第10話 脱獄
中からは誰の声もしない。取り調べが行われているのはこの部屋のはずだ。
訝しんだ衛兵がドアを開けて入ってきた。
「男爵様!」
衛兵から見て机の奥の倒れているトーリ男爵が目に入る。
すかさず、駆け寄ると足元に目玉が刺さったペンが一本目に入る。
「うっ!」
予想だにしない惨劇のあまり吐き気を催してえずく。顔を背けた先の側壁には血を吐いてた同僚が倒れていた。
「くそっ!」
ともかくこの惨状をこの第一駐在所の全員に知らせる事が最優先だ。衛兵が振り返る寸前、
「動かないでください」
「な、何者だ」
ロトカは衛兵の後ろに素早く回り込み、ヘッドロックをかける。
「こんばんは。それで一つ聞きたいんですけど、出口はどこですか?」
この建物の内部構造を調べる前に、誰かしらと遭遇して大騒ぎになる事は間違いない。
最短距離で逃げる必要がある。
「こんなことをしてただで済むと...」
「いいから答えて下さい」
さらに首を締める腕に力を入れる。衛兵としての最後の抵抗心は消え去った。
「わ、分かった。この部屋を出て左にまっすぐ行った所に下へ降る階段がある。そこを降りれば出ていける」
「どうもありがとう」
ここで解放する馬鹿はいない。力尽くで首を絞めて衛兵を黙らせる。
しばらくすると衛兵が気絶した。
もうこんな建物に用はない。出て行くだけだ。
ポケットの中の宝石類の心地よい重さを確かめながら部屋を出る。
ただ、このまま素手で...というには少し心細い。部屋に武器になるものは無いか物色すると、ロトカが先ほど気絶させた衛兵の腰に剣が刺してあった。
素早くベルトごと腰から外して、自分の腰につける。
若干キツさを感じる。この成人男性よりも自分の腰回りが大きい事に対して若干の羞恥を覚える。
いや、これは太っているのではない。筋肉が多いだけです。それに身長も私の方が高いし...と言い訳じみた物を自分の中に感じた。
廊下は不気味なほど誰もいない。何の音もしない。
「なんだ誰もいないのですか」
不思議に思いながらも走って、言われた道を進む。
確かに左にまっすぐ行ったところに階段があった。
どうやらここは2階で、階段を降りた先は円形のエントランスになっていた。天井には豪華では無いが、大きな照明がかけられている。
階段を降りた先には一際大きな木製のドアがあるのだが、誰かがそこを横切ろうとしていた。
短い金髪、細身で服にはシワひとつない。目測では二十代後半ほどだろうか。
ロトカは足音に気を付けるわけでもなく、堂々と出ていこうとするものだからその人物に気づかれる。
その男はこちらを見つけて、パッと笑顔になる。
「おや、こんな夜遅くにどこに行こうというのかな」
見た目通りの声だった。さぞ、女からチヤホヤされてきたのだろうと、想像するに難く無い自信が声に現れている。
彼に入れ込む女性からすれば、ウットリする事間違いない。
しかしロトカは相手の姿とは裏原に何かネットリする物を感じずにはいられない。
「僕はジョン、ジョ二ーって呼んでくれて良いよ」
「見送りにでも来てくれたんですか」
「違うよ。少しお話でもできないかと思ってね」
何なんだこの馬鹿は。
今のロトカには宝石を眺めていたダラしない表情は消え失せていた。宝石を手に入れた嬉しさを欠く消された恨みしかなくなっていた。
「あんまり軽薄な男は好かないので」
不毛な会話と目の前のバカの命に終止符を打つべく階段を1段1段降りる。手を開閉して拳を握る準備運動をする。
「ふっ。穏やかじゃないね。でも僕のものになれば-」
そのままの勢いで相手の懐まで距離を詰め、鳩尾あたりに拳を叩き込む。
「かはっ!?」
男は軽く数メートルほど吹き飛んで、背中から壁にめり込んだ。




