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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 メビュウム内海編~港を造って交易をおこなうことにした~

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第四十七話 炎獅子号⑤

ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!

ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。

こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。



 甲板にジニの血が零れ落ちる。しかし血を流すジニの瞳に揺るぎはない。対して、傷つけたアンの方が動揺していた。

「何故、どうしてここまでする!」

 アンは信じられないと叫ぶ。するとジニの目が僅かに細められた。

「……すまなかったなぁ、ゼゼ」

 語られたのは、ジニの後ろで蹲るゼゼに向けた言葉だった。


「何を?」

 アンはわけが分からず問い返すが、ジニは構わず続ける。

「昔、お前が親父に殴られていること、俺は知っていたんだ……」

 ジニの言葉の意味を、ほとんどの者は理解出来なかっただろう。だが事情を知る私は理解出来た。ゼゼとその妹は子供の頃に、父親から日常的に暴力を振るわれていたという。そしてその結果、ゼゼの妹は死んでしまった。


 私はこの話を、ゼゼの幼馴染であるジニから聞いた。つまりジニはゼゼが父親から受けていた暴力を知っていたことになる。


「俺は、お前が辛い目にあっていると分かっていたのに、助けられなかった……勇気がなかったんだ。もしあの時、俺に勇気があれば、お前の妹は死なずに済んだのになぁ……」

 ジニの声は悔恨に震えていた。


 もちろんジニを責めるのは酷だ。当時はジニも、ゼゼと同じ子供だったのだ。大人の暴力に対抗する術はない。だが友とその妹を助けられなかった事実は、心の傷となってジニを苛んでいたのだ。


「ジニ……」

 ゼゼはジニの苦しみを今初めて知り、自身の傷も忘れて茫然としていた。

 ジニが血まみれの足で前へと出る。傷を負ってなお進むジニに、アンが怯んだ。憎悪に染まっていた瞳は揺らぎ、血に染まる剣も震える。


 おそらくアンは、人を斬ったことがないのだろう。怒りで我を忘れていたとしても、一度憎悪が揺らげば、人を斬った感触と血の色、そして臭いに慄く。

 アンが救いを求めるように、背後にいるメアリーさんを見た。メアリーさんはどうしていいのか分からず、言葉を発そうとしては呑み込む。


「メアリーさん」

 私は迷うメアリーさんを睨みつけた。


「貴方も人を率いているのなら、部下にやらせるのではなく命令を下しなさい。しかし貴方が斬れと命じるのなら、私も部下を失うわけにはいきません。斬れと命じます」

 私の視線に射すくめられ、メアリーさんは体を大きく震わせる。そして自分に縋るアンの顔を見た。

 揺れるアンの瞳を見て、メアリーさんは息を吐いた。そして表情を和らげる。


「……止めろ、アン。もう止めていいんだ」

 メアリーさんが告げると、アンは張りつめていた糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

「アン……」

 ゼゼが刺された腹部を抱えながら、アンの元に歩み寄る。

 座り込むアンはゼゼを見上げ、そして赤く染まる腹部を見た。


「あの、わた、私は……」

 アンの瞳が揺れる。自分の行いに気付いたアンは、自分の罪に慄く。

「いいんだ、大丈夫だ」

 ゼゼが血の気の失せた蒼い顔をしながら、なお微笑んだ。その笑みはアンの心の壁を、優しく崩した。


 アンの瞳から大粒の涙がこぼれ、顔の火傷の跡を伝って落ちる。そして泣きじゃくる声が上がった。抵抗を続けていた子供達も、アンの泣き声を聞き武器を下ろす。その近くでは怠け者号の船員達が何か声をかけていた。何を言っていたのかまでは聞こえなかったが、言葉をかけられた子供達は武器を捨てて抵抗を止めた。中には泣き出す者もいた。


 銀翼号に乗っている子供達は、多くが憎悪に燃えていた。だがその根源は哀しみだった。彼らは怒る前に泣くべきだったのだ。

 泣き崩れるアンに、寄り添う姿があった。メアリーさんだ。彼女はアンの肩に手を回すと、優しくその背中を抱きしめた。


 私は目を見張った。メアリーさんはこれまで率いている子供達を自分の子分、もしくは弟や妹のように接していた。だが今は違う。守ように寄り添う姿は、母のような慈しみがあった。

 メアリーさんがこのような変化を見せるとは、予想もしなかった。


 正直、私はメアリーさんのことが嫌いだった。浅はかで自分本位。何より周りが見えておらず、とても人を率いる器ではない。だが今の彼女には、これまでにない大きさを感じた。

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