第十八話 六国会議⑤
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六国の間。それはガンガルガ要塞の主塔、その最上階にある部屋のことであった。
かつて魔王軍に占拠されていた時は、要塞を守る守将の居室として使用されていた。しかし連合軍の手に渡った今では会議が開かれる場所となり、大きな円卓が置かれていた。
円卓の周囲には背の高い六つの椅子が並んでいる。椅子の背もたれには浮き彫りが施され、それぞれ太陽、月、車輪、五つの星、大鷲、獅子の意匠が施されている。
私はアルとレイを伴い、六国の間に入った。円卓を囲む椅子は、すでに三つが埋まっている。
大鷲が翼を広げる椅子には、ゼファー公爵が茶色い髪の下にある目を書類に走らせていた。その右隣ではヘレン王女が、車輪の意匠が施された椅子にちょこんと座っている。彼女の前には何枚もの書類が広げられ、女性秘書官から書類の内容について教えを受けていた。
ヘレン王女のさらに右隣には、五つの星の意匠が施された椅子が置かれていた。星の下には白髪交じりの老人が座っている。青い軍服に身を包む老人の顔は、赤黒く日に焼け皺が刻まれている。その皺の間にはいくつもの傷跡が見て取れた。
この老人は、ホヴォス連邦の海軍を率いるドレッド提督だろう。今日彼が出席すると、事前に話を聞かされていた。
実は会うのを楽しみにしていた。ドレッド提督は大小三百を超える海戦を経験しており、陸にいるよりも海にいた時間のほうが長いという程の人物だ。
ドレッド提督は、太い眉の下にある目で私を見る。すでに齢六十を超えているが、その目には力があった。老提督は私の姿をまじまじと見た後、軽く顎を引いた。会釈を受け、私は少し驚いた。ドレッド提督とはこれが初対面だ。まさか敬意を払われるとは思わなかった。
私は会釈を返し、ドレッド提督の右隣にある獅子の紋章が刻まれた椅子に座る。アルとレイは私の背後に並んで立った。
椅子についた私は円卓を見る。机の上には大きな地図が置かれていた。地図は東に突き出た半島を中心に描かれている。この半島こそ、魔王軍に残された唯一の拠点ローバーンだ。三方を切り立った岸壁に囲まれ、陸路がつながる西にはグラナの長城が聳え立っている。今や半島そのものが要塞のようであった。
硬い守りに囲まれた半島を眺めていると、六国の間に長い髪の女性が入室してくる。すると誰もが顔を上げた。
二人の侍従を引き連れた女性の髪は、月の雫のように銀光を放ち肌は雪の如く白い。身につけているドレスは肌と同化するほどに白いが、裾に向かうに従い青味が増して、夜の帳のような色彩を放っていた。
月夜を統べる女王の如き威厳を放つこの女性は、フルグスク帝国のグーデリア皇女だ。
彼女もゼファー公爵やレーリア夫人、ヘレン王女と共に二年前のガンガルガ要塞攻略戦に参戦していた。私達とは旧知の間柄であり、戦場を共にした戦友である。しかし久しぶりに会った彼女は、美しさと共に威厳を増していた。まるで神話の女神のような神々しさを放っている。
私達の注目を意に介さず、グーデリア皇女は静かに室内を進み、月の紋章が刻まれた椅子に着く。座る所作も美しい彼女は、まるで別世界の住人にも思えた。旧知の私達でも、気安く声をかけることがためらわれる。
誰が最初に声をかけるかと互いに目を見合わせていると、外から慌ただしい足音が聞こえてきた。入り口へと目を向けると、五人の男性が入ってくる。
先頭を歩く男性は短い金髪に日に焼けた肌、口元には整えられた髭を生やしていた。
真紅に染められた天鵞絨の外套を羽織る男性は、六国の間を大股で進む。その背後を四人の文官が早足で追いかける。二人の文官が金髪の男性の両脇を歩き、書類を差し出しながら矢継ぎ早に報告していく。金髪の男性は歩きながら頷き、そして指示を出していく。
二人の文官は指示に頷き下がる。すると入れ替わるように三人目の文官が書類を差し出す。男性は書類を受け取るとサッと目を通し、短く頷いて書類を返した。三人目の文官が書類を受け取り一礼すると、四人目に控えていた文官が持っていた書類の束を差し出す。男性は書類を受け取ると、六国の間にある太陽の浮き彫りが施された椅子へと向かい、その前に立った。
「さて、そろそろ時間かな」
男性が机に書類を置いたその時だった。正午を伝える鐘の音が鳴り響いた。




