望まれない子供
俺の命は長くない。もう間もなく殺される。
なぜなら俺はスキルを発現することが出来なかった、一族の恥だから。
出来損ないの能無しを生かしてくれるほど、俺の家族は優しくない。
「……お前も、失敗作か」
あのときのゴミを見るような父の目は、今でも忘れられない。
父の中で俺の評価が、息子から――役立たずの不良品へと変わった瞬間だ。
「ち、父上! 待ってください!」
「気安く父と呼ぶな。貴様などもう私の息子ではない。今このときより貴様はヘイムダル家の者ではなく、部外者だ」
「けど、スキルがなくても父上のために――いや、王国に貢献できる立派な人間になるから……だから、お願いだ! 俺のことを見捨てないでくれ!」
「では……どう貢献するというのだ?」
俺はアルマ。ヘイムダル領を治める貴族の八男として生まれた。
表向きはただの貴族だが、裏の顔は違う。
王国にとって都合の悪い者たちを秘密裏に消したり、非人道的な実験をする王国の闇を背負って立つ血塗られた家系。王国の暗部だ。
その次期当主になるために、俺は優良なスキルを宿すことを望まれていた。
この世界では15の成人の儀を境に、スキルを得ることが出来る。
俺には大勢の姉と兄がいたが、もうこの世にはいない。スキルを発現した一個上の兄を除いて、皆処分されてしまった。
そして彼らと同様に、スキルの発現しなかった俺の――失敗作の末路は決まっていた。
でも俺は、兄上や姉上のように、いらないものになりたくない!
「そ、それは……どうしたらいいのかわかんないけど、でも……俺、何でもするよ!」
「ほう、何でもすると言ったな。その言葉、嘘偽りないな?」
「は、はい!」
……軽はずみにそんなことを言ってしまったのが運の尽きだった。
父上の抱える怪しい黒フードをかぶった魔術師たちに、屋敷の地下にある薄暗い地下牢に閉じ込められる日々が続いた。
待っていたのは、死ぬまでスキルを無理矢理生み出す人体実験に課される日々――。
食事は、水とネズミの肉と、泥みたいな味のするパンだけ。
たまに牢の外に連れ出されたかと思えば、兄に技や武器の実験台として切り刻まれたり、よく分からない投薬実験をされたり、全身をいじくられたり、内臓をかき回されたり。
俺が死にそうになれば治癒魔法で生き永らえさせられたり。
そんな地獄のような、実験動物扱いの日々が続いた。
どのぐらいの歳月が経過しただろうか。
気の遠くなるような痛みの果てに、俺にスキルが目覚めた。
その名は――
(配合士だと?)
得体の知れないスキルだ。
見たことも、聞いたこともない。
けれどもしかしたら物凄い力かもしれない。そうすれば父上の――いや、王国の役に立てるかもしれない!
そう思って期待に胸を膨らませていたのだが、ヘイムダル家お抱えのスキル鑑定士は俺を鑑定するなり、ため息をついた。
「配合士……これはモノとモノを混ぜ合わせて、より強い物体を作り出す力ですな。私も初めて目にしましたが……出来ることといえば、錬成士と似たようなものでしょう。これが商人の子ならば伸びしろはあったでしょうが」
「ふむ……やはりお前も駄目だったか。実に期待外れであった」
それを聞いて、父が深く落胆した声で言った。
そう……どれだけの苦しみと痛みを味わっても、魔術師たちの実験は成功することなく、俺に望まれたスキルは身につくことはなかった。
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