第四十六話 炎獅子号④
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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アンの刃により、ゼゼの腹部が切り裂かれる。
「ゼゼ!」
私は思わず叫ぶ。ゼゼは後ろに倒れ、刺された腹を押さえる。指の間から血が滲み出し、服を赤く染めていく。
私は右手を強く握りしめた。全ては私の責任だった。
たとえ子供であっても、武器を持ち立ちはだかる以上、斬れと命じなければいけなかった。決断しきれない私の甘さが、部下を損なう事態を招いたのだ。
全ては私の不覚悟が原因である。
「……っ! この者を……」
「待ってください!」
アンを斬れと命じようとしたその時、力強い声が制した。手に長い木材を持つジニであった。
「その命令は待ってください」
ジニは腹部を押さえるゼゼと、血に染まった剣を手にするアンを見て長い息を吐いた。そして手に持つ木材をその場に捨てると、アンに向かって歩いて行く。
ゼゼと同じことをするのかと思ったが違った。途中でジニは足を止めた。彼の足元には、銀翼号の船員が落とした剣が転がっている。ジニは足の甲に刀身を引っかけて、剣を蹴り上げて空中で柄を掴む。そして二、三回素振りをした後、剣を右手に携えアンに向かう。
「ジニ……駄目だ。あの子を殺さないで」
ゼゼは痛みに顔を歪めながらも、同郷の幼馴染に懇願する。
「安心しろ、ゼゼ。今からは、誰も死にはしない」
剣をだらりと下げたジニは、アンとその背にいるメアリーさんを見据えまっすぐに進む。その歩みはあまりにも無造作で、無人の野を歩むが如くアンの間合いに入り込む。
アンが剣を振りかぶり、ジニに斬りかかった。
ジニの胸が斬り裂かれ、銀翼号の甲板に鮮血が散る。
誰もが息を呑んだ。だが斬られたジニは倒れない。攻撃を受けた瞬間、半歩下がり致命傷を避けている。斬られてなお踏みとどまったジニは、一歩前に出て剣を差し出す。そしてアンの首の前で剣を止めた。
剣を突きつけられたアンは、慌てて後ろに下がる。
斬られたジニは胸から血を零しながらも、アンとメアリーさんに向かって歩む。その腕は下がり、構えはせずに無防備なままだ。
不可解なジニの行動に、アンも思わず後ろに下がる。だが背後には守るべきメアリーさんがいる。後退を続ければメアリーさんのもとに辿り着かれてしまう。追い返すには攻撃するしかない。
アンは再度斬りかかった。対するジニは体を斬られるも致命傷は回避し、そして一歩前に出て、剣を突きつけてアンを下がらせる。
そんなやり取りが五回程続いた。ジニは何度も斬られ、体中血まみれとなっている。しかし、倒れない。
「お嬢さん、これは……」
私のもとにやってきたモーリス船長が、アンとジニのやり取りを見て呟く。
ジニは斬ろうと思えば、いつでもアンを斬れた。しかし斬らない。ジニは斬らないつもりだ。
「ええ、手は出さないでください」
私は手を固く握りしめ、ジニを見守る。ボレルとガットもジニがやろうとしていることを理解し、手は出さない。
「一体! お前は! 何が! したいんだ!」
たまりかねたアンが、肩で息をしながら叫ぶ。当のアンも、ジニがその気であれば自分を斬れていたことに気付いている。
「お前を、斬りたくはない」
血まみれのジニが口を開く。ギリギリのところで回避しているとはいえ、大量の血を失い顔は蒼白となっている。だが目は力を持ち、アンをしっかりと見据えていた。
「だが斬らせたくもない。なら、こうするしかない」
「ふざ、けるな!」
叫ぶアンだが、その声に力はない。血まみれのジニに対し、アンは傷一つ負っていなかった。だがアンは、今にも倒れそうになっている。
実戦での空振りは、予想以上に体力を奪う。ただの素振りと違い、相手を斬るつもりの一撃は全身の力を使うためだ。訓練を受けた兵士でも、実戦で空振りを続ければ疲弊する。体が出来ていない女の子であれば尚更だ。
空振りを誘ってアンの体力を奪い去る。それがジニの狙いだった。だがこの方法は大きな代償が伴う。
ジニの体から、大量の血が流れ落ちる。
ジニはロメ隊の中でも、見切りを得意とする目を持っている。だが空振りを誘うには、相手が絶対に当たると思うほど深く踏み込まねばならない。それを完全に回避することは出来ず、僅かに刃が体をかすめるのだ。
ジニの行動はまさに命がけなのだ。




