第四十一話 メアリーとの会談②
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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私は銀翼号の船長室で、机を挟んでメアリーさんと会談していた。
「……では、この後どうすると言うのです。私を誘拐したことで、ライオネル王国とメルカ島の関係は悪化します。場合によっては戦争の火種になるかもしれない。より多くの戦災孤児が生まれることになりますよ」
ライオネル王国にも面子がある。貴族を誘拐されては黙ってはいられない。
「陸の上ならともかく、海の上ならお前らなんて怖くないね。アンタを人質にして、ライオネル王国から身代金をせしめる。そしてお前らの船を襲い金目の物を奪う。その資金で船を買い艦隊を作り上げる」
「貴方一人で国家と戦えると?」
息巻くメアリーさんに対し、私は白い目を向ける。
メアリーさんはメルカ島の島民から支持されているわけではない。金があっても共に戦ってくれる仲間がいない。
「アタシにも、後ろ盾となってくれる人達がいるんだ」
「へぇ、それはヴァール諸島の方々ですか? それともその背後にいるハメイル王国ですか」
私が指摘してやると、自慢げな笑みを見せていたメアリーさんの顔が硬直する。
「何故知っている?」
「少し考えれば誰にでも分かることです」
私は息を吐きながらメアリーさんを見た。
ハメイル王国はライオネル王国とは国境が接しており、何度も対立した過去がある。現在では魔王軍が現れたことにより緩い同盟関係を組んでいるが、水面下では互いに敵視している。
ハメイル王国としては、ライオネル王国の海洋進出を妨害したい。とはいえ同盟がある以上、表立って邪魔は出来ない。そのため属国と言えるヴァール諸島に指示を出した。そのヴァール諸島はライオネル王国と直接敵対を避けるため、メアリーさんを利用したのだ。
「私達に利用されたくないといっておきながら、ハメイル王国に利用されているだけではありませんか。彼らが貴方と手を切り、支援しなければどうするつもりです」
「支援を約束する手紙がある。紋章が押された正式なものだ。もし約束を反故にすれば、その手紙をもとに訴える」
自信満々にメアリーさんが胸を張るが、私としては呆れるほかない。
「そんなもの、海賊の貴方が振りかざして何の役に立つというのです」
私は首を横に振った。
約束を記した手紙や契約書は、言ってしまえばただの紙切れだ。だが大きな力を持っている。何故ならばその紙の上に、約束をした者の信用が上乗せされているからだ。その信用にこそ価値がある。一方メアリーさんは法を守らぬ海賊だ。法を守らぬ者が約束を守る保証はなく、当然信用もない。
「貴方が訴えても、ハメイル王国は相手にもしません。海賊が偽造した物だと一蹴されるだけです」
私は首を横に振った。信用なき者が契約書を振りかざしても、誰も信じない。
「そもそも本物かどうも怪しい。ヴァール諸島の人が、偽造した可能性もあるのですよ?」
「そんなことはない! 手紙は本物だ!」
「何故そう言えるのです。貴方は『紋章官』だとでもいうのですか?」
「それは……」
私の問いに、メアリーさんは視線を彷徨わせる。
紋章官とは、国や貴族の紋章を記憶し判別する知識を持った専門家だ。しかし貴族でなければ必要ない知識であり、メアリーさんが各国の紋章を知っているとは思えない。
「まぁいいです。なら私が見てあげましょう。私は紋章官ではありませんが、ハメイル王国の紋章なら知っています。絶対とは言えませんが、ある程度の真贋はつきますよ。その手紙とやらを見せてください」
私は手を差し出した。だがメアリーさんは動かない。
「もしかして、手紙の実物がないのですか?」
「お前と引き換えで、もらうことになっている」
「何とまぁ……」
私は呆れた。すでに貴族を誘拐するという危ない橋を渡り、後戻りが出来ない状態にある。にもかかわらず、その約束を保証するものを何も持っていないのだ。もしヴァ―ル諸島の人間がここに現れなければ、そこでメアリーさんは終わる。
「貴方はモーリス船長から何を学んでいたのです?」
あまりに浅はかな行動に、私は大きく息を吐いた。




