第三十二話 銀翼号②
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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一隻の船が怠け者号に向かってくる。その船首には、銀の翼を広げた隼の彫刻があった。
「あれは! メアリーの船だぞ!」
モーリス船長が顔を顰めながら叫んだ。向かって来る船は、メアリーさんが乗って行った銀翼号だった。その速度は速い。私は直感的に戦いの気配を感じ取った。
飛ぶような速度で向かって来る銀翼号は、途中で進路を変え、怠け者号の左に陣取り並走する。甲板には覆面をした小柄な船員が、五十人程配置についていた。全員が腰に剣を差して弓を手にしている。船尾に目を向けると、赤い癖毛の上に三角帽を載せた女性が操舵輪を握っている。モーリス船長の一人娘であるメアリーさんだった。
私は最近メビュウム内海に出没するという、海賊の話を思い出した。覆面をした海賊ということだが、その正体はメアリーさん達だったのだ。
「何をしている! メアリー! 馬鹿な真似は止めろ!」
モーリス船長が、顔を赤らめて怒鳴った。メアリーさんが戦闘を仕掛ける気配を、モーリス船長も感じ取っているのだ。
「親父! もうアンタに島は任せておけない。これからは私が仕切る!」
赤い長外套を羽織るメアリーさんは、横にいる覆面の部下から、弓と矢を受け取る。
「止めろ! ライオネル王国とは上手くいきかけているんだ。お前がやらかせば、全てがおじゃんになるんだぞ!」
叫ぶモーリス船長の額には、汗が流れていた。
メアリーさんは武装しているが、まだ戦端は開かれていない。今なら護衛として合流したと、言い張ることが出来る。だが一本でも私に向けて矢が放たれれば、そこでもう戦争開始だ。
「ロメ隊長」
見張り台から縄を手繰り、アルが船尾に飛び降りてくる。レイやボレルにガット、ゼゼやジニだけでなくポーラさんも私の周りを固める。
「ロメリア様。船室にお下がりを」
レイが腰の剣に手をかけながら私に避難を促す。
「いえ、そういうわけにはいきません」
私はモーリス船長に目を向けた、船長も私を見る。船長の目には迷いがあった。
この状況はメルカ島の内紛と言えた。しかしじゃじゃ馬とはいえ、メアリーさんはモーリス船長の実の娘だ。戦いたくないに決まっている。銀翼号に乗っている船員も、同じメルカ島の住人のはず。同郷の者と戦いたくはないだろう。
身内同士での争いを避けるために、モーリス船長がメアリーさんの考えに同調するという展開もありうる。そうなれば多勢に無勢、アル達でも勝てない。何よりせっかく築いたメルカ島との関係が無に帰することとなる。
「ここはメルカ島の意思を、確認しておく必要があります」
私は周囲にいる船員達を見回した。彼らもまだ迷っている。だがここで私を売るのか、それとも守って共に進むのか。旗幟鮮明にしてもらわねばならない。
「メアリーさん!」
私は声を張り上げ、弓を構えるメアリーさんを睨んだ。
「私はメルカ島の皆さんと一緒に進むつもりです。何故邪魔をするのです!」
海風に負けぬように叫ぶと、船尾で矢を番えるメアリーさんが赤い唇を歪ませた。
「はっ、アタシは親父と違う! 陸の連中が並べ立てた美味しい話なんか、信じる気にはなれないんだよ!」
メアリーさんは弓を引き絞る。強く引かれた弓は、私へと向けられている。
「止めろ! 馬鹿!」
モーリス船長が叫ぶも、メアリーさんが矢から指を離す。勢いよく矢が放たれ、私に向かって飛んでくる。
直後、私の前にボレルとガットが立ちはだかり盾となる。だが矢は私達には届かなかった。アルが腰の剣を抜くと同時に、飛来した矢を弾き落としたからだ。
弾かれた矢が、操舵輪の前にある甲板に突き刺さる。
「この……っ、馬鹿娘が!」
操舵輪を握るモーリス船長が、顔に渋面を浮かべ目を閉じる。だが次の瞬間目が開かれ、メアリーさんを睨んだ。
「総員! 戦闘準備! あの馬鹿娘を捕えろ!」
モーリス船長の決断を聞き、私は密かに右手を握りしめた。
この戦いの結末が、どういう方向に行きつくかはまだ分からない。だがメルカ島の代表であるモーリス船長が私についた以上、メルカ島との関係継続の道筋は残された。あとはメアリーさんの船を撃退出来るかどうかだった。




