第四十五話 炎獅子号③
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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私とメアリーさんの話を聞いていたボーンが、僅かに身をたわめる。だが後ろに飛んで逃げようとした瞬間、足元に短剣が突き立てられた。ボーンが体を震わせ、葉巻の灰を零す。
投擲用の短剣を投げたのは、メアリーさんに剣を突きつけているカイルだった。その左腕は懐から新たな短剣を抜いて構えている。
「逃しませんよ、ボーンさん。貴方はライオネル王国の貴族を殺害しようとしたのです。これは国際問題です。ヴァール諸島には責任をとってもらいます」
「おいおい、誘拐したのはメアリーだろ」
ボーンはメアリーさんを指差して、責任をなすりつける。
「ですが裏で糸を引いていたのは貴方でしょう? なに、命は取りません。ハメイル王国から送られたという手紙をくれれば、解放しましょう」
私は笑って答え、炎獅子号の船尾を一瞥した。
炎獅子号の船長室には、私の誘拐を指示したハメイル王国の手紙があるはずだ。
「お前、最初からそれが目的で、捕まったふりをしていたのか!」
額に汗を流すボーンに対し、私は鼻で笑って返した。
現在ライオネル王国とハメイル王国は、魔王軍という共通の敵に対抗するため同盟を組んでいる。だがこの同盟は表面上のものであり、両国は手を取り合いつつも、足では互いを蹴り合っている。
形だけの同盟にしか過ぎないが、しかしそれでも同盟は同盟だ。もしここで私の誘拐を示唆する手紙が出てくれば、ハメイル王国は国際的に非難されるだろう。手紙を確保出来れば、ハメイル王国に対する外交カードになりうる。
私はその手紙を手に入れたかった。そのためにカイルをメアリーさんの船に忍び込ませ、自ら人質となり、ボーンがやって来るこの状況を作ったのだ。
「可愛い顔して、なんて嬢ちゃんだ……」
葉巻を咥えたボーンが息を呑む。活路を求めて目を走らせているが、銀翼号の子供達は次々に海に投げ込まれて数は減り続けていた。炎獅子号の船員達は弓を構え戦闘準備に入っているものの、船長であるボーンが捕らえられていて手が出せない。
ボーンはメアリーさんを丸め込むために、身一つで銀翼号に乗り込んで来た。今やそれが裏目に出ている。
「さて、メアリーさん。勝負はつきました。降伏してください。悪いようにはしません」
私はメアリーさんに視線を移す。銀翼号の制圧は時間の問題だ。だがその前に降伏してほしい。子供達を海に落とさなくて済む。
降伏を促され、メアリーさんの視線が彷徨う。
「まだです!」
弾けたような声を上げたのは、顔に火傷を持つ少女アンだった。彼女は私やカイルではなく、ポーラさんに刃を向ける。
「カイル!」
私はポーラさんを助けるように指示を出す。カイルは猫科の肉食獣のように体を跳ねさせ、ポーラさんの前に飛び出してアンの剣を防ぐ。
ポーラさんは助かったが、メアリーさんはアンの背後に逃げる。またボーンも好機とばかりに、葉巻の煙を残して海へと飛び込み逃げていく。
私はアンとメアリーさんを警戒しつつ、逃げたボーンの行方を目で追う。
ボーンは泳いで炎獅子号へと向かう。炎獅子号の船員達は、ボーンの回収に動き始める。
私は歯噛みした。ボーンを逃したのは痛い。だが今は銀翼号の制圧が優先だ。
「メアリーさん、もはや大勢は決しました。抵抗してどうなるというのです」
私はアンに守られたメアリーさんを見る。彼女も劣勢を理解しており、視線が泳いでいる。
「アン……」
「駄目です!」
口を開きかけたメアリーさんを止めたのは、剣を握るアンだった。
「まだです! まだ終われません! こんなところで、私達は!」
アンの叫びは慟哭となっていた。
銀翼号の各所からも、同じような声が上がる。子供達のほとんどは、劣勢を自覚して腰が引けている。だが何人かの子供は、頑なに戦うことを止めない。彼ら、彼女らは、まるで憎しみにしがみついているように叫んでいた。
甲板に木材が投げ出され、乾いた音を立てて転がる。目を向ければゼゼがいた。
「アン、もうやめるんだ」
武器として使っていた木材を捨てたゼゼは、無手となった両手を広げてアンに歩み寄る。
「ゼゼ! 馬鹿、やめろ!」
ジニが叫び、ボレルやガットも息を呑む。しかしゼゼの足は止まらず、ゆっくりとアンに歩み寄る。
「もうやめるんだ。誰も君を傷つけたりはしない」
「来るな!」
歩み寄るゼゼに、アンが剣を向ける。
アンの目は憎悪に燃えている。だがその剣は震えていた。
「アン」
ゼゼが名を呼び、さらに一歩踏み込む。すでにゼゼはアンの間合いにいる。いつ斬られてもおかしくはない。だがそれでもなお、ゼゼは一歩前に出る。次の瞬間、アンが叫び剣を突き出す。剣の切っ先がゼゼの腹部に突き刺さった。




