとお淑やかで言葉遣いも丁寧で虫も殺せない程可憐な少女だったんだ」


 「(嘘くさいですね)」


 「それが呪いのせいでこんな体に...くそったれ...」


 「ほら、さっさと行きますよっ」


 ロトカが駆け出し、体重を乗せた飛び蹴りを繰り出す。


 女は槍を地面に刺して、その上に逆立つことで避ける。

 そしてそのままの勢いで足を振り下ろし、ロトカの脇腹をへし折る勢いで迫る。


 ロトカはその右足を両手で掴み、地面に着地するとともに女を地面に叩きつける。

 女は地面に右手を着ことで頭が地面に直撃するのを回避する。


 ロトカは女が脚を取られる際に握っていた槍に気が付かなかった。

 女を叩きつけるスピードが早すぎて槍を確認してから、突き出された槍に気がつくのが遅れる。


 女は片手逆立ちした状態でロトカの眼を抉るつもりで突きを繰り出していた。


 「くっ!」


 咄嗟に顔を逸らし、ギリギリ避ける。しかし、女の脚を離してしまった。その隙に女は地面に両足をついて追撃する。


 「そんな吐血してばっかでは、本当に死んでしまいますよ?まあこっちとしては助かりますけど」


 「そりゃそうさ。...ったく厄介な体だ」


 そう言いながらまた女は尻ポケットから変な装置を取り出し、口に咥えて吸引した。


 「ぁああ〜、気持ち悪い...っふう。覚悟しな。『海槍〈かいそう〉』」


 女は握っている槍を血溜まりに向けて投擲すると、槍が吸い込まれた。

 すると間髪入れずに女の手前の血溜まりからロトカ目掛けて、真っ直ぐ槍が何本も出てくる。


 「っ!」


 ロトカは何とかバク転で避けていく。


 その間に女はロトカに接近し、槍を振り下ろす。

 ロトカは腕を引きながら、摩擦を低減させながら左腕で弾く。

 それと同時に尻尾を使い、女の腹を斬りつける。


 「っ、そんなに鋭利だとは聞いてねえぞ」


 女は腰を引いて、直撃を避ける。その所為でワイシャツを掠め、一筋の切り込みが入った。


 ロトカが尻尾を後方に下げる間に、脇腹に拳が叩き込まれる。


 「うわっ!」


 ロトカがバウンドして監獄の外壁に衝突する。


 「くそっ!」


 瓦礫で土煙が立つ。ロトカの目の前からぬっ、と槍が投げ込まれるが、何とか避ける。女からの追撃は止まらない。


 ロトカは体制を整えながら、蹴りを放つ。それは槍で防がれる。


 ロトカは腕を突き、蹴りを入れ、女の腹にヒットさせる。

 女が数メートル飛ばされるが、ダメージは何ら入っていない様に見える。


 「タフな女だ。にしても何でそんなに硬いんだ?なんか細工でもしてんのか」


 「はあはあ。...私はガードが固い女なんですよ」


 「まだ冗談を言う余裕はあるんだな」


 あれだけ攻撃を食らったのに、ロトカの体には致命傷どころかかすり傷も付いていない。しかし、体力は少しづつ減ってきていた。


 「くそっ。槍が邪魔ですね...私も武器が欲しい」


 リーチが長くて鋭利、おまけに血溜まりがあるなら何処でも出せると...直撃したら、どうにもならないと思いますが、相当痛いでしょう。


 周りは既に血で濡れた、赤い部分の領域が多くなりつつあった。


 「老いたる者には過ぎにし欲望の郷愁を、若人には未だ見ず大いなる憧憬を。いざ参らん!」


 「何だそりゃ。槍烏賊〈ヤリイカ〉!」


 今度は周囲の血溜まりから、ロトカ目掛けて12本の槍が出てくる。


 「一本貰いますよ」


 ロトカはそれを避け、其のうちの一本の槍を引っこ抜き、女に向けて投擲する。

 しかし、途中で液体に戻ってしまうが、その隙に距離を詰め、一発腹に入れる。


 「ぐはっ!!」


 女は数メートル吹っ飛ばされるが、四肢で踏ん張る。


 「っはあ。っはあ。馬鹿力が過ぎるな...暴槍〈ぼうそう〉」


 地面から槍を取り出し、一瞬で無数の突きを繰り出す。


 横凪を繰り出すが、ロトカは槍の肢を掴む。


 しかし女は槍を止めない。腕力に任せて遠心力を利用し、そのままロトカを地面に叩きつける。


 「かはっ!」


 ロトカは背中から地面に叩きつけられ、肺の空気が全て出た。


 女は追撃をやめない。二又の切先を地面で伸びるロトカの心臓目掛けて突き下ろす。


 ロトカは身を捩って避けるが、体を掠める。


 「っはあ。っはあ」


 ロトカは息を荒らげながら、体制を立て直す。


 「お前、本当に獣人か?一体モデルは何だ?かなり力を入れた筈なんだが、傷すらつかないとはな」


 「知りませんよ、そんなの。私は生きてる。その事実だけで十分。過去にも興味ないし、心底どうでも良いです。ただ貴方をぶっ飛ばして、さっさとこんな場所を抜け出せれば良いんですよ」


 「ここを抜け出す?その後のことを少しでも考えたか?看守を何人殺したと思ってる?ここにくる為に重ねた罪状、いくつある?万が一ファイゼンを脱出しても賞金首本に名が載る。そうすれば手配書が出回り、軍だけでなく賞金稼ぎ達にも狙われる」


 「昼夜問わず不特定多数に追われ、物音に神経質になり、安眠が出来なくなる。そうすれば精神が病み、行動が大胆になる。そうすれば捕縛され、監獄行き。生まれてきたことを後悔するほどの拷問にかけられて死ぬ」


 「実に悲惨な人生じゃないか。今死んでおいた方が楽だと思わないかぃ」


 女はポケットから小瓶を取り出して赤い液体を飲み干す。


 「後悔?拷問?そういうのを全部ひっくるめて人生というのは楽しいんじゃないですかっ」


 ロトカが顔面目掛けてストレートを入れる。


 「そんな単純な攻撃か」


 女は首だけ避けて、攻撃を躱す。

 

 ロトカは腰に巻いていた尻尾を解き放ち、女の足首に巻きつける。

 それを先程自分がやれれた様に、振り回してそのまま地面に叩きつける。


 女が地面に背中から叩きつけられ、口から血が垂れる。


 「おいしょっ!」


 そのまま器用に尻尾の刃を女に突き立てる。

 しかし、女は地面から槍を取り出して弾く。


 「往生せい!」


 既に両者の戦闘で辺り一面はボロボロになっていた。


 いよいよ佳境に入ろうか、と言う時。ドォン!という砲撃の音が聞こえた。


 ロトカは瞬時に周囲に気を張るが、自分目掛けて攻撃されたのではないことに気がついた。余りに音が小さすぎたからだ。


 その時、私たちに向かって看守の一人がライトを不規則に点滅させた。


 「来やがったか...こんなタイミングに」


 何かの暗号でしょう。


 「お前、あいつらの回し者か?あまりにタイミングが良過ぎだ」


 「あいつら?」


 「まあ良い...お前ら!!先行ってろ!!」


 そう大声を出すと、私たちを取り囲んでいた看守達が一斉に移動し始めた。監獄に戻るのかと思ったが、反対の方向に移動していった。


 「お前の正体は最後まで分からなかったが、ここで逃したとあっちゃあ私の面子が立たねえし、そんな事万に一つもあっちゃあいけねえ」


 「訳わからん強さだったぜ...なあ、運動エネルギーって知ってるか?」


 「飲み物かなんかですか?」


 「質量を大きくするよりも速度を上げた方が威力が上がるのさ...2乗で効いてくるからな。そろそろ死んでおけ」


 「イカれた硬さのお前でも、この技を喰らって生きていられる筈がない」


 「光栄に思え。これを使うと辺りの被害が大きくなるんで、止められてる技だ...それに生き物相手に打ち込んだ事が無いんで、どうなるか分からん」


 「消し飛べ、-『終存槍〈オゾンソウ〉』-ぜああぁあ!!」


 ロトカは最大限に警戒して、槍に注意を払っていた。その槍が投擲されて消えた。


 女の全体重、腕力、スナップ全ての力と技術を乗せて投擲された槍は最早武器と呼べる代物ではなかった。

 その通り道に物や空気すら存在を許さない、理そのものだった。


 人外の速さで槍が打ち出される。


 槍が投げ飛ばされたのに遅れて、衝撃で地面のタイルが瞬く間に破壊される。


 ロトカの視覚情報が脳に伝わり、体を動かす時間はなかった。反射でその槍を掴む。


 その刹那。ロトカの姿はそこにはもう無かった。


 そこ残ったのは、投擲の威力でボロボロになった広場と女だけだった。

 広場に関しては元の綺麗さは残っていない。


 「っふう。生き物に打ち込めば跡形も無くなるのか...」


 「しかし、久しく見ない強さだったな...さて、私も海岸に急がねば」


 「あぁ。腕がまだ痺れてやがる。流石に堪えるな」


 女、ハル少佐は看守達に追いつく為に足速に広場を出ていった。


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