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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~
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第四十七話 二重の策


 突然現れた伯父であるカルスを見て、ソネアはミアをかばいながら後ろにさがった。

「伯父様。どうしてここが?」

「どうしてだと? わからないとでも思ったのか?」

 姪の問いに、伯父は苛立たしげに答えた。


「突然、敵方についたお前が戻ってきて、本当は敵の情報を探るための囮だったという話を、信じると思ったのか? 馬鹿にするのも大概にしろ!」

 カルスの言葉を聞きながら、ソネアはつないだ馬を盗み見る。ミアだけでも馬に乗せて助けようと考えたが、しかし背後からも物音が聞こえ、兵士たちが現れてミアの腕をつかんだ。

「お前たち、その人を離しなさい!」

 ソネアが叫び、ミアが手を振りほどこうとするが、捕らえた兵士がミアを殴り、気絶させる。


「お前たち!」

 ソネアはミアを殴った兵士を睨むが、兵士は意に介さず、ミアを荷物のように担ぎ上げた。さらにソネアも、二人の兵士に腕をつかまれ動けなくなる。

 この兵士達はミカラ領の人間だが、カルスの家に仕えている者達だった。


「よくも裏切ってくれたな、ソネアよ。儂はお前の嘘に気付いてはいたが、それでも信じたかったのだぞ? 今までさんざん助けてやったのに、この恩知らずめ!」

「それは伯父様のことです。ロメリア様に助けてもらったというのに、なぜあんなことをしたのです!」

「黙れ、あんな小娘などに、助けてほしゅうなかったわ。お前は先を見ているつもりかもしれんが、お前こそ見えていない。この土地は我らの土地。我らが自分の手で守るのだ! あとから来た伯爵家や、その家臣であるドストラ家なんぞの手を借りてなんとする! お前のやったことこそ、この土地の、先祖に対する裏切りだ!」

 カルスは顔を赤らめて怒鳴る。その言葉を聞き、ソネアは愕然とした。


「それほどまで人に頼りたくなかったのですか。しかしもう敵はいないのです。あとは帰ってもらえばいいだけではないですか」

 ソネアが言うと、カルスは激高してその頬を打擲した。

「この馬鹿娘が! 建国より続くミカラ家が敵を前にして、一戦も交えずにいられるか。我らの敵を奪った以上、奴らに戦ってもらう」

 ソネアは殴られた衝撃以上に、伯父の言ったことが信じられなかった。


「何を馬鹿なことを、戦いのための戦いなど!」

「黙れ、女のお前に何が分かる!」

 カルスが激怒し、さらにソネアを打つ。

 ソネアは倒れたが、掴んでいた兵士に立たされ、さらにカルスに蹴られ、暴行を受け続けた。


「もういい、そいつを離せ」

 殴り疲れたカルスが肩で息をして、捕らえていた兵士に離すように命じる。ソネアはその場で崩れ落ちた。その顔からは血が滲み、青くはれ上がっていた。

「この親不孝者め、亡き父が見ればなんというか。お前などもう家族でも何でもない。ミカラ領から出て行き、二度と帰ってくるな。ミカラ領は儂が後見人となりソネットに継がせる」

 それだけ言うとカルスは姪には見向きもせず、ミアとソネアが用意した逃走用の馬を引き連れて、城館へと戻って行った。


 森の中で一人残されたソネアは、嗚咽を漏らした。

「ああ、伯父様。なんてことを。申し訳ありません、ロメリア様」

 涙をこぼしながら謝罪の言葉を吐き、痛む体を起こした。

「すぐに、すぐに戻らないと」

 起き上がったソネアは怪我の手当てもせずに、ロメリアのいる北へと歩みだした。

 ミアの救出失敗を、一刻も早く伝えなければならなかったからだ。

「申し訳ありませんロメリア様。ごめんなさい、ミアさん」

 痛む体を引きずりながら、ソネアの歩みと謝罪は止まることがなかった。


 ソネアの謝罪の言葉は、人知れず夜の森に消えていくと思われたが、その声を聞き届ける者達がいた。

 五人の男たちが森の中に潜み、一部始終を目撃していた。

 全身が黒い装飾に身を包み、背嚢を背負い、覆面で顔を隠している。


 誰もが黙って歩み続けるソネアの背中を見送り、見えなくなってもなおその方向から目をそらさなかった。

 太陽が昇り、ようやく一人の男が動き、顔を覆っていた覆面を外した。

 覆面の下にあったのは、ロメ隊の一員であるカイルだった。


「予定通りとはいえ、心が痛むな」

 カイルは大きくため息をつく。他の四人も覆面を外し、こちらも大きく息をついた。

 四人の男たちは、カイルと同じロメ隊のシュロー、ジニ、メリル、レットだった。

 五人がここにいるのは、もちろん偶然ではない。全てはロメリアの指示だった。


「ソネア様……助けて差し上げたいが」

 シュローは、ソネアが歩いていった先をまだ見ていた。

「仕方ない。ロメリア様の策だ。ソネア様は失敗してしまったが、これで城館の者達も油断するだろう」

 ジニがミカラ領の城館を見る。


 ソネアにミアの救出を頼んだロメリアだったが、成功するとは思っていなかった。

 ロメリアとしてもソネアの献身を疑っているわけではなかったが、時期が悪すぎた。

 もっともらしく見えるように取り繕っても、さすがにすぐには信用されないことはわかり切っていた。

 ロメリアはソネアの救出作戦が失敗すると見越したうえで、カイルたちを派遣しての二段構えの策としたのだ。


「しかし作戦とはいえ、事情を知らないソネア様がお可哀そうだ。せめて俺たちが来ていることを教えるべきではないか?」

 レットが顔をゆがめた。乱暴される女性を見捨てる行為が耐えられなかったのだ。


「それを言うな。敵を騙すにはまず味方からだ。俺たちが来ていることをソネア様が知れば、態度や顔に出てしまうかもしれない。万全を期すために、全て秘密にされたのだ。むしろソネア様を騙す決断をされた、ロメリア様が一番つらいだろう」

 メリルが、つらいのは自分たちだけではないと告げる。

「そうだ。全てはミアさんを救うためだ。ソネア様を助けず見過ごしたのだ。けっして失敗はできない」

 カイルが四人の仲間を見る。四人も決意の顔でうなずいた。


「すでに昨夜のうちに内部に忍び込み、城館の様子は把握できている」

「さすがロメ隊一の偵察兵だな」

 カイルの言葉に、メリルが褒める。

 城館の内部はソネアに聞いてわかっていたが、中の様子は実際に調べる必要があった。

 そこで、ロメ隊で一番身軽なカイルを潜入させていたのだ。


「そろそろ、ミアさんが元の牢屋に戻されているころだ。見張りはついているかもしれないが、油断しているだろう。今から潜入しミアさんを救い出すぞ」

 カイルの言葉に四人がうなずく。うまく行けば助けたミアを抱えたままソネアに追いつき、途中で合流してロメリアのもとに帰れるかもしれない。

 そうなれば誰もが幸せな未来となる。

 先ほど聞こえてきたソネアの後悔の謝罪も、最後に笑えるのであれば、救われるというものだ。


「行くぞ。俺が先行するから、皆は付いて来てくれ」

 カイルが話し、城館へと向かう。四人もカイルの後に続く。

 城館の裏門はすでに閂が下ろされ閉じられているが、カイルは裏門を通り過ぎ城館の壁に手をついた。

 城館の壁は高さが五メートルはある。


 カイルは腰から二本のナイフを取り出して両手に持つと、城壁に突き立て壁を登っていく。

 するすると、まるで梯子でも上るようにカイルは壁をよじ登り、城壁の上に立つと背嚢から縄を取り出し、壁に片方を括り付け、ゆるみがないことを確認して下に投げた。


 投げられたロープを受け取り、四人もすぐに壁を登る。

 すでに山からは太陽が顔を出し、鶏が夜明けを告げていた。そのうち使用人や村人が起きだしてくるだろう。

 急がなければならなかった。しかし城壁の上でカイルは立ち止った。


「なんだあれは?」

 カイルの視線は、ミカラ領の丘陵地帯に向けられていた。

 なだらかな丘から、一つ、二つと黒い影が現れてきた。


いつも感想や誤字脱字の指摘、ブックマークや評価などありがとうございます。

ロメリア戦記の書籍化が決定しました。

小学館ガガガブックス様より発売予定です。

これもすべて応援してくださった皆様のおかげです。

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ソネアさん結構無能…。
[気になる点] 作戦ひとつだと失敗した時どうするのかと思ってたけどさすがに2段構えか [一言] 姪に手を挙げるなんてほんとクズだな
[一言] カルスさん御待望の敵が現れたかな? どうぞ、存分に戦ってくださいw
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