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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~
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第五十八話 激突グエンナ隊 レットVSエンゲ



 ジニの到着を見て、カイルは胸をなでおろした。

 赤子を抱えたカルスが魔王軍のカルゴと対峙し、ミアが身を挺して守ったときには肝を冷やしたが、カイルが助けに行くわけにはいかなかった。


 それどころか、よそ見をしているだけでも命取りの状況だった。

 カイルの目の前では、大木のごとき大剣が小枝のように振るわれ、唸り声をあげて風を切っていた。

 巨大な刃が竜巻のように振り回され、カイルは必死に身をかわし、ギリギリのところで避けていた。


 小隊長グエンナは、魔族の中でも破格の巨体を持っている。しかもただの力自慢ではない。速く、そして正確だった。

 身の軽さでは、ロメ隊一の自負があるカイルの動きにも難なくついてくる。

 ただ力任せに振るっているような剣も、剣術として組み立てられて隙がない。完成された戦士の姿だった。


 そして強いのはグエンナだけではなかった。

 鞭を持つラビオに対してはシュローが戦っているが、なれない武器に近づけないでいる。

 槍を振るうバーナも強敵だ、鋭い突きの嵐にメリルがてこずっていた。

 エンゲが放つ指弾は、威力は低いが見切りにくい。腰に剣を帯びているが、使うつもりはないらしく、指弾だけで戦っている。対するレットは致命傷こそないものの、体中に被弾し、血を流していた。

 魔法を使うカルゴは、この中で一番弱そうに見えた。寄れば倒せるのだろうが、次々に魔法生物を生み出し、ジニを近づけさせない。

 幸いなのはミアをカルスが抱え、この場から逃げたことだが、二人を助けるためにも、早急にこの敵を倒さなければならなかった。


「どうした、よそ見とは余裕だな」

 グエンナが大剣を振り回す。獲物を振るう風圧だけで吹き飛ばされそうだ。

 カイルが見るに、グエンナは遥か格上の相手。他の四体の魔族も全て、カイルたちを上回る力を持っている。


 そもそもカイルたち五人はロメ隊の中でも小柄の部類に入り、体格のいいアルやレイ、力自慢のオットー、グランやラグンのように技量が秀でているわけでもない。戦場では仲間たちの補助や遊撃に回り、正面からの戦いよりも、偵察や潜入を得意としている。格上の相手に一対一の勝負は分が悪かった。


「悪いが、お前の相手は後だ」

 カイルは後方に宙返りし、大きく後ろにさがる。同時にシュロー達四人も下がり、カイルを中心に扇形に集う。


「どうする? カイル」

 メリルが問う

「俺が援護する。合図とともに迷わず進め」

 カイルが素早く指示を出す。そのカイルたちを見て、グエンナは強者の余裕か、大剣を肩に担ぎ笑って見ていた。


「おっ、なんかやる気か? いいぞ。見せてみろ」

 笑うグエンナをよそに、カイルは腰から投擲用の短剣の束を取り出す。

 薄いひし形の短剣が、五本重ねられている。その束が三つ計十五本。手元の短剣を含めると投擲用の短剣は残り十八本。

 手に馴染んだ短剣を握り締め、カイルは五体の魔族を見据える。


「散!」

 カイルの合図とともにシュロー、ジニ、メリル、レットの四人が、それぞれの相手に向かって突撃する。

 その背後でカイルは動かず、重ねた五本の短剣を空中に放り投げた。

 投げられた短剣は、羽のように空中に広がり大きな円を描きながら落ちてくる。


「おおっ」

 大道芸でも見たかのように、グエンナが歓声を上げる。

 落ちてくる短剣をカイルは受け取ると同時に次々に投擲していく。ほぼ同時と言ってもよい五本の流星。その刃が向かう先は、前を走る仲間達だった。

 疾走する仲間にめがけて放たれた短剣は、仲間からわずかにそれ、その奥にいる魔族めがけて襲い掛かる。


「なっ」

 投擲された短剣を、ラビオたちは武器を振り弾き落とす。しかしその間にシュロー達が距離を詰める。迎え撃とうとした瞬間、後方のカイルが再度短剣の束を空中に放り投げ、第二射が放たれる。

 投擲された刃はシュローの耳をかすめ、ジニの脇の服を切り裂き、剣を振り上げるメリルの腕の間を通り抜け、レットの目の前を駆け抜けた。


 接近戦と投擲の同時攻撃。グエンナ以外の魔族には、両方を迎え撃つことが出来なかった。

 大剣を持つグエンナ以外は、どれも間合いが命の獲物ばかり。一射目のように短剣を武器で弾いては、シュロー達に詰め寄られる。


「なめるな!」

 紅一点のラビオが一喝し、放たれた短剣を無視して、向かってくるシュローに鞭を振るう。

 短剣の一撃を受けても死ぬことはないと、傷つくことをいとわない戦士の選択。

 槍を持つバーナも同様の選択をして、短剣を身に受けながらも、メリルに向かって槍を放つ。


 シュローが鞭に打ち据えられ、メリルが槍を受ける。だが同様の選択をできなかったのが、指弾を使うエンゲと魔法職であるカルゴだった。

 特にエンゲが使う指弾術は、繊細な指の動きが命。腕に短剣を受ければ戦えなくなる。


「そうは、させるか」

 エンゲは後方に跳躍しながら、手に持っていた指弾用の礫を破棄し。腰に回した剣を抜く。

 投げられた短剣を剣で払い落とし、同時に迫るレットをけん制する。

 レットは剣を振るうも、ことごとく弾かれる。


「腰の剣が飾りだと思ったか? 剣は苦手でも、それでもおめーらよりは使えるんだよ」

 エンゲが爬虫類の口を開いて笑う。

 相対するレットは一歩後ろにさがり、自分の顔の横に左手を広げて掲げた。


「なんだその手は? 降参のつもりか?」

「そんなところだ」

 レットは自らの不覚を認めた。

「剣の腕じゃぁ、お前の方が強い。それは認めよう。でもな」

 レットは掲げた手を動かさず、エンゲを見る。

 エンゲが怪訝に眉をひそめた瞬間。その左目に短剣が突き刺さった。


「ああ?」

 目に刃を受けたエンゲは、混乱しながらも残った右目で刃が来た先を見た。

 レットが掲げた手、その指と指の間から、後方にいるカイルの姿が見えた。


 掲げた手で投擲された短剣を隠した!


 驚愕に包まれるエンゲに、レットが渾身の突きを放つ。

 レットの剣はエンゲの着込む鎧を貫き、胸を切り裂く。


「いっ、いくらなんでも、正確すぎだろ……どうかしてる」

 エンゲは倒れながら驚嘆の言葉を吐いた。

 この距離で指の間を通したこともそうだが、仲間を信じて手を掲げている方も信じられなかった。


「剣の腕は確かにお前の方が上だが、投擲術はうちのカイルの方が上だったな」

 倒れたエンゲの上に、レットのつぶやきが響いた。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記が発売されました。

小学館ガガガブックス様より発売中です。


最近更新が遅れ気味で申し訳ありません、これからも頑張りますので、よろしくお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
[一言] こいつらはなんで戦ってるのか分からない…。
[気になる点] 魔族は50人いたはずだけど残りはどうしたんだ?炎で焼け死んでくれたならいいけどそうもいかないよな [一言] 強敵との戦いの中でどんどん覚醒していくな
[一言] カイルすげぇ 神業やん 他の四人もヤバイな
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