第十九話 六国会議⑥
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金髪の男性を前にして、椅子に座っていた私達は揃って立ち上がり一礼する。この男性こそ人類最大の版図を誇るヒューリオン王国、その第十五代国王ヒューリオン王その人だ。
私達の礼にヒューリオン王は頷き着席する。そして私達も椅子に着く。
「今日は私の呼びかけに応じ、集まってくれたことに感謝する」
ヒューリオン王は、滑らかに口を動かす。ヒューリオン王国は連合軍の盟主であり、そして王は今回の六国会議の開催を呼びかけた人物だ。
「また、今日は古い知り合いに会えて嬉しく思う」
ヒューリオン王は円卓につくゼファー公爵やヘレン王女、私へと目を移し、最後に右隣にいるグーデリア皇女に目を向けた。
身重であるため部屋で休むこととなったレーリア夫人を含め、私達は共に戦いガンガルガ要塞を攻略した。ヒューリオン王は王位を継いでも、私達を忘れないでくれているのだ。
ヒューリオン王はグーデリア皇女を見て、顔を綻ばせる。対する皇女も軽く会釈する。二人は幼少期を共に過ごし、大人になってからも忘れず互いを想い合っていた。しかし立場は二人の愛を許さず、両者の恋心は儚く散った。
見つめ合う二人の視線に未練はない。ただ互いを尊敬する眼差しだけがあった。
「会議の直前まで仕事とは、忙しくされておられるようですね」
グーデリア皇女が、会議の直前まで文官を引き連れていたことを指摘する。私も忙しくしているほうだが、一国の王ともなれば移動している間も仕事をせねばならないのだ。
「いや、慣れぬ仕事に手間取るばかりでして」
ヒューリオン王は、髭の下にある顔に照れ笑いを浮かべた。しかしこれは謙遜というものだった。私の見たところ、ヒューリオン王はかなりうまく国をまとめている。
ヒューリオン王国は先代の第十四代ヒューリオン王が、太陽王と称されるほど立派な人物であった。彼は内政に外交、軍事にと全て一人で判断を下し、その上で失策がほとんどないという歴史に名を残す名君であった。
偉大すぎる先代を持つと、次の世代は苦労する。何をやっても比較されるからだ。下手をすればヒューリオン王国は、謀反や反乱が起きていたかもしれない。しかし現ヒューリオン王はうまく国内をまとめ、反乱の兆しはない。さらに六国会議を主導し、国内外にも自らの権威を示している。在位二年目の新王にしては、満点と言ってもいい滑り出しだ。
「さて、このまま世間話に花を咲かせたいところだが、そうもいかなくなった」
ヒューリオン王は顔を引き締め、円卓に置いていた書類を手に取り上げた。そして捨てるように再度円卓に置く。
六国会議では魔王軍に対する戦略を語り、相互に助け合うための条約を取り決める予定であった。ただし会議で話し合われる内容は、事前に各国の官僚達が何度も協議している。すでに大筋での合意は取れており、私達は会議に出席して調印するだけでよかった。しかし今や、事前に協議した魔王軍に対する戦略は、白紙に戻ったと言っていい。
「まさかグラナの長城の外に砦を築くとは、思いもしませんでしたね」
ゼファー公爵が溜息を吐く。数日前に行われた第九次ラナル平原の戦いは、魔王軍が撤退し連合軍の勝利となった。しかし撤退した魔王軍の一部はグラナの長城に逃げ帰ることはなく、長城の外に新たな砦を築き立て籠もったのだ。
予想もしていなかった砦が突如出現したため、連合軍はグラナの長城攻略のための戦略を練り直すこととなった。当然六国会議で交わす予定であった条約も、一からやり直しである。
「その報告は受け取っている。だがここは実際に戦場に立った、ロメリア様の意見を聞きたい」
ヒューリオン王が澄んだ瞳を私に向ける。私は顎を引き立ち上がった。そして首を返し背後に控えているレイに目を向ける。レイは先端に木の板がついた棒と、小さな袋を私に差し出す。私は棒と袋を受け取り、袋から黒い駒を取り出した。
「ラナル平原から撤退した魔王軍は、半数はグラナの長城に帰還しました。しかし一万体程が残り、長城の外にある山砦に入りました。山砦のある場所はここです」
私は円卓に広げられた地図の上に、魔王軍を示す黒い駒を置く。ただし手が届かないので、棒を使って差し出すように配置した。
「元はローエンデ王国が建設した砦を、再利用したものと聞いているが?」
グーデリア皇女が問い、私は頷く。
「はい。記録を遡れば、ギレ山砦という防衛施設があった場所です。魔王軍は以前から再利用のための準備をしていたようです。またほかにも再利用した砦がないか、周辺を調査しました。するとほかにも四箇所、魔王軍が再建した砦や山城が確認されました」
私はさらに四つの駒を、棒を使って配置する。
「こちらは砦や山城の規模から計算して、千体程の魔王軍が守備しているものと予想されます。ですが正確な数字はまだ判明しておりません」
私は分かっていることだけを簡潔に報告する。
「確かこの辺りには、ローエンデ王国が築いた砦がほかにもあったはずです。魔王軍はほかにも廃棄された砦を再建するつもりかもしれません。その調査はどうなっていますか?」
「現在調査中です。ただ古いものを含めると膨大な数となります。時間がかかるでしょう」
ゼファー公爵の問いに対し、私は地図に目を向けた。グラナの長城付近は険しい山や森に囲まれている。小さな砦を築くには絶好の場所であり、調査は難航が予想された。
「ロメリア様。もし攻略するとなれば、貴方はギレ山砦を攻略することが可能ですか?」
ヒューリオン王が翡翠の瞳を向ける。私は少し考えた後に頷いた。
「可能です」
私の断言に、各国の代表からは声が漏れる。
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