表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 メビュウム内海編~港を造って交易をおこなうことにした~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/465

第三十四話 銀翼号④

ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!

ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。

こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。



 巨大な凧に引かれ、持ち上がる船を見て私は息を呑んだ。

「おいおい、まさか!」

「浮いている?」

 ジニが驚きゼゼが目を丸くする。もちろん船が宙を浮くわけがない、船底は海面についている。だが船は凧に引かれて持ち上がり、浮いていると見間違えるほどだ。


 銀翼号の速度が、飛躍的に増加する。一方で怠け者号はメアリーさんに風魔法で妨害され、速度が落ちている。

 左弦にいた銀翼号が、怠け者号を追い抜く。そして大きく弧を描きながら右弦に戻って来る。

 船のすれ違いざまに矢が放たれる。先程までとは逆の方向。ボレルやガットが反転して降り注ぐ矢を切り払う。だが銀翼号は止まらない。さらに大きく弧を描きながら戻ってくる。


「こ、こいつはまずい」

 怠け者号を中心に旋回する銀翼号を見て、ガットが額に汗を流す。

 ぐるぐると回りながら攻撃されては、矢が飛んでくる方向が変わってくる。


「おい! モーリス船長! この船にあの凧はないのか?」

「あるにはあるが……」

 アルの叫びに、モーリス船長が怠け者号の船首を見る。船首の甲板には、船倉へと下りる扉が床に設けられている。おそらくあの下に凧が収納されているのだろう。

 モーリス船長のつぶらな瞳が揺れる。


「……駄目だ、あれは扱いが難しい。下手をすれば船が壊れちまう。風が複雑なこの場所では無理だ!」

 モーリス船長が歯を噛み締めた。


 熟練の船乗りであるモーリス船長が無理だと言うのだから、凧の操作はよほど難しいのだろう。そしてモーリス船長ですら不可能なことを、メアリーさんはやってのける。天性の才能があるようだ。

 メアリーさんは船を何度も旋回させ、さんざんに矢を打ち込む。怠け者号の船員は、次々に矢傷を負っていく。


 矢は当たり所が悪くない限り、即死するということはあまりない。弓矢で攻撃する狙いは、相手の勢いと戦力を削ることにある。

 私はアル達に守られながら、銀翼号を見た。打ち込まれていた矢が止まる。おそらく矢が尽きたのだろう。こちらの戦力を削ったのならば、次なる手は一つ。


「おい! モーリス船長! 矢が止まった! 乗り込んでくるぞ!」

「んなことは、分かってるよ!」

 叫ぶアルに、モーリス船長も叫び返す。

 銀翼号の甲板では、覆面の船員達が弓を捨てて剣を抜いている。


「総員! 白兵戦用意! ぶつかるぞ! 衝撃に備えろ!」

 モーリス船長ががなり声をあげる。怠け者号の船員達も弓を捨てて腰の剣を抜く。直後左弦から銀翼号が迫ってくる。怠け者号と銀翼号の船体が激突する。

 私は側にいるポーラさんと、互いの体を支えながら衝撃に備えた。私達の体は左右に揺さぶられる。しかし倒れるほどの衝撃ではなかった。


 大きな船が激突したとは思えない小さな衝撃に、私は顔を上げてぶつかった箇所を見る。怠け者号の船体は、僅かに船縁の木材がへし折れている程度だった。メアリーさんは自分の船が傷つくのを嫌い、繊細な操作で優しく船をぶつけたのだ。驚嘆の操船技術だ。

 私が驚いていると、銀翼号から覆面の船員が雄叫びを上げて乗り込んでくる。剣を手にしたアル達が身構える。


「ロメ隊長、一応聞いておきますが、船内に避難は……してくれませんよね」

「ええ、もちろんです」

 問うアルに私はキッパリと答えた。


 この戦いはメルカ島の内紛である。そして私はあえて身を晒すことで、モーリス船長達に戦えと強要したのだ。戦いが始まったからあとはご勝手に、というわけにはいかない。最後まで戦場を共にせねば、メルカ島の人々の信頼を失う。


「分かりました! ゼゼ、ジニ、ボレル、ガット。お前らは護衛だ! 一人も通すなよ!」

 アルがゼゼ達に指示を出す。一方アルはレイと共に前に出る。


「アル、レイ。行くのですか?」

「もちろんです。モーリス船長やこの船の船員とは、同じ釜の飯を食った仲ですから!」

「モーリス船長達だけに、戦わせるわけにはいきませんよ!」

 アルとレイが剣を構え、揃って頷く。


「ですが、あの敵は……」

 私は船に乗り込んでくる、覆面をした船員を見た。相手は皆小柄だ。

「……分かっています。……でも!」

「襲ってくる以上は敵です!」

 アルとレイは言い切る。二人の目には揺るがぬ決意があった。


「モーリス船長! 俺達も戦う! 行こう!」

「おう! あの跳ねっ返りにお仕置きだ!」

 気炎を上げるアルに、モーリス船長も船員から剣を受け取る。そして船尾の階段を降りて甲板の中央部へと向かう。


 三人の足取りは強い。アルとレイ、そしてモーリス船長はやる気十分だ。

 覆面の船員が続々と怠け者号に乗り込んでくる。私は船尾のさらに右後ろに移動した。右と背後には海が広がり、逃げ場はなくなる。だがここならば攻撃は前と左の二方向に絞られる。ゼゼとジニ、ボレルとガットが私の周囲を固める。ポーラさんは私の左側で、守るように腕を掴んでいた。しかしその手は震えている。


「大丈夫ですよ」

 私は手を重ねて笑みを見せた。しかしこれは根拠のない言葉だった。一度戦いが始まれば、後はどうすることも出来ない。ただ兵士達の奮戦を信じるしかないのだ。


 モーリス船長の部下達と、メアリーさん率いる覆面の船員達が甲板で切り結ぶ。

 乗り込んでくる覆面の船員は五十人程で、全員が小柄だ。対する怠け者号の船員は三十人と少ないが、全員が魔王軍との戦いを潜り抜けた歴戦の兵士だ。


 数の差があっても、まともに戦えばモーリス船長の部下達が勝つ。しかし彼らの多くは矢傷を負っていた。怠け者号の船員は、徐々に押されはじめる。


「テメェら、しっかりしやがれ!」

 モーリス船長が叱咤しながら剣を振り回す。覆面をした敵は剣を避けるも、そこに船長の蹴りが放たれる。


 モーリス船長は気を吐いているが、相手の数が多い。

 私は戦場となった怠け者号の甲板に目を向けた。船の中腹に、赤い長外套を羽織ったメアリーさんが乗り込んでくる。


 片手に剣を携える彼女は勇ましい。その左には右腕に赤い布を巻いた覆面の船員が一人、護衛として付き従っていた。

 メアリーさんを倒せば、この戦闘は勝利となるだろう。だが気になるのは、メアリーさんの背後にいる黒幕だ。


 メアリーさんは島民の支持を得られなかった。たとえ私やモーリス船長を人質にしても、メルカ島を支配することは出来ない。しかし彼女はここで戦いを仕掛けてきた。勝った後にメルカ島を支配する方法があるということだ。おそらく何者かの後ろ盾を得ている。メアリーさんの背後にいる存在こそが本当の敵だ。まずは敵を見極めねばならない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ