第二十一話 メルカ島④
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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メルカ島の島主であるバーボさんを前に、私は席に着いた。
「それで、今日は一体どのような御用でしょう?」
バーボさんは早速本題に入った。話が早いのはこちらとしてもありがたい。
「今日はお願いがあって参りました。我がライオネル王国が、新たに港を開こうとしていることは御存じですか?」
「ええ、聞き及んでおります。なんでもロメリア様が主導されているとか」
バーボさんは頷きながら、右側に立つモーリス船長を一瞥する。
「実は港で働く人手が不足しておりまして、お力を貸してもらえませんか?」
「それは……荷運びなどをする出稼ぎ労働者を募りたい。ということでしょうか」
「それもあります。他にも宿屋や料理店。酒場などで働く人も欲しています。ですがそれだけではありません。我々は現在、港を管理する港湾局の整備を進めています」
私は本題を切り出した。
港を切り盛りするには、港湾事業を取りまとめる港湾局が必要だ。しかし港湾局は専門性の高い仕事だった。
まず降ろした荷物を適切に保管する知識と技術、そして異国の風習や業界の慣例に精通していなければならない。また疫病を患った船員や船に対する対処も必要になってくるし、密航や密輸といった犯罪も防がねばならない。
港の運営は簡単なことではない。しかし我がライオネル王国は、これまで大きな港を保有していなかった。適切に港を運営する知識や経験を、まるで持っていないのだ。まずは海洋交易に精通した人達の教えを受ける必要がある。
「私達は新たに設立する港湾局、その副局長を任せられる人物を探しています。もしこれという人がいれば、教えていただけないでしょうか?」
私が頼み込むと、バーボさんは目を瞬かせた。
「それは……我々に副局長の椅子をくださる、ということですか?」
バーボさんの問いに対し、私は笑みだけを返した。
さすがに初対面の場で、言質を与えるわけにはいかなかった。しかし私はメルカ島の協力を得られるなら、副局長の座を与えてもいいと思っている。
私の笑みに対して、バーボさんは固唾を呑む。
港湾局副局長の座は、決して軽い物ではなかった。港湾局の局長は、ライオネル王国の貴族が就くことになるだろう。だがこちらは王家と港をつなぐ橋渡し役であり、実務には携わらない。実質的に港を差配するのは副局長となるはずだ。港の顔役である副局長は、大きな権限が与えられる。当然、得られる利益も大きい。また港湾局で働く人事に口を出せるため、メルカ島の人々を優先的に雇うことも可能だ。
「どうです? 私達にお力をお貸し願えませんか?」
私は再度頼み込んだ。
悪い話ではないはずだった。しかしバーボさんは即答せず、息を呑み視線を彷徨わせる。
定まらぬ視線は右にいるモーリス船長へと向かう。だがモーリス船長は、救いを求めるような島主の視線に決して応えない。
「……その、あまりに突然の話で、今すぐお答えするわけには……」
バーボさんは額に汗を流しながら視線を逸らした。その顔色から、あまり乗り気ではないことが分かってしまう。
壁際からは小さなため息が漏れた。モーリス船長だ。
「ラディックさん。ここは一度島の男衆を集めて、話をさせてあげてみてはどうです? 島民が賛同するなら、考えてみてもいいのでは?」
「ん、そ、そうだな。そうしてくれ、あとは任せていいか?」
バーボさんはすがるような目で、モーリス船長を見た。
「ええ、お任せください」
モーリス船長が髭に包まれた顎を引くと、バーボさんは安堵の息を漏らした。そして私へと向き直る。
「申し訳ありません、ロメリア様。どうも今朝から具合が悪くて」
バーボさんは頭を下げる。確かに顔色は先程から悪い。
「後のことはモーリスさ……船長に任せておきますので……」
「おや、そうでしたか。これは体調が悪いところに押しかけてしまい、申し訳ありません」
私が謝罪すると、バーボさんは慌てて首を横に振った。
「いえいえ、こちらこそなんのお構いも出来ず、申し訳ありません」
バーボさんはさらに顔色を悪くする。
「それでは、失礼します」
一礼した後、バーボさんは逃げるようにこの場から立ち去った。
食堂から出ていったバーボさんを見送ると、部屋の中で強い鼻息が鳴らされた。
音の発生源を見ると、口を尖らせるアルがいた。
「なんです、あいつ。ちょっと失礼じゃありません? 突然押しかけた俺達も悪いですけど」
「お加減が悪かったのでしょう」
私は険しい目をするアルを嗜めておく。
「モーリス船長。先程はとりなしていただき、ありがとうございました」
私はモーリス船長に礼を言う。彼の助言がなければ、何も出来ずに話し合いが終わるところだった。
「全ては島民のためですよ。島の行末のことです、島民にも話を聞く権利はあるでしょう」
モーリス船長は静かに頷く。
「ですが手伝えるのは、人を集めるまでです。お嬢さん方の話を聞いて、首を縦に振るかどうかは島民次第ですよ」
モーリス船長の言葉に私は頷いた。




