第三十五話 銀翼号⑤
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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「ロメリア!」
メアリーさんを見ていると、目が合う。メアリーさんは口元に笑みを浮かべながら、手にしていた剣を自分の首元に添えた。私の首を取るという意味だろう。対する私は首を横に振った。
「アタシには出来ないって言いたいのかい? つまらない挑発だねぇ! まぁいい、すぐに捕まえてやる!」
メアリーさんは私に剣を向ける。すると覆面の船員達が十人程、船尾の階段を上り私達のもとに向かって来る。
「ロ、ロメリア様! 敵が!」
ポーラさんが私の左腕にしがみつく。迫る敵に対し、ゼゼとジニ、ボレルとガットが立ち向かう。四人は新兵ながら、多くの実戦を経験している。その練度は熟練の兵士にも引けを取らない。ただし、地面の上であれば。
向かい来る敵に対し、四人の剣は空を切る。
「クソ、揺れる……」
空振りをしたガットが舌打ちをした。
ガット達は数多くの訓練や実戦を経験しているが、揺れる船の上で戦ったことはない。しかもここは波の激しい列島群海域だ。ガット達は本来の力が発揮出来ないでいた。一方相手は船に慣れた島の人間。揺れる船の上でも自由自在に動き回る。
「落ち着け! 敵をロメリア様に近づけさせるな!」
ボレルが小刻みに剣を振るう。当てることを考えず牽制に努めているのだ。ゼゼ、ジニ、ガットはボレルに倣い短い動作で剣を繰り出す。
守りに徹するボレル達に、覆面の船員達は近づけないでいた。しかし一人だけ、恐れを知ることなく前に出て来る者がいた。顔を覆面で覆う敵は、ゼゼを狙って斬りかかる。
対するゼゼも剣で反撃するが、その時船が揺れて剣の軌道が逸れる。剣は相手の覆面を掠めるのみ。覆面が切り裂かれて、敵の顔が顕となる。その顔を見てゼゼが息を呑んだ。
「君は! あの時の……」
覆面の下から現れたのは、顔に火傷の跡を持つ少女アンだった。
銀翼号の船員の正体に、私は目を細めた。
「……まさか、全員が子供なのか!」
ゼゼが顔を強張らせて、戦う覆面の船員を見る。
メアリーさんは戦災孤児を集めて手下としていた。ゼゼは気付いていなかったようだが、私は初めから予想していた。だが実際に子供の顔を目の前にすると、辛いものがある。
アンが裂けた覆面を千切り捨てる。ぼさぼさの髪の下、火傷のある顔には殺意と憎悪を湛えた目がぎらついている。アンだけではない。他の子供達も、憎しみがこもった目を覆面の下に光らせていた。
「そんな……」
ゼゼが顔を青くして一歩後ろに下がった。臆したと見て、アンが剣を水平に構えて突きを繰り出す。自分の体を投げ出すような攻撃に、ゼゼは反撃しようとした。だがアンの顔を見ると体が硬直して動けない。
刃がゼゼに迫る。だがその時、横から剣が差し込まれてアンの突きを弾いた。
「しっかりしろ! ゼゼ!」
ゼゼを守ったのはジニだった。彼は叱咤しながら剣を振るう。
「で、でも、相手は子供だよ!」
「それでも敵だ! 戦わなければお前が死ぬぞ!」
ジニが叫ぶが、ゼゼの目はなおも揺れる。ボレルとガットの剣先も同じく揺れている。
やはり駄目か……。
私は歯を噛み締めた。ゼゼ達とロメ隊は人と戦ったことがほとんどない。しかも相手が子供とあってはやはり戦えない。それはモーリス船長の部下達も同じだった。怠け者号の船員達の動きは、明らかに精彩を欠いていた。矢で傷を負っているだけではない。相手が子供であると分かっているからだ。それに襲ってくる子供達は戦災孤児だ。船員達にとっては、同じ島民というだけではない。共に戦った仲間の子供ということになる。
敵だからといって、全力では戦えない。それは叱咤激励するモーリス船長も同じであった。彼も剣を振るっているが、子供を斬るようなことはしていない。殴り蹴ることで対処している。誰も子供など斬りたくはないのだ。
私は右手を固く握りしめた。
ゼゼ達は子供を斬る覚悟がない。だが誰より覚悟が定まっていないのは、私自身だ。
私が斬れと命じれば、ゼゼは無理だろうがボレルやガット、ジニは斬れる。だが……。
握りしめた私の手は震えていた。私は不甲斐ない自分の手を睨みつける。
戦場で指揮官は、兵士に命を懸けて戦えと命じる。だが命じる指揮官は武器を持って戦わない。戦うことは指揮官の仕事ではないからだ。指揮官の仕事は覚悟を決めて命じ、その責任を取ることにある。
指揮官の仕事は命令を下すこと!
私は震える拳を固く握りしめて震えを止めた。そして前を見る。
口から命令を下そうとしたその時、戦場を雄叫びが貫いた。
大気を震わせる声を発したのは、赤い髪を逆立てたアルだった。アルは炎のように闘志を漲らせて剣を振るう。
裂帛の気合と共に振るわれた一太刀は、覆面の船員の剣を砕く。剣を砕かれた者は、信じられないと目を丸くしていた。
「テメェらがガキだろうと! 武器を持って向かってくる以上! 容赦はしねぇ!」
アルの気迫に、子供達も息を呑んだ。




