第三十七話 銀翼号⑦
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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「アル! レイ!」
私は右弦の船縁から海を覗き込む。海へと落ちた二人だが、浮上し海から顔を出す。
このままでは溺れてしまうかもしれない。私は周囲を見回した。すると船縁に輪の形をした薄い板が設置されている。海に落ちた者を助けるための浮き輪だ。
「これに掴まりなさい!」
私は浮き輪を手に取り、力の限り投げた。浮き輪はアルとレイの近くに落下し、二人は泳いで浮き輪にまで到達する。
救助は必要だが、すぐに死ぬことはないと胸を撫で下ろす。
「メアリー! この、悪ガキが!」
モーリス船長が、顔を真っ赤にしながらメアリーさんに斬りかかる。対するメアリーさんは呆れ顔を浮かべながら、モーリス船長の剣を回避する。
「落ち着けよ、親父。そんなに暴れるとまた腰を悪くするぞ」
「うるせぇ、この馬鹿娘が!」
モーリス船長の猛攻を、メアリーさんが華麗な足捌きで回避する。モーリス船長の大ぶりの一撃が空を切り、剣が甲板に食い込む。モーリス船長は剣を抜こうとしたが、深く食い込んでいるのかすぐに抜けない。メアリーさんはその隙を逃さず剣を踏んで押さえ、自身の剣をモーリス船長の首に向ける。
「この親不孝もんめ!」
「暴れるなよ、親父。部下が死ぬぞ」
唸るモーリス船長に、メアリーさんが細い顎で甲板を示す。その先には、捕らえられた怠け者号の船員達の姿があった。
降伏した部下達を見て、モーリス船長は唸る。部下を守ることは船長の務めである。これ以上抵抗は出来ないだろう。
あと降伏していないのは、私の周りにいるボレル達四人のみ。大勢はすでに決している。
「ロメリアお嬢さん。アンタ達もだ。それ以上抵抗するなら死人が出る。それでもいいのか?」
メアリーさんは私を見ながら、モーリス船長に突きつけた刃を煌めかせる。
実の父親を斬るとは思えないが、絶対に斬らないとも言い切れない。
「降伏すれば、捕虜は決して斬らないと誓えますか?」
「ああ、そこは約束する。同じ島の人間だ、殺しはしないよ。アンタも大事な人質だ。大人しくしてくれれば、身の安全は保証する」
私の問いに、メアリーさんが頷く。
「分かりました、降伏しましょう」
私は頷き、ボレル達を見る。
「ボレル、ガット、ゼゼ、ジニ。武器を下ろしなさい」
「しかし、ロメリア様!」
ボレルは武器を下ろさない。なおも私を守って戦うことを示す。
「抵抗すれば、モーリス船長に危害が及ぶかもしれません」
私は今後の展開を予想した。状況がどう転ぶかは分からないが、モーリス船長が生きていればメルカ島との関係はギリギリ保たれる。逆に彼が死ねば、全ては瓦解する。
「物分かりが良くて助かる」
メアリーさんが頷き、左手を挙げる。すると覆面をした船員が私達に近づき武器を取り上げ、ボレル達を縄で縛り上げる。
「親父、悪いがアンタも人質だ」
「親を縛るたぁ、親不孝もんめ!」
「それはもう聞いたよ」
メアリーさんが笑い、モーリス船長を捕縛する。
「よし、人質をアタシらの船には運べ。船員も十人は残してやれ。メルカ島やライオネル王国に、アタシらが人質をとったことを、伝えてもらわなきゃいけないからな」
メアリーさんは人質とする者と残す者をより分けていく。
「ポーラさん、貴方は残って」
私は側に立つポーラさんを見る。女性が捕虜となった場合、下手をすれば乱暴されるかもしれない。彼女は兵士ではない。私と共に人質になる理由はなかった。
「いえ、ついていきます。絶対に離れません」
ポーラさんは私の手を掴む。その手は震えていたが、目には決意が感じられた。
「……分かりました。危険かもしれません。私の指示に従うように」
私はしぶしぶ同意する。
「さぁ、こちらへ。お嬢様」
メアリーさんが手招きをする。甲板の左弦を見れば、隣接した怠け者号と銀翼号との間に板が渡されていた。
仕方なく私はポーラさん、ゼゼ、ジニ、ボレル、ガットと共に銀翼号へと乗り込む。そしてモーリス船長と二十人程の船員も、捕虜として銀翼号に連行される。
「よし、親父達を船倉にぶち込め」
メアリーさんが甲板中央部を顎で指す。甲板の床には格子状の扉があり、覆面の船員が開けると階段が伸びていた。おそらく船倉へと通じているのだろう。縄で縛られたモーリス船長と船員達、そしてボレル達四人が連行される。
私はボレルの腕を掴む覆面の船員を見た。その右腕には赤い布が巻いてあった。
「さて、アンタ達の処遇だが」
メアリーさんが私に目を向ける。するとポーラさんが私を守るように立ちはだかる。
「安心しな、とって食いやしないよ。狭いけど客室を用意する」
メアリーさんは船尾の船室を一瞥した後、立ちはだかるポーラさんを見た。
「その代わり、お嬢さんの世話はアンタが見るんだ。アタシらには、お貴族様の世話なんて出来ないからね」
それだけ言うと、メアリーさんは胸を張った。そして出発を告げる。船員達は覆面を取る暇も惜しんで船の間を走り回る。銀翼号がゆっくりと動き出し、怠け者号から離れていく。
「ロメ隊長!」
遥か下から声が聞こえた。海面に目を向ければ浮き輪にしがみつくアルとレイが、銀翼号に向かって必死に泳いでいた。
「今助けに行きます!」
「お前ら! ロメリア様を離せ!」
アルとレイは泳いで船に追いつこうとしている。
「やれやれ、大した根性だな」
必死に泳ぐアルとレイを見て、メアリーさんが呆れる。
「アル! レイ! ライオネル王国に戻りなさい! あとはヴェッリ先生の指示に従って!」
私は命じたが、二人は従わず銀翼号に向かって泳ぎ続ける。しかし船の速度に追いつけるはずもなく、距離は無情にも開いていく。
「ロメ隊長!」
「ロメリア様!」
アルとレイ、二人の声が海原に響き渡った。




