第十七話 六国会議④
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私達が話していると、そこに数人の兵士が歩み寄ってくる。全身鎧に身を固めた兵士達の左肩には、隼を模した徽章が付いていた。ハメイル王国が誇る隼騎士団の騎士達だ。その先頭に立つのは、茶色い髪に精悍な顔つきの青年だった。
確か隼騎士団の隊長であるゼータだ。ゼータとゼファー公爵の顔つきはどことなく似ていた。そういえばこの二人は兄弟だったなと、私は思い出す。
「……兄上、お久しぶりです」
ゼータが重い口を開く。弟に気づいたゼファー公爵は、朗らかな顔を一変させた。顔は鋼鉄のように固まり、目は細められる。そして鋭い視線を弟に向けた。
「報告は旅の途中で受け取って知っている。随分と勝手をしたそうだな」
ゼファー公爵の声にゼータは息を呑む。一昨日行われた第九次ラナル平原での戦いにおいて、ゼータは麾下の隼騎士団を率いて独断専行をした。
本来であればハメイル王国軍と我がライオネル王国軍は足並みをそろえ、魔王軍が打って出るまで守りに徹すると言う方針が決められていた。ハメイル王国軍の指揮を執っていたジスト将軍も、この方針に同意していた。しかしゼータは自ら指揮する隼騎士団を勝手に動かし、魔王軍に攻撃を開始したのだ。
私は息を吐いた。軍隊は規律が命である。命令違反は、本来は許されない。しかし戦場においては、しばしば独断専行は許される傾向にあった。何故ならば勝利を決定づける勝機というものは、突如として戦場に現れるからだ。
不意に出現した好機は、時間が立てば霞のように消える。後方の指揮官に確認や許可をとっている暇はなく、勢い現場の判断に任せるしかないことがあるからだ。そのため独断専行もやむなしという考えが、現場の指揮官の中には一定数存在している。
現場を知る指揮官であれば同意する者も多く、私も一概に否定出来ない。
だが勝手が許されるのも、成果を出した場合のみだ。勝手に突撃したゼータは、敵の罠にかかり、包囲されて全滅の憂き目にあった。彼らを助けるために連合軍は動かねばならず、私も切り札であった焔騎士団と蒼穹騎士団を派遣した。魔王軍の狙いは救出に来た援軍を叩くことであり、私達も少なくない被害を受けた。
「お前は自分の命だけではなく、騎士団に加え連合軍そのものを危険に晒した」
ゼファー公爵が声に怒りを滲ませる。ゼータの罪は大きい。たとえ弟であっても、彼を処罰せねばハメイル王国は連合軍から信頼を失うだろう。我がライオネル王国としても、ゼータに対して何の処罰もしないと言うのであれば、抗議文を送らねばならない立場だ。
ゼファーは難しい立場に立たされていた。兄として弟に厳しい処罰を下したくはないだろう。しかし身内に甘い処罰を下となると、各国に示しがつかない。
どう裁くのかは重要な問題である。だがこれはハメイル王国の問題だ、他国の人間である私達が立ち会っていいことではない。それに見ていて楽しいものでもない。私はこの場から離れるべく、ヘレン王女とレーリア夫人に目配せをする。
ヘレン王女は私の視線に気づき頷き返すが、レーリア夫人は動かない。
ゼータを見据えるゼファー公爵が、目を見開き拳でゼータの顔を殴りつけた。殴られたゼータは地面に倒れた。
ヘレン王女やレーリア夫人が息を呑む。だがゼファー公爵の怒りは収まらない。腰の剣に手をかけると、白刃を煌めかせてゼータへと向ける。
見上げるゼータは顔を青ざめさせるも抵抗はしない。跪き首を差し出すように伸ばした。
「ちょ、ちょっと、ゼファー」
レーリア夫人が、夫の左腕の服を摘んだ。
ゼータの行いは極刑に値する。しかしゼファー公爵とゼータは兄弟だ。軍規に反したとはいえ、兄が弟を処刑したとあっては外聞が悪い。
レーリア夫人に止められ、ゼファー公爵は顔に深い皺を刻む。
怒りかそれとも葛藤からか、ゼファー公爵の持つ剣が震える。揺れる剣先はゼータの左肩へと向けられ、肩を彩る隼の徽章を弾き飛ばした。
「最前線だ! 隼騎士団の隊長の任を解く。今後は一兵卒として、最前線に立て!」
ゼファー公爵は沙汰を出して剣を納める。
血を見ることがない結末に私達は安堵した。しかしこれは重い罰だった。最前線ともなれば、生きて帰れる保証はない。ゼファー公爵は自分の手ではなく、敵の手にかかって死ねと言っているのだ。
ゼファー公爵の命を聞き、ゼータは立ち上がり背筋を伸ばした。
「はっ、ハメイル王国の名に恥じぬ働きをしてみせます!」
ゼータは敬礼して高らかに答えた。




