第二十五話 帰郷②
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ラクリアは数年前に遷都された新たな王都だった。レイの言うとおり日が暮れる前に到着し、翼竜は街のはずれにある練兵場に着陸した。練兵場は翼竜を飼育する竜舎や、昇降用の広場もあるので着陸に支障はない。
「ロメリア様。馬車を用意させます。私はその後、ヴェッリ特別顧問を探しにいきます」
翼竜から飛び降りたレイは、私が降りるのに手を貸しながら話した。王宮で特別顧問の役職に就いているヴェッリ先生は、私の師でもある人物だ。また兵士を訓練し、戦争に必要な物資を集めて送ってくれる。王都にいる間に会って、今後についても話しておきたい。
「お願い出来ますか? 王城ラクラーナにいるはずです。私もヴェッリ先生のお宅に向かうので、そこで会いましょうと伝えてください。あと王都にいる二十騎士も集めて」
私が命令すると、レイは敬礼でもって答えた。そして私はレイが用意してくれた馬車に乗り込み王城ラクラーナには……向かわなかった。
時刻はすでに夕暮れである。しかも私は帰還の先触れを送っていない。軍事上必要なこととはいえ、突然押しかけて一国の王に面会は出来ない。しかるべき人物に仲介を頼むべきだった。
王城ラクラーナに向かわない代わりに、私の家であるグラハム伯爵家の邸宅に向かった。
馬車を屋敷の前に乗りつけて降りると、門の向こうに立派な屋敷が見えた。
「あっ、ロ、ロメリア様?」
馬車から降りた私を見て、門番が驚きに表情を固める。旧王都ラーオンの屋敷でも働いてくれていた門番だ。そういえば昔、彼には袖の下を渡したことがあった。あのあと謝罪と共にお金を返しに来たので、いい人物なのだろう。
「お久しぶりです。門を開けてくれますか?」
「も、もちろんです。お帰りなさいませ」
門番が開けてくれた門をくぐると、芝生が整えられた広い庭が見えてきた。その奥には青い屋根に白い外壁の屋敷が見えてくる。玄関を開けて屋敷に入ると、広いエントランスには赤い絨毯が真っ直ぐと伸び、二階へと続く大きな階段につながっていた。
「こ、これはロメリアお嬢様。お帰りなさいませ」
私が玄関で毛皮の外套とミトンの手袋を外していると、髪に白髪の交じった老人が息を弾ませやってくる。彼は屋敷を取り仕切る家令だ。家令に遅れて、二人の使用人もやってくる。
「連絡もなくてごめんなさい。仕事で急に戻ることになったの。お父様達は屋敷にいる?」
私は脱いだ外套と手袋を使用人に預けながら尋ねた。
私には両親と二人の兄がいる。この時間ならば、お父様は屋敷にいると予想して戻って来た。しかし仕事や晩餐会で、外にいる可能性もある。
「は、はい。旦那様でしたら、お部屋でお休みです。ただ奥様は御病気でして、旧王都ラーオンで静養中です。グラム様はヒューリオン王国への特使として出発されております。グリア様はグラハム伯爵領に残られております」
家令がよどみなく答える。お母様は病気と言っているが、住み慣れたラーオンを離れたくないのだ。そして長兄のグラム兄さんと次男のグリア兄さんは仕事で不在らしいが、特に残念とは思わない。もともと家族仲は希薄で、会っていない時間のほうが長いくらいだ。
「そう。お父様にお会いしたいのだけれど?」
私がいつも使っている手袋を嵌めながら尋ねると、家令が頷いた。
「分かりました、旦那様にお伺いしてきます。居間のほうでお待ちを――」
「その必要はない」
頭上から声が響き、居間へと案内しようとした家令を遮った。声がした方向に目を向ければ、階段の中ほどに一人の男性が立っていた。初老に差し掛かっており、顔の彫りは深く皺が刻まれている。髪にも白髪が目立ち始めていた。
「お父様……」
私は階段を見上げて呟いた。この人物こそ、私の父であるグラハム伯爵その人だ。
「お久しぶりです。突然戻って来て、申し訳ありません」
私は頭を下げた。自分の家ではあるが、連絡もなく戻って来ては迷惑だろう。
「……話があるのだろう。部屋に来なさい」
お父様は私を見つめた後、視線を自分の部屋へと向けた。私は頷き、階段を上ってお父様の後に続いた。お父様の部屋は、膝丈のテーブルと長椅子が二つ置かれていた。お父様は長椅子に腰かけ、私も座る。
「ロメリア。今日は一体、何の用だ?」
お父様は早速本題に入った。私が会いに来たということは、頼みごとがあるからだと予想しているのだ。実際そのとおりで、私はお父様に会うたびに迷惑をかけている気がする。
「実は魔王軍に動きがあり、その対処を任命されました。つきましてはアラタ王に急ぎお話ししたいことがあります。面会の約束を取り付けていただけませんか?」
私はお父様にお願いした。父であるグラハム伯爵は、ライオネル王国で宰相の地位にある。王の右腕であり国家を差配する重鎮。王に突然の面会を取り付けることも可能である。
「分かった。お時間を作ってもらえるようにお願いしてみる」
お父様はすぐに承諾してくれた。しかし内心は突然やって来て、都合のいい頼み事ばかりする娘に、半ば呆れていることだろう。
親不孝ばかりしているなと反省していると、お父様の小さな瞳がじっと私を見つめる。
お父様は時折こうした目で私を見る。何を考えているのか分からず、居たたまれなくなる。
「……食事は済んでいるか? 何か用意させようか?」
「いえ、大丈夫です。この後はヴェッリ様に合う予定がありますので」
私は腰を上げた。王都に居られる時間は限られている。アラタ王に会う以外にもやらねばならぬことはたくさんあった。
「そうか。アラタ王の面会の時間が取れれば、そちらに使いを送るとしよう」
「お気遣いありがとうございます」
私は頭を下げながら、アラタ王をどう説得したものかと考えた。こちらは簡単ではない。説得の手順を巡らせていると、お父様がまた小さな瞳で私を見つめる。私が居心地悪くしていると、視線はレースがあしらわれた黒い上着に注がれた。
「体には気をつけなさい。あと、いつでも帰ってきなさい。ここはお前の家なのだから」
お父様は無表情のまま話した。やはり女の私が軍を率いることを、いいことだとは思っていないのだろう。
遠回しにやめろと言われたが、そういうわけにもいかなかった。
全ては私が始めたことなのだ。必ず最後までやり遂げねばならない。
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