第11話 レーゾンデートル
男が吹き飛んだせいで、壁の一部が崩れ落ち、煙と大きな音を立てて崩れ落ちる。
深夜だが、この駐在所には多数の衛兵がいる。その者たちが何事かと次々出てくる。
そして出てきた順にロトカに吹っ飛ばされていく。10分もすれば階段の手すりや床に倒れたものが横たわっていく。
ロトカとしてみれば遊んでいる程度のもので、本気を出すまでもない。慣れないラリアットをしたり、片腕や尻尾しか使わなかったりとハンデをつけながら遊ぶ。
せっかくならココの衛兵、全て倒してから逃げましょうか。
「くそっ、こいつ強すぎる!大尉はどうした!?」
「まだ、戻っていません!」
「あははは!話にならんなぁ!足掻いてみなさい!」
脱走者のあまりの強さに下がる衛兵の士気に反比例してロトカのテンションは上がっていた。
小さなアリが必死に抵抗しているように感じてきたからだ。
ロトカは脱走することを忘れ、戦いに夢中になる。
衛兵全員が戦いに参加しているのではなく、戦闘に長けた者だけだ。その他の者は各方に連絡を入れるために、迅速に動き出している。
医療班も後方で負傷した衛兵の治療をしているが、まったく間に合っていない。
ロトカの勢いは全く衰えない。疲れるどころか体が温まってきて、だんだん調子が上がってきている。
「大尉!」
「なんか出て来ましたね」
白地のベストを着こんだ、ひげを生やした男が入り口の扉を開いてやってきた。
後方には若い衛兵が何人かいる。報告が間に合ったのだ。
「貴様、やってくれたな。竜の口に侵入したただの不審者だと報告を受けていたが。何者だ」
「名はロトカ。なぜ捕まっていたのか私が知りたいくらいですよ」
「トーリ男爵への暴行、衛兵への殺傷。これは大罪だ。覚悟しろ」
予想を上回る行動と速さにロトカは見事に意表を突かれた。自分の命を終わらせに来た、一撃に対応する。
背を若干後ろにのけぞらせ、書記官から奪った剣で大尉の鋭い突きをいなし、反撃する。
ロトカとしてはかなり力を入れた一撃だった。相手を戦闘不能に陥れる自信もあった。しかし、簡単に防がれ、内心ショックだった。
理由は2つ。
ロトカは数日間何も口にしていない。空腹による身体機能の低下。
もう一つの理由は...
「何が入ってる?」
大尉は気になっていた点を質問する。
ロトカが動くたびに『ジャラジャラ』という聞き慣れない音がしているからだ。
...そう。もう一つの理由は取調室にあった、主にトーリ男爵の私物であった宝石だ。
ロトカは宝石を根こそぎ奪い取り、外套のポケットに仕舞い込んでいる。それを守るために気を遣っているから、思うように体を動かせない。
一方、幼少の頃から剣を握り、修練を積んできた大尉。
長い経験の中でロトカが動くたびに発する音が戦闘中に生じる音でない事は直ぐに気がついた。
質問を投げかけている最中も大尉の視線は油断なくロトカを観察している。
ポケットに12個も宝石が入っていて、これだけ激しい動きをすれば音が出ない訳がない。宝石が擦れる音は、ロトカには『頑張れ』と語りかけている様に聞こえた。
「夢と希望が詰まってるんですよ!」
ロトカが大尉に斬りかかる。
大尉はそれに対して、受け止めて、いなす。ロトカの隙を見逃すはずもなく反撃をする。ロトカは体を仰け反らせてそれを回避。
その後も激しい攻防が続く。
しかし互角の勝負ではない。ロトカの方が押されている。押されているが、大尉も決め切れないでいた。
大尉優勢のまま膠着状態に入る。
勝負は一兵卒の者でも両者の違いが分かる程に差がある。タイプが全く異なるのだ。
ロトカは長身を生かした蹴りや、足払いなどアクロバティックな攻撃を取り入れる事で、圧倒的に不足している剣技を補っている。
そうする事で何とか勝負になっている。
一方の大尉は細かく動き、小技を繰り出し、フェイントを入れ、ロトカを撹乱させている。剣の技術は大尉の方が何枚も上手だ。
両者の激しい攻防で床の絨毯には穴が開いていた。エントランスに2本の剣がぶつかり合、高い金属音を響かせる。
気が付けば周囲は出撃準備を完了した何人もの衛兵が取り囲んでいた。ロトカだけは夢中でそれに気づかなかった。
それにしても空腹が...
ロトカが口にしたものといえば得体の知れぬ血液らしき液体だけ。しかも1日前だ。
それに加えて意識を取り戻してからは何も食べていない。
遂にロトカが段々と集中力を欠き出した。
「そろそろ限界か。なら楽になると良い」
大尉が少し距離を取り、剣を鞘に戻した。
大尉は微かに息を上げてはいるが、体力的に全く問題ない様子だ。
「牢獄で自分の罪を悔いるが良い。『威葬』」
大尉が剣のつかに手をやり、そう言った。
ロトカは反応すら出来ずに、意識を刈り取られた。




