表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~
88/410

第五十話 カーラの決意



 仲間の説得を終えたカイルは、地下牢で待つミアのところに戻り、膝をついた。

「ミア様。貴方の望むままに、行動することを約束しましょう。しかし我らは五人しかいません。できることは限られています。それで構いませんね」

「はい。もちろんです。無理を言ってすみません。ですが……」

「謝る必要はありません。ロメリア様がここにいらっしゃれば、同じことを命じたでしょう」

 カイルは謝罪するミアの言葉を遮った。

 ミアはカイル達に命を賭けろと言ったが、一方でカイルたちの尊厳を救いもした。もしあのまま逃げていれば、その逃走は一生の汚点となり、ここにいる五人のその後をゆがめていたことだろう。


「ですが、我々が命じられた仕事は、貴方の救出です。そこだけは完遂させていただきます。シュロー、お前はミア様を必ずお守りするんだ。いいな」

 カイルは仲間のシュローに、ミアの護衛を命じた。

「シュローと共に裏門の近くで隠れていてください。裏門を開け、人々を逃がします。その列に紛れて逃げてください。いいですね」

「わかりました。ありがとうございます」

 ミアはうなずき礼を言うと、シュローがその体を抱え運んでいく。シュローの背中を見送った後、カイルは残った仲間を見た。


「よし、俺たちもいくぞ」

「それは構わないが、どうやるんだ?」

 カイルの言葉に、レットが問う。

 戦うにしても相手は強く数が多い。決死の覚悟で挑んでも、相打ちがせいぜい。うまく行っても四人殺したところで終わる。城館にいる人々は救えない。


「城館に火を放ち、魔王軍を足止めする。その隙に民衆を裏門から逃がす。追われないように橋も落とす」

「火攻めか、悪くないな」

 カイルの策に、メリルがうなずいた。

「だが火を乗り越えて、追いかけては来ないか?」

 ジニが危険性を指摘した。

 魔王軍の戦意は信じられないほど高い。炎程度で、魔族の心がくじけるとは思えないのだろう。


「多分大丈夫だ。連中は腕が立つ。だがだからこそ、焼け死ぬなんて選ばないだろう」

 カイルは、魔王軍歴戦の戦士の心理を読んだ。

 一番死にたくない死に方は? と戦士に問えば『焼死』という答えは割合と多く返ってくる。

 焼死は苦しいだけではなく、見た目にもみじめだ。何より刃がまるで通じない。

同じ死ぬなら、名のある武将との一騎打ちや、大軍を前に討ち死にすると言った死に方を選ぶのが戦士だ。


「ミカラ領に戦略的価値があるとは思えない。この戦いは、連中にとっては遊びだ。遊びで死にたくはないだろう」

 なるほどとレットはうなずく。


「ジニ、ここに爆裂魔石が二つある」

 カイルは懐から二つの爆裂魔石を取り出した。

「ロメリア様が持たせてくれたものだ。これを全てお前に預ける。何に使うかはわかるな?」

「わかっている、橋を落とすんだな」

 ジニは心得たと爆裂魔石を受け取った。


「ああ。だが場合によっては、逃げている人々がいても、橋を落とすんだぞ」

 カイルの言葉に、ジニは一瞬体を硬直させた。

「……わかっている、わかっているさ」

 ジニは体を震えさせながらうなずいた。


 逃げ遅れた人々を助けたいがために、橋を落とすのが遅れて魔王軍の通過を許せば、逃げ延びた人々すら危険にさらす。橋を落とす役目の者には、ぎりぎりの判断が求められる。

「お前はこのあと裏門の近くで待機していてくれ。俺たちが火を放つと同時に裏門を開けて人々を逃がすんだ」

「わかった」

 自らの使命に、ジニは顔を硬直させながらうなずく。


「メリル、お前は油の確保だ。ありったけ集めてくれ。そしていつでも火をつけられるように準備を頼む」

 カイルの言葉にメリルがうなずく。

「レットお前は俺と一緒に来てくれ。カーラ様の所に行く。俺達だけでは人々を逃がすことが出来ない。カーラ様の助けがいる。それにあの方も助けなければいけないからな」

 カイルは手早く仲間に指示を与える。


「よし、行くぞ! この後どうなるかわからないが、ともにロメリア様の前で会おう!」

 カイルが拳を突き出すと、残りの三人も拳を突き出して合わせた。


 一斉に行動を開始した四人は、地下道を抜け出すと迷うことなく分散し、それぞれの仕事と持ち場を目指した。

 ジニは裏門を、メリルは油を求めて倉庫を、カイルとレットは中庭を目指した。

 突然現れた黒装束の兵士を見ても、逃げてきた人々や城館にいた兵士たちは驚きもしなかった。

 何せ今は、外には魔王軍が来ているのだ。同じ人間を相手にしている余裕は誰にも無かった。

 その好機をカイルは存分に利用した。


「おい、お前」

 カイルは城館にいた兵士に堂々と声をかけた。

「な、なんだお前は」

 突然現れた黒装束の兵士に声を掛けられ、ミカラ領の兵士と思しき男は動揺したが、カイルは厳しい声で叱咤した。


「私はカーラ様から直々に密命を帯びた特務兵だ。カーラ様はいずこか? 急ぎ報告することがある!」

「え? 特務? カーラ様が?」

 そんな兵士がいると聞いていないと、ミカラ領の兵士は目を白黒させたが、カイルは動揺が収まるのを待たなかった。


「事態は一刻を争う! 敵が来ているのだぞ! 早くカーラ様の居場所を教えろ!」

 カイルが一喝して問いただすと、兵士はおびえた目で城館にある塔を見た。

 ミカラ領の城館には、四方に四本の塔がある。そのうちの一本だった。


「カ、カーラ様なら東の塔におられるはずだが」

「よし、東だな!」

「ま、待て、お前たちは!」

 兵士が制止の声を上げていたが、カイルは無視して東の塔を目指した。


 東の塔は碌に警備の兵がついておらず、塔の中も避難した使用人が集まっているだけだった。

 塔に飛び込んできたカイルたちを、使用人たちは驚きながらも誰何せず、ただ震えていた。

 カイルたちは使用人たちの間を抜けて階段を上り、塔を上り最上階にたどりつく。

 扉を開けて中に入ると、そこには数人の男女がいた。護衛の兵士が三人、侍女と思しき女が一人。そしてミカラ領の女主人であるカーラその人がいた。その腕には愛娘であるソネットを抱いていた。


「何者か!」

 突然現れたカイルたちに、兵士ではなくカーラ自身が鋭い声で問いただした。

 カイルとレットはすぐさま片膝をついて、戦意がないことを示した。

「火急にてご無礼を許されよ、私はロメリア様が配下の一人、カイルと申します」

 カイルが名乗ると、カーラは破顔した。


「ああ、ロメリア様の。ミアさんを助けに来たのですね。ソネアの脱出が見つかり、ミアさんがまた囚われたと聞いて心配していたのです。今この城館は魔王軍の攻撃にさらされています。この隙に早くお逃げなさい」

 カーラは安堵の声と共に、脱出するように進言した。


「そのミア様が、我らにミカラ領を助けよと命ぜられました」

 カイルはありのままを語った。その話を聞き、カーラはしばし瞑目した。

「そう、ミアさんが。あの人は、どこまでも……」

 カーラは唸り、感銘のあまり続きを言えなかった。


「我らも、ソネア様の故郷を助けたくここに参りました。どうか、我らが戦うことをお許しください」

 カイルは頭を垂れた。

「……カイルと言いましたね。ここは落ちますか?」

 カーラに問われ、カイルは事実を答えるしかなかった。

「はい、この城は落ちます。同盟軍では魔王軍に勝利することはできないでしょう」

 カイルの言葉に、侍女が悲鳴を漏らして涙を流す。そばにいた兵士も俯いていた。


「ですが生き延びさえすれば、ロメリア様が何とかしてくれるはずです。今はお命を優先してください。屈辱かもしれませんが、落ち延びて再起を図りましょう」

「……わかりました。お前たち、カイルさんの命じる通り動くのです」

 カーラは護衛の兵士に指示を出した。

「キュロット、貴方はソネットをお願いします。いいですね、頼みましたよ」

 侍女を呼び、カーラは、腕に抱いた赤子を手渡しながら、きつく命じた。


「奥様!」

 ソネットを受け取った侍女が涙をこぼすが、カイルはここを今生の別れにするつもりはない。

「カーラ様。このレットをつけます。貴方様はお逃げください」

 カイルは最後に残した仲間を護衛に付けるつもりだったが、カーラは首を振った。

「いいえ、私は北の塔にいるカルスと話があります。貴方たちは自分の使命を果たしなさい。いいですね」

 カーラの言葉にカイルは逆らうことが出来ず、ただうなずいた。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の報告などありがとうございます。

ロメリア戦記の書籍化が決定しました。

小学館ガガガブックス様より六月十八日発売です。

これもすべて皆様のおかげです。これからもよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
え?任務を遂行する(逃げるとか言っていますが)のと、市民を橋ごと爆破するのと、どちらを恥じるのでしょうね?
[気になる点] 北部同盟では?
[気になる点] カーラさん残る気かなぁ [一言] たとえ逃げてもロメリアは責めないしそれどころか逃げるよう命令すると思うけど実際のロメリア像がどうであるかは関係なくて戦士として何もせずに敵前逃亡するっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ