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凶子

作者: みみ


ことしのおみくじは凶で

しんねんそうそう

凶子だぞー ていっては

ひとを追いまわしている。



凶子が もより駅についたころ

とけいはよるの8時をとっくにまわっていた。


おきにいりの歌手が 市内のちいさなライブハウスで

弾きがたりライブをするらしく

しかもそれが急きょ来月 というわけで

店頭限定で いきなり『ほんじつ5時より販売!』となった

むちゃくちゃなチケットで。

それでもすぐうりきれてしまうだろう と期待せず

学校がえりにのんびり本屋によってから

電車をのりついで むかったのだった。



駅まえの繁華街のあやしいネオンは

にせもののうでどけいみたいにギラついて

道のよこには 垂れさがって

おそでをもって手まねきしているふじの花や

したには えたいのしれない死骸がおちていて

そのよくわからないくろっぽいものに

蝿が ういんういんたかっている。

死骸はもうしゅんびんに動くことなく

蝿にされるがままになっている。


街のどこかから さまざまな音が

調和のとれていないアンサンブルみたいに鳴り響き

その音に耳をすますと 奥のほうから

ときおりメロウな

パイプオルガンのような音色がしてくる。

さびしいような なんていうか

レクイエムみたいな音楽なのだ。



その音に耳がつかまってしまう

が あんまりそればかり聴いていたら

いまいる空間とは どこかべつのせかいに

連れていかれるような気がしてくる。

凶子はつい うっかりというまちがいを よくしてしまうが

いまのそれは とりかえしがつかない。

小坊主の行脚のようなこころもちで

ネオンのなかを通りこす。

だいじょうぶ。

わたしはそっちには 連れていかれない。




ライブハウスに近づくと

おなじばしょにむかうひとがなん人もいて

みんなながれて ひとつにすいこまれていく。

のが みえた。


いりぐちの鉄のおもいとびらをあけると

ほとんどまっくらな通路があり 奥にもうひとつ

レバーのついたじゅうこうなとびらがあった。


そのとびらを 前にいたボブヘアーのおんなのこの

さらに前にいたおんなのひとがあけると

すきまから その日開演されていたライブの爆音が

まるでパンドラの箱からこの世の災いがとびだすみたいに

いっきにこぼれでて

凶子はびっくりして おそろしくなり

すぐにとじてしまいたくなったが

おんなのひとはためらいもなく なかへと入ってしまった。



ねえボブ、 いま "かなしみ" みたいのがとびでてったね

凶子はこころのなかで 目のまえで

ひまそうにスマホをのぞいている少女に共感をもとめるが

少女はだまったまま

つづいて なかへ入っていった。



くらい通路で 凶子がひとりぼっちになっていると

うしろからきた背のひくい男の子が

かわりにとびらを開けようとしてくれて

それと同時に がちゃんと音がしたとおもったら

さっきのおんなのひとが すっきりとしたかおで現れて

岩のすきまをぬけるたこみたいに出ていった。


男の子にどうぞとされて おそるおそるはいると

すぐに受付カウンターがあり そこに立っていた

めがねのおとこのひとが

「あ、すぐしめて!しめて!」とあわてて言った。

凶子はあわててうちがわから おとこのこがそとがわから

とびらをしめた。



凶子のじゅんばんがくると

めがねはこちらがなにかを言うまえから

もうわかっているように「これやね」と口ぱくで

めあてのチケットをちらつかせた。

凶子はうなずいた。



整理番号は42ばんだった。



かえりの電車のなかで

つごうがつかずこのライブに行けないのりおに

LINEでほうこくすると

すぐに返事がきて

さんざんうらやましがられつつも

「42(しに)やってー」と いやみをいわれる。




ふん。


凶子は "たのしみ" と 空にいって

電車をおりた。






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― 新着の感想 ―
[一言] 新作お待ちしておりました よいですね。面白いです 今回はちょっと雰囲気が変わって新鮮ですね なんとなくですが、樋口一葉を感じてしまいました リズム感かな
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