第五十一話 手紙の価値は
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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ガットはハメイル王国からの手紙を確保するため、炎獅子号の中に潜り込んでいた。炎に巻かれ、脱出が遅れたとすれば……。
私は歯を噛み締め、アルが拳で船縁を殴る。レイも顔を俯かせる。だが項垂れる私達の耳に、間の抜けた声が響く。
「おお〜い、誰か〜! 助けてくれぇぇぇ~」
その声は左弦前方から聞こえてきた。私はアルと目を見合わせ、左弦に広がる海を見る。しかし先程も確認したが、海には誰も浮かんでいない。沈もうとしている炎獅子号があるだけだ。
「おおい、こっちだ! 下だ、下!」
私は声に言われるまま、船の真下を覗き込んだ。すると銀翼号の錨に、ガットがしがみついていた。
「ガット! お前、そんなところで何してる!」
「アル! 助けてくれ、海に落ちるわけにはいかないんだ!」
叫ぶアルに、ガットが錨にしがみつきながら叫び返す。
すぐに縄が下ろされ、ガットが回収された。
「ふぅ、助かった〜」
縄を上ってきたガットが、甲板に尻餅をつく。そこへポーラさんが駆け寄り抱きついた。
「ポーラ?」
「馬鹿! なんだってあんなところに! 私がどれだけ心配したか!」
ガットの胸に顔を埋めながら、ポーラさんが鼻をぐずらせながらも叱る。
「……すまん」
ガットは左手でポーラさんの頭を優しく撫でた。
私達が温かい目で二人のやり取りを見ていると、ガットはおもむろに右手を自分の胸と服の間に突っ込む。右手が引き戻されると、指の間には一通の手紙が挟まれていた。
「ロメリア様、ハメイル王国からの手紙って、これですか?」
ガットが手紙を差し出す。その封筒の封蝋には、翼を広げた大鷲の意匠があしらわれている。ハメイル王国の紋章だ。
「ガット、見つけたんですか」
私は手紙を受け取り、中身を確認する。ガットが海に飛び込まず錨にしがみついていたのは、この手紙を濡らさないためだったのだ。
中を確認した私は、ガットに対して頷く。これぞハメイル王国が私を誘拐するように指示した証拠だ。
「字が読めると、確かに便利ですね」
ガットが右手で鼻の下を掻く。これで証拠は揃った。
「さて、聞いてのとおりです、ボーンさん」
私はボーンに目を向ける。縛られているボーンは顔を歪めた。
「そ、そんな手紙がなんだってんだ、たった一通の手紙で、何が出来る」
「確かに、手紙一枚で国家が揺らぐことはないでしょうね」
吐き捨てるボーンの言葉を、私は頷いて肯定した。
言ってしまえばたかが手紙一枚だ。この手紙を元にハメイル王国を告発しても、海賊が勝手に偽造したものだとハメイル王国はしらを切るかもしれない。
「この手紙が公表されたところで、ハメイル王国は大して困らないでしょう。ですが、貴方達は違いますよね」
私は満面の笑みをボーンに向けた。するとボーンの顔にさらなる苦渋が浮かぶ。
手紙が公表されればハメイル王国は真相を闇に葬るため、ヴァール諸島との関係をなかったことにするだろう。
これまでヴァール諸島は、ハメイル王国の庇護の下で好きにやってこられた。だがその後ろ盾を失うのだ。
話を聞いていたモーリス船長がニヤニヤと笑う。
「おうおう、大変だなボーン。言っておくが、落ち目になるってのは辛いぜぇ」
モーリス船長の言葉を聞き、ボーンは歯を噛み締める。
「ところでボーンさん。私達の仲間にならないかと誘いましたが、あの誘いはまだ有効ですよ?」
私は手紙をちらつかせながらボーンを見る。
「この手紙は公表しないであげます。その代わり……」
「分かったよ! お前の国の船は襲わない! これでいいか!」
「よく出来ました」
憎々しげに叫ぶボーンに対し、私は笑って頷いた。
メルカ島との交渉が上手く行っただけでなく、ヴァール諸島の弱みも握ることが出来た。実に有意義な時間だった。
「さて、帰りましょうか」
私の声がメビュウム内海の空に響いた。




