第二十七話 帰郷④
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屋敷の主であるヴェッリ先生が帰宅した。私とクインズ先生が出迎えると、先生は無精髭の生えた顔を少しぎょっとさせた。
「おい、ロメリア。何かあったのか?」
ヴェッリ先生が驚くのも無理はない。私が泣きはらした顔をしていたからだ。だがもう心配はいらない。
「いえ、お気になさらず。大丈夫です」
「そうか? 分かった。では俺の書斎で話そう」
ヴェッリ先生は深くは追及せず、奥の部屋に目を向けた。
「ロメリア様、あとでお茶をお持ちします」
フィーを抱くクインズ先生が、軽く頭を下げる。私はお礼の会釈を返した後、ヴェッリ先生の書斎に向かった。
「おう、入って適当に座ってくれ」
ヴェッリ先生が書斎に入っていく。だが私は二の足を踏んだ。部屋には足の踏み場などどこにもなく、座る場所もなかったからだ。
部屋には大きな執務机や膝丈のテーブルが置かれているが、本や書類が積み重ねられ山となっている。部屋の壁という壁には本棚が置かれているが、全てが埋まり、それでもなお入りきらなかった書類や本が床に置かれ、積み重ねられていた。
私もよく書類の山に埋もれているが、ここまでではない。クインズ先生はこの手の無頓着を許さない人だが、書斎だけはヴェッリ先生の聖域として諦めているようだ。
「どうした? 早く入れ」
部屋の前で立ち尽くす私に、ヴェッリ先生が肩越しに見る。私は息を吐いた後、大きく吸い込み、部屋の中に分け入った。
「話はレイから聞いている。魔王軍はグラナの長城の外に拠点を築いたようだな」
ヴェッリ先生は執務机に積まれた書類を持ち上げて、後ろの書類の山に載せる。
こうして書類の山が出来ていくのだなと、私は全ての原因を理解した。
机を空けたヴェッリ先生は、グラナの長城を中心とした地図を広げた。机の引き出しから、白と黒の駒も取り出す。
「ガリオス達一万体の兵士が、立て籠もるギレ山砦はここ。ほかに四か所再建された砦があり、それぞれ千体程の兵士が立て籠もっています。そしてグラナの長城にも、守備兵のほかに一万体の兵力が残っているはずです」
私はギレ山砦やそのほか四か所の砦、そしてグラナの長城がある場所に魔王軍を示す黒い駒を置いた。ヴェッリ先生は地図を見て、無精髭が生えた顎を撫でる。
「ふーむ。この手筋はギャミだな」
地図を睨みながら、ヴェッリ先生は目を細めた。
私とヴェッリ先生は、魔王軍特務参謀のギャミと少なからず面識があった。二年前に起きたガンガルガ要塞攻略戦は、ガリオスが停戦を持ちかけるという形で終結した。
当初の停戦期間は一日という話だったが、その一日の間に私は魔王軍と交渉し、停戦期間の延長と各種戦時条約の締結を持ちかけた。何故なら我ら人類と魔族の間には、戦時条約が何も結ばれていなかったからだ。そのため人類も魔族も、降伏や停戦を行えず、相手を滅ぼすまで戦うしかなかった。
私はこの状況を打開すべく、魔族と交渉して最低限の戦時条約を締結した。交渉の際に魔王軍側の窓口となったのが、特務参謀のギャミであった。そして私や補給部隊を連れて戦地に赴いたヴェッリ先生は、ギャミと交渉することで互いをよく知ることとなった。
「先手を許してしまったな。あの御仁は、相変わらず嫌な手を打ってくる」
言葉とは裏腹に、ヴェッリ先生の口の端は笑みに歪んでいた。
私とヴェッリ先生は、ギャミと親睦を深めるために時には盤上遊戯にも興じた。そしてヴェッリ先生とギャミは、互いに腕を認め合う好敵手となった。
「本来なら兵力の少ない砦を、ひとつずつ潰していきたいところだが……」
ヴェッリ先生が再度、髭の生えた顎を撫でる。
兵法としては、多数で少数を倒すのが基本だ。これに倣えば少数で立て籠もる砦を、ひとつずつ潰していくべきだろう。だがもちろん魔王軍もそれをさせてはくれない。
「しかしそうなれば、ガリオスが出てくるでしょうね」
私の指摘に、ヴェッリ先生も頷く。
小さいとはいえ、防衛設備のある砦を攻めるとなると、数日はかかってしまう。砦攻めをしている背後からガリオスに攻撃されれば、ひとたまりもないだろう。
ガリオスは一体で千体の魔族に匹敵する戦力を持つ。ガリオスがギレ山砦に立て籠もっている以上、全力を向けねば危うい。しかしそうなると戦力を分散せねばならず、ギレ山砦を攻撃する兵力が少なくなってしまう。
「となると、打てる手は限られてくるな」
「はい。兵糧攻めも考えましたが……」
「相手が兵糧をどれだけ蓄えているか分からないし、それに時間を掛けるのも得策ではないな」
ヴェッリ先生の答えに私は頷く。ギャミに時間を与えれば、何をしてくるか分からない。ギャミと長期戦の知恵比べはしたくなかった。
「短期決戦。短い時間で落とさなければならなくなるな」
「はい。ですが、そのためには戦力が足りません」
「ラナル防壁に派遣している四万人では、確かに少ないな。ギレ山砦を攻略するには三万人、最低でも一万人の増援は必要だ」
ヴェッリ先生は妥当な数字を述べた。ギレ山砦を攻略するのには、それぐらいの戦力が必要だ。しかし大軍を集めて移動させるには何日もかかる。そこまでは待っていられない。それに時間を与えれば、ギャミにまた先手を許すことになる。
「短い時間でギレ山砦を攻略するために、新型の攻城兵器を使おうと思っています」
「ああ、あれか」
ヴェッリ先生が地図から顔を上げた。
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