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revol†  作者: HP3
1章 Red Cross Hearts
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第12話 ポート・ヴォルティア

 さて、ロトカが現れた国をアレンシア王国という。

 この右隣にはミスランディアという国もある。


 両国は共通の海に面しており、丁度両国から同じ距離に大きな島が一つある。名をポート・ヴォルティアと言う。


 ヴォルティアとは、昔の言葉で『転覆』という単語が訛ってこうなったらしい。


 50年以上前の話だ。


 当時のポート・ヴォルティアには20メートル近い建造物、カラフルな住宅街、古い木板製のアパートメントなど、海から見ても分かる様に様々なものがあった。


 何も知らない水夫がそんな建物や港に泊まる大型船などを見れば、普通に栄えた島だと思うことだろう。


 夜には富と文明の象徴たる光が踊り、漂流者の瞳には希望の島のように映る事だろう。


 しかしこの世に『悪』があるならば、それはポート・ヴォルティアそのものだ。


 50年ほど前、当時は国の境界を拡大すべく、ヴォルティアの周辺国は中立地帯の覇権を争っていた。

 その戦争が終わったばかり、とあるA級戦犯が裁判でこう言った。


 「卑怯?私のやった事など残虐とは呼ばない。その意味が知りたいならヴォルティアに行くと良い。胃をすり潰されるほどよく分かる」と。


 もしその水夫が島の正体に気がつけば、血相を変えて方向転換して進路を変更するだろう。


 もし漂流者が島の本性を知れば今一度、大海に身を投じ別の陸地を探す事だろう。そっちの方がまだ生存確率は幾ばくか高い。


 日々の糧にすら困り、騙し騙され、味方同士で殺しあうただのゴロツキ。


 金さえ積めば非合法な薬や金塊、銃や情報それから荷物まで、場合によっては生き物まで輸送する運び屋。聞く人が聞けば思い出される悪行で震えが止まらなくなる超ヤバイ大物までありとあらゆるクソ外道どもの巣窟。


 この世の灰汁を全て凝縮して形にした様な。

 それがポート・ヴォルティアだった。


 そんなデカイ犬のフンみたいな島が一体どこの国の島なのか。それはどこの国の物でもなかった。


 小さい島でも一個あるだけで経済水域の拡大、整備次第では観光客や新しい市場の獲得に繋がる可能性が出てくる。にも関わらず当時、戦争真っ只中であった両国ですら、『いらない!お前のもんだろ!』と互いに押し付け合っていた有様だ。

 そんな嫌われ者の土地はここを置いて他に無いだろう。


 メリットがあってもデメリットが大きすぎたのだ。


 ポート・ヴォルティアを自国のものにしても、島はならず者だらけ。


 そんな島の犯罪者達が他国に悪さをした日には、『お前の国のもんは何やってんだ!?戦争したいのか?え!?』となるのは必至だ。


 それに自分の国の領土に組み込めば、世界からのイメージダウンは避けられず、今まで積み上げた信頼を失う可能性さえある。

 外交上の障害にもなりかねない。いつ爆発するか分からない爆弾。導火線がありすぎて操作法を忘れ去られたダイナマイト、的なものだった。


 それとポート・ヴォルティアには法律など高尚なものは存在しなかった。


 唯一あるとしたらそれは『無秩序さ』だ。


 路上でタバコ吸おうが裸になろうがゴミを拾おうが好き勝手。勉学に励もうが売春、臓器・人身売買、密輸、拷問、ドラッグキメようが殺しをしようが全てが勝手なのだ。


 周辺国以外の他国にはこの島の存在はあまり世界に知られていない。いや、知ってはいるかもしれないが遠すぎて『そんな島があるんだね、ふーん』というような、対岸の火事とはこの事だ。


 アレンシア王国とミスランディア、この2国以外の周辺国はちょっかいなんて出したら何が起こるか分からない為、知らぬ存ぜぬを決め込んでいた。


 しかし表立って攻撃はしないが、国vs島。本気を出せば潰せる潰せる可能性は十分ある。寧ろ勝つ可能性の方がずっと高いだろう。連合で攻めれば確実に壊滅出来る。

 ただ大きな損害は避けられないし、島が存続して利がある悪人も多くいるから手が出せずにいた。そんなあ微妙な均衡が長く保たれていた。


 ...あくまでこれは50年ほど前の話だ。


 まだお年寄りの中には島の名前を口に出すことも恐ろしいと言う人もいる。

 しかし最近の若者達は意識もだいぶ緩和され、この島をそこまで大きなものと捉えている人は少なかった。

 

 余りに長い間、無法地帯と化していたこの島だが、30年前から両政府が治安維持に身を乗り出したのだ。この無法地帯を死刑専門の刑場の1つとして活用しようと言うのだ。


 両国の全戦力を上げ、そして世界機関の力も借り、ようやく島のならず者達を一網打尽にすることに成功した。

 そして計画通り、その歴史的事件のメモリアルとして島に巨大な監獄を建造した。


 それが有名な巨大監獄ファイゼンである。所有兵力としては最新式の大砲500門、兵士総計4000人を超える。


 表向きは両国の友好として2000人ずつの兵士を配属させている。しかし兵士間にはライバル意識があり、己の有能さを示そうという野心家が多い傾向がある。

 

 凶悪な犯罪を犯した者死刑執行する専門の3つの監獄の中の1角を担うポート・ヴォルティアを落とされれば赤っ恥となる。


 なんとしてもそれを防ぐために選考に通過した優秀な兵士のみが配属される。本国と同じ二等警備兵でもヴォルティアに配属されれば一目置かれる存在になるのだ。


 そんな頑強なファイゼンの死刑囚用の一番角の牢屋にロトカの姿はあった。



 ロトカにとって、目覚めて目の前が真っ暗だった事はこれでもう3度目だった。

 最初は腐敗臭が漂う、辺り一面骨だらけの地下深くだった。

 2回目は窓すらない牢屋だ。

 それを思えばまだかなり今回はマシだ。何たって地上で窓付なのだから。

 

 風通しは良く、いや良すぎる。この部屋に付いた鉄格子からはすっかり冷え切った空気が入ってくる。

 ただ夜を照らす三日月...は見えない。全く何も見えない。


 本来ならば、死刑囚には勿体ないくらいの絶景、満月に照らされた大海が望めるはずなのだ。


 しかしこの所数日、この港町は稀に見る濃霧に襲われていた。


 監獄周辺に住む者達もここ数年で初めての事だったので驚いていた。


 濃霧は海上だけでなく、街中にも入り込んだせいで、目抜き通りですら人が減っていた。態々、この濃霧の中で歩いたり飲みに出かける事はしない人が多く、その者達は休肝日がてら家にいる事にしていた。


 しかし飲ん兵衛や根っからの賭け事好きの者にしてみれば、そんなのは些事だと切り捨て、彼らは彼らでいつもと変わらない堕落した生活を送っていた。


 ともかくそんな珍しい状況だった。


 ロトカの下には冷たい不揃いの石畳、横からは冷たい風、前には冷たく冷え切ったオニオンスープと薄く干からびたベーコンが一つ。


 一般的には最悪と呼べるだけの条件を兼ね備えている。


 そんな事はお構いなしで目覚めたロトカは目の前の粗末な飯に飛び着こうとする。


 「なんですかこれ。重たい...」


 更にまたもやロトカの両手には手錠がかけられていた。しかし今度はどうやっても引きちぎる事はできない。


 それもそのはず、手錠が外れなければ凄惨な事件は予防できたはずであり、その原因をそのままにしておく訳がない。


 今度は物理的に破壊できないように、重量を重くしたのだ。前の物と太さからして全く違う。今回の手錠は幅20cmある。


 「よいしょ!」


 しかしそれでもロトカの行動を完全に制限する事は出来なかった。だが、ロトカも今度ばかりは本気にならねば移動する事は出来ない。


 何とか食料の前に体を持って行き、しゃがんで口だけで食べ始めた。女性が取る行動としては失格だが、背に腹は変えられない。


 ロトカの体のパフォーマンスを考えるとこれ以上食べないと異常をきたす。死んでからでは美人もクソもないのだ。


 器の端を口で噛み、上半身を起こして中のスープを服に溢しながら体内に入れる。


 「足りない。全然足りない。だけど助かりました」


 食料に夢中で一時的に忘れていたが、腕には手錠がかかっている事を思い出す。


 「ったく」


 宝石は本当に勿体なかったですね。


 外套は残されていたが、当然宝石類は回収されていた。


 「いくら腹が減ったとはいえ、負けるとは...我ながら情けないですね」


 自分は目覚めて数日だ。自分は誰かも分からない。


 しかし、こんなもんでは無いことは確信していた。


 自分はもっと出来るはずだ。

 そんな根拠のない自信があった。


 「腹立たしい...今度会ったらボコボコにしてあげますからね」


 次に会った時はどうしてやろうかを考えながらロトカは再度寝てしまった。

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