表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~
95/410

第五十七話 グエンナ隊の魔の手



 城館の中庭で倒れる住民を助け起こし、カルスは逃げるよう促した。

 住民はふらつきながらも起き上がり、互いに助け合いながら裏門を目指す。中庭に倒れていた住民の歩みは遅いが、逆に押し合うことなく避難が出来ているため、先ほどまでよりはまだましだった。


 カルスは周囲に残った住民がいないかどうかを確かめる。死んでいる者以外は、互いに助け合い裏門へと向かっていた。ソネットを抱えた自分も逃げなければいけないが、住民を置いてはいけなかった。


「頑張れ、急ぐんじゃ」

 カルスは最後尾の住民に肩を貸し、声をかけた。その直後、背中に激痛が走り、カルスは前に倒れた。

 痛みに跪くカルスに、肩を貸した住民が背後を振り返り悲鳴を上げた。

 カルスも肩越しに背後を見ると、杖を持つ魔王軍の兵士カルゴが立っていた。カルスは足元を見ると、黒い礫が転がっているのが見える。


「お前たち、逃げろ」

 カルスは立ち上がりながら剣を抜き、カルゴと対峙する。

 魔族を見て住民たちは恐れをなし逃げていく。逃げる住民を魔王軍の兵士カルゴは追おうとはせず、カルスを見てにやにや笑っていた。


「やぁ、ご老体。そのいでたちから、どこかの貴族とお見受けしたが、おしめを代えながら戦われるおつもりかな?」

 カルゴはカルスの腕の中で泣くソネットを見る。

 すぐに半身の構えをとって、カルスはソネットを隠すが、赤子を抱えながら戦いなどできるものではなかった。


「まぁ、そっちの事情は関係ないし、好きにされるとよかろう。儂は小隊長の命令通り、敵を倒すだけよ」

 カルゴの言葉を聞き流しながら、カルスは背後を見て、ソネットを託せる住民を捜した。だがすでに誰もが逃げており、託せる相手は誰もいなかった。


「では行くぞ。ほれ、ほれほれ」

 カルゴは杖に光をともすと、黒い礫を数個ずつ放ってくる。

 カルスはとっさに体でソネットをかばう。たった数回攻撃を受けただけで、カルスは全身血だらけとなっていた。

 体が思うように動かず、避けることすら敵わなかった。

 カルスは血を吐きながら剣を大地に突き刺し膝をつく。


「おや、もう終わりかな? ご老体。まぁ、老体は互いに一緒だが」

 カルゴがけらけらと笑う。魔族の歳などわからないが、口ぶりを聞く限り、年を取っているようだった。

 しかし情けなかった。まるで体が言うことを聞かない。若い頃ならば少なくとも避けることはできただろうに。


「さて、面倒だが、逃げた者を追いかけるか」

 すでにカルスを倒した気でいるカルゴは、住民が逃げた裏門を見てつぶやく。だがその杖はカルスに向けられており、杖の先には光がともり、魔法を放つ準備は整えられていた。


 カルスは自分の最後を呪った。今更自分が生き残ろうとは考えていない。しかし赤子一人助けることが出来ない自分が、無念で仕方がなかった。せめてソネットだけでも誰かに託したかった。それさえできれば、自らの命など惜しくはないのに。

 カルスは自分の無力さに目を伏せる。礫の魔法が放たれ、鮮血がカルスの顔を覆った。


 だが痛みはなく、顔にかかった血は自分の物ではなかった。

 驚いて顔を上げたカルスの目に飛び込んできたのは、修道服を着た女の姿だった。

 女が身を挺してカルスをかばったのだ。しかし鎧を着ているカルスならまだしも、ただの女があの魔法を受ければ――

 カルスをかばった女がその場に崩れ落ちる。その顔を見てカルスはただ驚いた。


「なぜじゃ、お前は」

 カルスは自分をかばった女の顔に見覚えがあった。それは捕らえた癒し手の女、ミアだったからだ。

 だが分からない。自分はこの女を捕らえて拷問したのだ。恨まれる覚えはあっても、助けてもらう理由がない。


「どうして、なぜ助けた」

 カルスにはなぜミアが、自分を助けたのかわからなかった。

 いや、そもそもなぜここにいるのか? どさくさに紛れて逃げ出したのなら、なぜ真っ先に逃げない。

 倒れたミアが体中から血を流しながらも起き上がった。その瞳はカルスを、その腕にいるソネットを見ていた。

 その顔には間違いなく安堵の表情があった。この状況でミアは自分ではなくソネットを気遣っているのだ。


「うーむ、敵である儂を無視して何やら感動的な場面じゃの。しかし若人よ。一つ言っておくと、年長者を無視するでない」

 カルゴが魔法の礫を再度放つ。その魔法はわざと直撃させず、カルスや女の体をかすめ痛めつけるように放っていた。


「大体だ、わしはそういうのが嫌いなんじゃ。戦場の中で気づかいや優しさ、気高さとかを持ち込む輩が」

 カルゴは顔を歪めながら、ミアを見て吐き捨てた。

「戦場に不純物を持ち込むでない。戦場は純粋に殺し合いを楽しむ場所だ。卑怯や狂気は良くても誇り高さとかいらん」

 独自の理論を展開するカルゴは、新たに魔法を杖の前に浮かべた。

 黒い礫が放たれると思いきや、杖にともされた光からは、奇妙なものが杖の先から生み出された。

 それは子猫ほどの大きさの、小型の竜だった。


「なんだ、それは?」

 カルスは見た物が信じられなかった。カルスの知る魔法とは、炎や電撃を操り爆発を起こすものだ。生命を作り出すなど聞いたことがなかった。


「ああ、そういえばお主たちの魔法は遅れているんだったな。儂は礫を飛ばすなどよりも、こういう魔法が本来の専門でな」

 カルゴが話す杖の先では、産み落とされた小型の竜が、鋭利な牙を並べた口を大きく開き叫んでいた。まるで本当に生きているように、それぞれが動いている。


「肉を与え、疑似的な生命を生み出す魔法だ。別にこやつらに餌を与える必要はないんじゃが、おぬしらのように戦場に余計なものを持ち込んだ輩には、ちょっとした罰を与えることにしておる。ほれ、お前たち。そこの二人と赤子を食い殺せ。体を齧られ、食い殺されれば優しさや気高さなど、何の意味もないと知れよう。戦場で慈悲の心を出したことを、後悔しながら死ぬがよい」

 カルゴの言葉に、小型の竜たちが温度のない瞳でカルスたちを見る。

 そして獲物と見るや、一斉にとびかかってきた。


「くそ、来るな」

 カルスは剣を振るい小型の竜を倒そうとしたが、小さいうえ俊敏な竜はカルスの剣を跳びはねて避け、カルスの手足にかみつく。女の悲鳴が聞こえ、ミアの手足にもかみついていた。


「離れろ、離れんか」

 カルスが剣を振るい、ミアを襲っていた竜を追い払う。その時ようやく一匹をしとめることが出来たが、生み出された竜は数が多かった。小型竜は小さく弱いが、こちらの体力を奪う程度の力は持っている。

 このまま体を齧られ出血が続けば、そのうち動けなくなる。そうなれば本当に体を齧られ死ぬこととなる。致命傷を与える力がないだけに、その死は長く苦しいものとなることが容易に想像できた。


「くそ、くそ、くそ」

 カルスは闇雲に剣を振るったが、ただ空を切るばかりだった。

 疲労から剣を地面に突いたとき、一斉に竜たちがとびかかってくる。

 カルスは死を覚悟したが、次の瞬間、小型竜の背後から黒装束の兵士が現れ、刃をきらめかせた。

 銀光一閃。カルスの目に見えたのは初太刀のみ。その後いくら刃が放たれたのか、とびかかってきた小型竜の首が全て落とされ、地面に落ちていく。


「無事ですか、ミア様」

 一瞬で小型竜を切り伏せた兵士は、カルス達を背にしながらミアの安否を確かめる。

「ジニさん」

 ミアが兵士の名前を呼ぶ。遅れて現れたのは、ロメ隊が一人ジニだった。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記が発売されました。

小学館ガガガブックス様より発売中です。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] そもそも赤ん坊連れで避難の時点でなあ…… 仮に隠れてやり過ごす必要が出て来た時に、泣き出して見つかるリスクを上げる愚行。 ミカラ領の跡取りに関しても、ソネアの身の安全を確保すればいいだ…
[気になる点] 作品は面白いけどカルスにカルゴにカーラにカイルって、名前似過ぎで区別つかないよ!!!!字数を変えたりして名前の種類に幅持たせて!!とツッコミ
[気になる点] ミアがいい子すぎて辛い もう十分過ぎるくらいミアは辛い目にあったんだからこれ以上痛めつけないで欲しい、ストレスが溜まるからはやくカタルシスパートに行って欲しい。カルスはここに来て自身の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ