第九話 会議②
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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マグコミ様で連載中ですよ。
グラン達の報告書を机の上に置いた私は、部屋に集まってくれたアル達を見る。
「お待たせしました。では会議をしましょうか」
私は言いながら室内を見回した。打ち合わせをしようにも、執務室にあるテーブルや長椅子には書類が山積みとなっており、落ち着いて話も出来ない。
「応接室に行きましょう」
私は立ち上がり、机の上にある筒状の地図を手に取る。
「ロメリア様、お持ちしますよ」
レイが手を差し出してくる。持ってもらうほどの荷物ではないが、地図を渡すとレイは嬉しそうに私の後をついて歩く。さらに廊下で私を待っていたゼゼ、ジニ、ボレル、ガットが合流して後に続く。
アル達を連れて館の応接室へと移動する。来客を応対する部屋の床には赤い絨毯が敷かれ、中央には膝丈のテーブルが置かれていた。テーブルの周囲には一人用と四人用のソファーがそれぞれ二脚、テーブルを囲むように配置されている。
壁には海の風景が描かれた絵画がかけられ、棚に置かれた花瓶には花も生けられている。客人を迎えるための部屋は、私の執務室と違って落ち着ける。ここで仕事をしたいぐらいだ。
私は一人用のソファーに腰をかけると、右手側にアル、ボレル、ガットが座り、左手側にレイ、ゼゼ、ジニが座る。
地図をテーブルに広げる。地図にはメビュウム内海とその沿岸が描かれていた。
メビュウム内海はその名のとおり大きな内海であり、大小さまざまな島が点在している。特に中央には大きな島があり、すぐ下にはメルカ島と書かれていた。
「さて皆さん。突然ですが問題です」
私は会議に集まった六人を見回す。
「経済を活性化させるには、何が必要か分かりますか?」
私は人差し指を立てて問題を出すと、ゼゼが勢いよく手を挙げる。
「はい、ロメリア様!」
「では、元気のいいゼゼ君」
「分かりません!」
ゼゼは満面の笑みを浮かべて答えた。本当に何も考えていない顔に、周りのアル達も呆れる。
「だったら手を挙げるなよ」
隣にいたジニがゼゼの頭を押さえる。まぁ、笑顔だけなら満点としておこう。
天真爛漫な笑みを見せるゼゼの隣で、レイがおずおずと手を挙げる。
「間違っていたらすみません。金の流れ、物の流れ、人の流れでしょうか?」
「正解。よく勉強していますね」
「以前ロメリア様が、ヴェッリ先生やクインズ先生とお話ししているのを聞きまして」
レイが頬を赤らめて照れる。しかし聞いた話を理解しようとする姿勢は大事だ。
「レイの言うとおり、経済は大きく分けてお金と商品。そして人の流れで構成されています。この三つが上手く循環することで、経済は発展していきます」
「ならこの港は、商品を集めるためのもの。ということですか?」
私の言葉に、アルが問いかける。
「そのとおりです。交易が行われるようになれば、この港にあらゆる物が集まるようになるでしょう。そして市場を設ければお金がやり取りされます。この二つが揃えば、商人達もやって来ることでしょう。ですが現在、この港には商人を受け入れる機能がありません。決定的に不足しているものがあります」
「それは働き手、ということですか?」
今度はボレルが小さく手を挙げる。私は頷いた。
「そうです。まずやって来た船から、荷下ろしをする作業員が必要になります。それに商人や船員が体を休める宿や料理店に酒場、気晴らしのための賭博場なども必要となるでしょう」
私は指折り数えた。長い航海を終えた船員達を迎え入れるため必要だ。それに彼らが稼いだ金を、この港で使ってほしいという目論見もある。
「でもロメ隊長。ギリエ渓谷で金を採掘していた連中が、ここにいるじゃないですか。あいつらでは駄目なんですか?」
アルが提案するが、私は首を横に振った。
「彼らは一時の出稼ぎ労働者です。港が完成して建設事業がなくなれば、ここを去るでしょう」
私としても、彼らに残ってほしい。しかし一攫千金を夢見てやって来た者達は、他にもっと儲かる話を聞けばそちらに行ってしまうだろう。この場所に残るのは、一割もいないというのが私とヴェッリ先生の予想だ。
「それに、必要なのは男手だけではありません。料理や掃除、洗濯をしてくれる女性も必要です。ああ、娼婦といった人達も揃えなければいけませんね」
私が必要なものを挙げていくと、急にアル達が私から視線を逸らした。レイなど顔を赤らめ居心地が悪そうに体を揺すっている。
「ゴホン。それで話を戻しますが、どうするんです? 確か移住者の集まりは悪いんですよね?」
アルがわざとらしい咳払いをする。確かに移住者はあまり集まっていない。カシューが辺境という印象があるのだろう。港が本格的に稼働すれば、移住する人も増えるかもしれない。だがそれでは遅いのだ。ここにやってきた商人達に、不便な場所だと思われたくない。
「ですので、この港で働いてくれる労働者を募りに行こうと思います」
「ロメリア様が直接ですか? 一体どこに?」
レイの質問に、私は机に広げられた地図に目を向けた。
メビュウム内海には、大小幾つもの島が存在する。私は内海の中心にある大きな島を示した。指の下にはメルカ島と書かれている。
「ここです。この港から北上したところにあるメルカ島に向かいます」
「なるほど、俺達はその護衛ですね。しかし労働者を募るだけなら、危険はなさそうですね。島に着いたら海水浴でもしますか?」
「それいいね、ロメリア様って泳げるんですか?」
アルの提案にゼゼが乗り、私を見る。
「そこそこ泳げますよ。子供の頃は湖でよく遊びましたから」
ライオネル王国では、避暑の遊びとして湖や川で泳ぐことが人気だ。私も子供の頃、お父様に連れられて別荘の近くにある湖で泳いだものだった。
「へ、へぇ……。じゃ、じゃぁ水着とかも持っているので?」
問うボレルの声は、何故か裏返っていた。
「ええ、ありますよ。ああ、でも水着は実家に置いてきました。それに最後に着たのはもう何年も前のことですから、体に合わないでしょうね」
「なら、新しく水着を作って遊びましょう。泳いで釣りして日光浴!」
アルの声はどこまでも明るい。しかしレイは何故か顔を赤らめていた。暑いのだろうか?
「遊ぶのはいいですが、海水浴はやめたほうがいいですよ。メルカ島の近くでは、鮫がウヨウヨいるらしいですから」
私が忠告すると、当てが外れたアルが顔を顰める。ボレル達も残念そうに目を瞑り、レイなど肩を落として落胆していた。そんなに泳ぎたかったのだろうか?
「ですが鮫以上に気をつけなければいけないのは、メビュウム内海に出没する海賊です。特に最近は、覆面をした海賊が暴れ回っているらしいですよ」
「本当ですか? なら、次の仕事は海賊退治ということですか? 冒険小説みたいですね」
アルは目を輝かせる。だが私は首を横に振った。
「退治はしませんよ。というか海賊をしているのは、メビュウム内海の島々に住む人達です」
私は内海が示された地図を見た。地図には先程指を差したメルカ島以外にもヴァ―ル諸島やマミアナ列島といった島々が存在している。また小さな無人島が連なる、列島群海域といった場所も存在する。
「それぞれの島に住む人達は、縄張りを持っています。縄張りを勝手に通る船は襲撃しますが、通行の許可を取れば襲ってくることはありません。労働者を募ることが今回の目的ですが、これには彼らを味方につけるという意味もあります」
「ああ、なるほど。働く場所を与えることを条件に、仲間に引き込むんですね。でもロメ隊長。信用出来るんですか? 海賊をしているような連中でしょう?」
アルが頷いたあと、懐疑的な視線を向ける。確かにその懸念は理解出来る。
「そこは信頼するしかありません。メルカ島はメビュウム内海の中央に位置し、中継地としては絶好の場所です。それにこれまで港を持っていなかった我々には、港を運営する知識や技術、経験が圧倒的に足りません。彼らを雇って、協力関係を築くしかないのです」
私は地図に記されたメルカ島に目を落とした。




