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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 メビュウム内海編~港を造って交易をおこなうことにした~

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第十八話 メルカ島①

ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!

ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。

こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。



 ヴァール諸島のボーンの船と別れてから、私達は一路メルカ島を目指した。


 途中『列島群海域』と呼ばれる、百の小島が点在する海域を通過した。ここは点在する島の影響で、風と波が複雑に入り組む難所とされる場所だった。もちろんモーリス船長が率いる熟練の船員達にとっては、自分の庭のような場所である。しかし波が高く船が揺れ、ボレル、ガット、ゼゼ、ジニは大いに船酔いした。一方船酔いを克服したアルはそんな仲間を笑い、非難の目を向けられていた。


 そんなことがあった列島群海域を超えてさらに進むと、海原の先に大きな島が見えてきた。

 島の中央には巨大な山が鎮座し、青々とした木々が覆っていた。島の東側は灰色の岸壁が聳え、波が打ちつけられている。一方で西側は黄色い砂浜が見えた。そして船が向かう南側には、石材で造られた灰色の港があった。


 怠け者号の上では、モーリス船長が指示を飛ばして船員達が駆け回る。

 私は作業の邪魔にならぬように、船員があまり来ない船首部分で船が港に着くのを待っていた。船首には他にも島を見てはしゃぐゼゼに、落ち着けと促すジニ。カモメを眺めるボレルや、まだ船酔い中のガット。そしてガットの背中をゆっくりと摩るポーラさんがいた。


「結構でかい島ですね。ロメ隊長!」

 頭上から声がして見上げると、赤い髪のアルが帆柱の上に設けられた見張り台にいた。


「もっと小さいのかと思ってた」

 アルは言いながら、見張り台を出て帆柱を支える縄を滑るように伝う。そしてある程度まで来ると縄から手を離し、帆を支える帆桁に飛び乗る。そして勢いを殺してさらに跳躍、甲板に舞い降りるように着地した。


「メルカ島はメビュウム内海でも、一番大きな島ですからね」

 私は頭の中で歴史書を紐解いた。


 ヴェッリ先生に教えてもらった歴史では、メルカ島の名前は千年前にも登場していた。大きな島であるため人も住みやすく、古の時代から交易の重要地点として栄えたのだろう。

 アルに向けて話していると、甲板から青い髪のレイがやって来るのが見えた。彼はこれまで魔法を使い、船を走らせていたのだ。


「レイ、お疲れ様です。よくやってくれましたね」

「いえ、ロメリア様。お言葉をいただくほどのことでは」

「予定よりも早く到着出来ました。レイのおかげですよ」

 私は笑顔を見せた。実際、レイの働きは大きい。本来の予定であれば、到着は今日の夜だった。しかしレイが頑張ってくれたおかげで、まだ昼過ぎだ。今から動き出せば、やれる仕事もあるだろう。私が褒めると、レイは顔を赤らめて俯いた。


 私達が話をしている間も、船はメルカ島へと近づいている。そして港から何本も伸びている桟橋の一つにその身を寄せる。

 船から桟橋に板が渡され、船員達が駆け足で降りて縄を使って船を桟橋に固定していく。


「到着したようですね、私達も降りましょうか」

 私は皆を促し、甲板から渡された板を使って桟橋に降りる。私の後にはポーラさんやジニ達が続くも、アルは面倒だと思ったのか、船縁を蹴って桟橋へと飛び降りた。


「おお、揺れてない揺れてない。地面だ」

 アルは桟橋を踏み歩き、一日半ぶりの大地を喜ぶ。


「わぁ、すごい。地面の上なのに、体が揺れてる。ねぇ、ジニ、ジニ」

「分かってるよ、俺もそうだ」

 ゼゼは笑いながら体をふらつかせ、ジニもその場で足を前後させる。ゼゼとジニに起きているのは、陸酔いという現象だろう。揺れる船に体が慣れてしまったため、揺れていない状況だと逆に体が揺れてしまうのだ。


「しばらくすれば治りますよ」

 私は二人に声をかけながら桟橋を歩いた。私も少し揺れを感じるが、足取りに出るほどではない。

 木製の桟橋を歩いて進むと、灰色の石で造られた港に到着する。


「結構立派な港ですね」

 アルが港を見回して感心する。

 確かにメルカ島の港は、広々としていて立派だった。まず大きな広場があり、灰色の石が敷き詰められている。広場の中央には四角柱の記念碑が聳えており、千年以上前にこの港が開かれたことが記されていた。


 広場の左手には、赤い煉瓦で造られた大きな倉庫が幾つも並んでいる。右手には木造の酒場や宿屋、料理店が軒を連ねていた。正面には白い漆喰で覆われた教会に、役場と思しき建物が建てられている。

 さすが千年続いた港だけあって、必要とされる設備は揃っている。しかし……。


「なんか、寂れていますね?」

 アルはもう一度港を見回す。


 メルカ島の港は立派な設備を備えていた。しかし賑わいはなかった。

 何本も伸びている桟橋には船の数は少ない。怠け者号を除けば、船首に鳥の像がつけられた一隻の船が停泊しているだけだった。倉庫の前には空の酒瓶や廃材が置かれ、使われている形跡はない。レストランや酒場にも客が入っているようには見えず、店の外には酒瓶を抱えて座り込む者や寝ている者がいた。大きな広場にも人通りは少なく、閑散としていた。


 私は記念碑の陰に子供がいることに気付いた。年齢は五歳くらいだろうか? つい先日、私の前で転んだボレルの弟に近い年頃の子供だった。しかし服から伸びる手足は細く、顔色も青白い。遊ぶ気力もないのか日陰にじっと座り込んでいた。

 港を眺める私達のもとに、船の係留を終えたモーリス船長が桟橋を歩いてやって来る。


「昔はここらも良かったんですけどねぇ」

 モーリス船長は目を細めて、寂れた港を見た。


「荷物を満載した船があちこちから集まって、港は人と物で溢れていました。風向きが変わったのは、十年程前です」

 十年程前と言われて、私は気付くものがあった。魔王軍がこの大陸に現れたのが、まさにその頃だからだ。


「魔王軍の連中は、このメビュウム内海にも手を伸ばしてきました。沿岸の街を制圧して船を奪い、内海そのものを支配下に置こうとしました」

 私は話を聞きながら顎を引いた。

 当時ライオネル王国は港を持っておらず、メビュウム内海の戦いは対岸の火事であった。だが激しい戦いがあったことは伝え聞いている。


「儂らは魔王軍に対抗するため、内海の島々を纏め上げて諸島連合を作って対抗しました」

 モーリス船長は拳を固く握りしめる。私もその言葉に頷く。

 メルカ島はメビュウム内海で歴史が古く、影響力も大きい。島々を纏める盟主として、メルカ島の人々は立ち上がったのだ。


「各島々が軍船を並べ、儂らは多くの船を出しました。内海中の船が集まりましたが、魔王軍にはなかなか勝てませんでした」

「……魔王軍は強いですからね」

 私の言葉に、モーリス船長が髭だらけの顎を頷かせる。


「ええ、あいつらは強い。命を惜しまねぇ。そこいらに出てくる海賊なんぞとは大違いです」

 モーリス船長達は護衛として海賊と戦い、時には自身が海賊となり他の船を襲うこともあるだろう。しかし彼らは戦いの専門家ではない。海賊行為は臨時収入を得る手段でしかないからだ。一方で魔王軍は、戦うことだけを目的とした戦闘集団だ。戦うために組織化され、殺すための訓練を怠らず、常に武器を作り続けている。


 街のごろつきと軍隊が戦うようなものだ。メビュウム内海を知り尽くしているという地の利はあれ、正面切って戦える相手ではない。


「儂らは次第に押され始めました。その時です、沿岸の国々が儂らに援助を申し出たのは。儂らはその提案に飛びつきました。それだけ追い詰められていたからです。そして兵士を借りて魔王軍と戦い、なんとか撃退しました」

「おお、やったな」

 話を聞いていたアルが明るい声をあげる。しかし私としては納得が行かなかった。


 ライオネル王国はメビュウム内海に面した港を持っておらず、対岸の火事であるという認識は致し方ない。しかし内海に港を持つ沿岸諸国からしてみれば、目の前で起きている戦火だ。本来ならば進んで兵士を出すべきところだ。


「……その後、何が起きたかは聞き及んでいます」

「ええ。援助の見返りに、沿岸諸国は各島々に軍勢を駐留させました。表向きは魔王軍の脅威に対抗するためということですが、実際のところは各島々を武力支配したんです」

「マジか。そいつは酷いな」

 モーリス船長の話を聞き、アルは顔をしかめた。


 各国の行動は、アルの言うとおり酷いものだった。

 東方には軒を貸して母屋を取られるという言葉があるそうだが、まさにそれだ。


「儂らメルカ島は、軍隊の駐留に対して拒絶しました。そしたら今度は沿岸諸国の援助を受けた他の島々が、儂らの縄張りを荒らし始めました。対抗しようにも、魔王軍との戦いで多くの船や男達を失っていて戦いになりません。おかげで魚のいる漁場を取られ、交易船も寄りつかなくなりました」

 モーリス船長がため息と共に肩を落とす。


 沿岸諸国の狙いは、最初からメビュウム内海の権益にあったのだろう。すぐに手を貸さず、苦境になった頃に軍を出したことからも明らかだ。しかし呆れるのは他の島々の対応だ。メルカ島と一丸となって沿岸諸国の支配に対抗すべきところを、逆に沿岸諸国の手先となるなど愚かというほかない。沿岸諸国がちらつかせた、メルカ島の縄張りに目が眩んだのだろう。


 しかしいくらメルカ島の縄張りが手に入ったとしても、沿岸諸国の属国となっては意味がない。沿岸諸国が甘い顔をしている間はいいが、状況が変われば搾取される側になる。そうなった時、もはや対抗する術はない。

 モーリス船長が広場に目を向けた。仕事もなく項垂れる大人に、頬が痩せた子供達を見る目は憂いを帯びている。


「……まぁ、潮目が悪い時もありまさぁ。さて、ラディックさんのところに案内します」

 モーリス船長が気を取り直して、私達を促した。


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