第四十四話 炎獅子号②
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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飛び出てきたモーリス船長の背後からは、同じく長い木材を手にした怠け者号の船員が続く。
続々と出てくる船員達の中には、木材で武装したゼゼ、ジニ、ボレル、ガットの姿もあった。一気呵成に飛び出してきた彼らは、覆面をした子供達に襲いかかる。
突然の襲撃に、銀翼号の船員は対処が遅れる。その隙にモーリス船長やその船員達は、子供達の襟首を掴むと海へと投げ落としていった。
海面に目を向けると、船から落とされた子供達が悪態をつき水面を殴っている。さすが島国の子供は泳ぎが達者だ。あれならすぐに溺れ死ぬことはないだろう。
「親父⁈ どうやって出てきやがった!」
メアリーさんは慌てて腰の剣を抜き放つ。覆面の船員達も、腰の剣を抜いて斬りかかろうとする。だがそこに木材を手にしたゼゼ、ジニ、ボレル、ガットが立ちはだかる。
覆面をした子供達はゼゼ達に斬りかかるも、降りかかる刃を四人は容易く回避する。
「この前は船が揺れたから戦いにくかったが」
「これぐらいの揺れならば!」
ボレルとガットが敵の刃を回避しながら、木材で子供達の手や腕を打つ。
手や腕を打たれた子供達は、痛みに剣を落とした。そこに怠け者号の船員達が殺到して、子供達を海に落としていく。
前回の戦いでは波が高く船が揺れたため、ボレル達は繊細な剣技や回避が行えなかった。しかし現在は波の穏やかな海域にいるため、平地と変わらぬ動きが出来る。今ならば子供を殺さずに倒すことが十分可能だ。
ボレル達を先頭に、モーリス船長達が次々に子供達を海へと投げ落としていく。さらに怠け者号の船員が、船体にくくりつけてある小舟の縄を切って海に落とす。海に落ちた子供達は、自力で小舟に乗り込むだろう。
「これは……まさか、お前がやったのか!」
メアリーさんが、目を見開いて私を見る。先程投げたハンカチが、モーリス船長達に対する合図だと気付いたのだろう。
「どうやって? いや、それはいい。お前を人質に使えば」
メアリーさんは抜いた剣を私に向ける。
「させません!」
ポーラさんが、私を守ろうと前に出る。だが私は手で制した。
「大丈夫ですよ、ポーラさん。私を人質にすることは出来ません」
私はポーラさんに笑顔を見せた後、メアリーさんに視線を移す。
「メアリーさん。モーリス船長達が外に出られた答えは、そこにいますよ」
私は右手の指をメアリーさんの左に向けた。次の瞬間、鍔鳴りの音が響いた。刃が振り抜かれ、メアリーさんの剣が弾かれて宙を舞う。さらに刃は銀光の軌跡を描き、メアリーさんの首の前で止まる。
メアリーさんや側にいたアン、そしてボーンも息を呑む。
剣を突きつけているのは覆面の船員だった。その右腕には赤い布が巻かれている。
「お前、アタシを裏切るのか」
剣を失ったメアリーさんが、声を絞り出す。
「メアリーさん。彼は別に裏切ってなどいませんよ」
私が笑顔で教えてやる。すると右手で剣を突きつける船員が、左手で覆面を脱ぎ捨てた。覆面の下からは、癖のある髪の毛をした男性の顔が顕となる。その男性は背丈こそ低いものの顔つきは精悍そのもの、身構える姿は猫科肉食獣のようなしなやかさを秘めている。
「……誰だ、お前は。アタシの船の者ではないな」
メアリーさんが自分に剣を突きつける男を睨む。彼女が彼を知らないのも無理はない。
「彼の名はカイル。私の部下です」
私がカイルに笑みを向けると、カイルも笑い返した。
「カイルには貴方の船に忍び込んでもらっていました。彼はずっと、私や貴方の側にいたのですよ?」
私が教えてやると、メアリーさんの瞳が揺れる。その隣でカイルが大きく息を吐いた。
「覆面のおかげで船の中は自由に動き回れましたが、いろいろ仕事が多くて大変でしたよ」
カイルが笑いながらもぼやく。確かにカイルは戦いの場にあっては、いつでもメアリーさんを倒せる位置に陣取っていた。そして私が捕らわれてからは私の身を守るだけでなく、モーリス船長達に脱出のための道具を渡し、攻撃の合図も伝えてくれた。まさに大活躍といえる。
「馬鹿な、あり得ない! メルカ島に来たお前達のことは、ずっと見張っていた。親父の船に、こんな奴は乗っていなかったはずだ」
「俺がメルカ島に上陸したのは、もう二十日も前ですよ。ロメリア様達よりも先に、別の船でメルカ島に上陸しました」
カイルの言葉を、私は肯定するように頷く。
メルカ島との交渉に先立ち、私はカイルを事前に島に忍び込ませていた。メルカ島の情報を集めるためだが、安全のための布石でもあった。メルカ島での話し合いがこじれた場合、モーリス船長達が私を捕らえて、他国に売る危険性があったからだ。
私は最悪の場合に対する備えとして、カイルを派遣していたのだ。そしてメルカ島にいる間は、鈴蘭の花を目印に手紙のやり取りをしていた。
「貴方達が不穏な動きを見せたので、ロメリア様の指示で銀翼号に忍び込んだんです。いやーアルやレイに見つかりそうになった時は、ひやひやしましたよ」
カイルはいつになく饒舌だ。だいぶ鬱憤がたまっているのだろう。私以外は誰もカイルの存在を知らなかったので、カイルは仲間からも身を隠さなければならなかった。彼には後で特別賞与と休暇を与えよう。
「お前、二十日も前から準備をしていたのか」
「まさか、もっと前からです。港を造ると決めたその時から、ずっと準備していましたよ」
顔を硬直させるメアリーさんに、私は笑みを返した。
港を造ると決めた時点で、その先にあるメビュウム内海は視野に入れていた。メルカ島の窮状や、ヴァ―ル諸島の台頭も当然情報を入手している。
海は私達にとって未知の領域、準備は入念に行っていた。




