第五十一話 圧殺
今日はちょっと短めです
申し訳ない
ロベルク同盟の兵士百五十が、隊伍を組み丘の上に布陣する魔王軍に向かっていった。
カルスは城館の塔の上から、進軍する兵士たちを見下ろす。
魔王軍の数はたったの五十。三倍以上の数を前にしても、魔王軍は逃走の素振りを見せなかった。それどころか、横に広がり横陣を敷いた。
「なんだ、あの陣形は」
居合わせたロベルク同盟に加わる領主の一人が、魔王軍の陣形を見て笑った。
無理もないと言えた。魔王軍が敷いた横陣の列はたったの一列。後方に数人残しているだけで、残り全てで一列の横陣を敷いた。
これでは陣形と言うより、ただ横に並んだだけだった。
「所詮はトカゲ共よ。碌な陣形を知らんのだ」
「なんと、あんな敵相手に、王国軍は手を焼いているのか」
魔王軍のお粗末な陣形を見て、他の領主たちも笑っていた。カルスも笑いはしなかったが、魔王軍の動きを見て勝利を確信した。
あんな陣形で、我らが誇る精鋭部隊の突撃を防げるわけがない。すでにカルスの脳裏には、凱歌を上げる兵士たちの姿が幻視出来ていた。
「カルス様、カーラ様が来られました」
護衛の兵士が、妹がやってきたことを告げる。
「カーラが? まぁいい、通せ」
カルスは面会を許可した。
戦時に相手をしている暇は無いが、カーラは常々自分のやる事に反対していた。ここでロベルク同盟の力を見せておくべきだった。
カーラが扉を開けて入ってくる。その顔色は白く顔は凍り付いたように張りつめている。
カルスはカーラの腕を見た。妹の手の中には何も抱かれてはいなかった。
「ソネットはどうした?」
「侍女に預けてありますのでご心配なく」
姪の姿がないことをカルスが問いただすと、カーラはそっけなく答えながら進み出て、窓の側による。塔の上からは、ミカラ領と丘に広がる魔王軍の姿がよく見えた。その魔王軍に向かって進む、勇壮なるロベルク同盟の姿も。
「戦争が始まるのですね、貴方の望んだ」
「ああ、見ておれカーラ。我らがロベルク同盟の力を。もっとも、戦いにすらならないだろうがな」
「ええ、そうさせてもらいましょう」
自信満々のカルスの言葉に、カーラは温度のない声で答えた。
そして事実、戦いにすらならなかった。
雄叫びを上げるロベルク同盟の兵士たちが、横に広がった魔王軍に向かって突進して激突する。
だが両者の激突は、例えるなら突進する大根と、待ち受けるおろし金のようなものだった。
先頭から二列目を走っていたロベルク同盟の兵士は、先陣を切る兵士の背中を見ていた。
そして前を進む兵士が魔王軍とぶつかり合った瞬間、ほんの数歩前を走っていた兵士の上半身が突然消えた。空を見上げれば、空中には人間の顔や手足が空を舞い、血しぶきが降りかかっていた。
二列目を走っていた兵士は、自分が目にした光景の意味を知る暇もなく、先頭と同じ運命をたどった。
そして三列目も、四列目も、前で起きていることを知る暇もなく、自ら進んですりつぶされに行った。
運良く。いや、運悪く即死しなかった者達だけが、腕を失い、腹から内臓をこぼしながら、何が起きたのかを知った。
敵は、自分たちが戦おうとしている相手は、まさに悪鬼だった。
その体は見上げるほど大きく、腕は丸太のように太い。手には長大な刃や槍、斧を持ちながら、まるで小枝のように振るい、武装した兵士たちを枯草のように薙ぎ払っている。
全身が返り血に真っ赤に染まりながらも、まだ血が足りぬと顔にかかった血を嘗め回し、残忍に笑いながら得物を振るう。
生き残った兵士が周囲を見れば、そこは地獄の園と言えた。血が川となり死体が山となって積み重なる。千切られた手足と頭が転がり、臓物が投げ出されている。
目の前で起きている地獄が受け入れられず、生き残った者たちが悲鳴を上げようとしたが、その前に止めの一撃が放たれロベルク同盟の兵士百五十は、一人残らず全滅した。
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