第十二話 船出②
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。
BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。
マグコミ様で連載中ですよ。
モーリス船長が操る怠け者号には、魔道具が供えられていた。魔法で風が生み出され、船はどんどんと加速していく。
「魔道具を装備しているとは、大したものですね」
私は感心して、操舵輪を握るモーリス船長に歩み寄った。
魔道具はたった一つで、家一軒が買えるほど高価な品物だ。しかも魔法使いでなければ使用出来ない。モーリス船長は魔力を持つ魔法使いでもあるのだ。
「お嬢さん。どうです、船の乗り心地は」
「快適ですよ。しかしこれだけ速いのに、船の名前が『怠け者』とはよく言ったものですね」
私は気だるげな船首像と船名を思い返した。怠け者どころか随分働き者ではないか。
「いえいえ、普段は他の船と足を合わせているんで、怠けてばかりでさぁ」
モーリス船長は、髭まみれの口を大きく広げて笑う。その顔は港で見た時よりも生き生きとしており、まさに海の男といった風情だ。
「風の魔法なら僕も使える。手伝うよ」
レイが両足を踏ん張り身構える。すると体が薄く緑色に発光し、周囲では風が巻きおこった。レイお得意の風魔法だ。
レイが右手を胸の前に掲げると、風が吹き荒れ周囲の埃が巻き上がる。
「これでどうだ!」
レイは帆に向けて腕を伸ばし、生み出した風を打ち出す。しかし風を受けたはずの船は速度が増すことはなかった。
「おい、どうした。船の速度は変わってないぞ?」
「あれ、おかしいな?」
アルが白い目を向け、レイも自分の手と帆を見返す。
「ハハハッ、魔法兵がいるたぁ、大したもんです。ですが兵隊さん。これにはちょっとコツがいるんでさぁ。儂は風の魔道具を使っておりますが、風そのものを生み出している訳ではないんです。元から吹いている風を操り、帆にぶつけているんでさぁ。風の流れを読むんです」
モーリス船長の言葉に、レイがはっと目を見開く。
アルとレイは、それぞれ炎と風の魔法を使うことが出来る。しかし自分達以外の魔法使いを見たことはなく、正式な指導を受けたこともない。風を生み出すのではなく操るという発想に、レイはただ驚いていた。
「風を操る……風を……」
レイは茫然としながら帆を見上げた。そして操られるように右手を帆に向けて差し伸べた。レイの体は淡く緑色に光り、魔法を使用しているのが分かる。しかし先程のように強い風は吹いていない。それどころか周囲で吹き荒れていた風が弱まる。だがしばらくすると船が加速しはじめた。レイが周囲の風を操り、帆に当てているのだ。
「ほぉ、こいつはたまげた。この短時間でここまで風を読めるようになるとは、天性の素質がおありだ。どうです、兵隊なんてやめて儂の船で働きませんか? いい船乗りになれる」
「ありがとうございます。ですが、まだまだロメリア様のもとで働きたいので」
モーリス船長の誘いに対し、レイは頭を下げた。
「やれやれ、振られちまいましたね。ですが風や潮にも変わり目はあります。気が変わったらいつでも言ってくだせぇ」
モーリス船長は豪快に笑うと、操舵輪を右手に掴みながら左手を空に向けた。
「さて、レイさん。あの辺り強い風が吹いているのが分かりますか?」
「いや、分かりません。遠く離れたところの風を、どうやって?」
「ちょいと風を生み出して、ぶつけてやるんですよ。ほら、魔法を何かにぶつけると、当たった感触が分かるでしょう?」
モーリス船長の言葉は、魔法を使えない私には理解出来ない感覚だった。だが同じく魔法を使えるレイには分かるのか、うんうんと頷く。
「あとはそこに手を伸ばすように、風を操るんです」
「なるほど……こうか!」
レイが空に向けて手を伸ばす。するとまた船が加速した。
「おお、それです! 本当に才能がおありだ。一回教えただけでこれが出来たのは、レイさんで二人目ですよ」
モーリス船長が感心した声を上げる。私もレイがここまで出来るとは思わなかった。すると私の隣でも、感嘆の声が上がる。
「魔法を使えるなんて素敵!」
熱を帯びた声を上げるのはポーラさんだった。ポーラさんはレイを一心に見つめながら、近くにいるガットを手招きする。
「ねぇガット、レイさんってお付き合いしている人っているのかしら? 貴方、何か知らない?」
ポーラさんがレイを見たまま尋ねるが、当のガットは目を見開きポーラさんを見ていた。
「ねぇ、レイさん。魔法って、どうやって使うんですか?」
ポーラさんはいつもより明るい声を出し、レイの元に駆け寄る。残されたガットは、頭と肩をこれ以上ないほど落としていた。
「ヒャッホゥ! 飛ばせ飛ばせ!」
頭上から底抜けに明るい声が響く。見上げれば帆柱を支える格子状の縄に、いつの間にかアルが登っていた。風を受けて実に爽快そうだが、揺れる船上で高いところにいて危なっかしいことこの上ない。
「アル、落ちても知りませんよ」
「大丈夫ですよ、ロメ隊長!」
アルは笑うと縄から飛び降り、甲板に着地する。揺れる船上で大した身のこなしだ。
「ねっ、大丈夫でしょ?」
「元気があるのは結構ですが、船酔いしても知りませんよ」
「なーに、大丈夫ですよ!」
アルは明るい声を返す。笑うアルの後ろでは、ゼゼやジニ、ボレルも縄を登ろうとしていた。
船の上では特に仕事もないので、遊んでもらっても構わない。ただその元気がいつまで続くか見ものだった。




