表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第二章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~
47/410

第九話 蟻人掃討戦⑦



「お前たち、行くぞ!」

 隊を率いるアルが、手綱を引いて槍を掲げる。馬が前足を上げて嘶き、坂道に向かって一直線に駆けていく。遅れることなく副長のレイも続いた。


 坂道は崖と言っても差し支えないほどの急斜面。しかし臆することなく兵士たちも続く。

 馬に身を預けて崖を一気に下り降りると、そのまま敵陣の後方をついた。

 敵本陣は後方に現れた別動隊に気づいたが、防御陣形に移行させる暇も与えない。風の様に馬を駆るアルとレイの二人が、敵本陣を守る護衛に食らいついた。

 二人は重武装の近衛蟻を紙のように切り裂き、王蟻が乗る輿に迫る。


「もらった!」

 赤い飾り布で彩られた槍が王蟻の首を捕らえる。だが槍の穂先が首を貫く直前、巨大な槍斧が槍をはじき返した。

 槍斧を振るうのは、輿に乗る王蟻本人だった。

 王杓を捨て、座った状態で槍斧を振るい、槍を受け止める。


「やろう!」

 アルが槍を振るい、赤い流星のごとき乱れ突きを放つ。だが王蟻は見事な槍斧捌きで受けきり、身をひるがえして跳躍、輿から飛び降りる。


「へぇ」

 王蟻の姿を見てアルが笑った。身のこなしもさることながら、輿に隠れて見えなかった全身は巨大だった。

 通常の近衛蟻は人間より少し大きい程度だが、ゆったりとした服に包まれた巨体は二メートルを超え、天を突く威容だった。片手に持つ巨大な槍斧さえ小さく見える。


「王蟻って言うだけのことはあるな」

 巨体に似合わぬ身のこなしと槍斧捌きに、アルが好戦的な笑みを浮かべる。

「アル、遊んでいる時間はないぞ」

 後方のレイが声をかける。ぐずぐずしていれば本隊から離れた部隊が異変を察知し、戻ってくる。そうなればたった五十の騎兵など瞬く間に打ち取られてしまう。


「わかってるよ、お前はそっちを相手してろ」

 アルが背後のレイに声をかける。レイの前には二匹の近衛蟻が立ちはだかった。

 この二匹もほかの蟻とは違う雰囲気をまとっていた。近衛蟻は鎧を身に着けているが、せいぜい皮鎧や粗末な胸当てが主だ。しかしこの二匹は全身を甲冑で覆い、兜さえかぶっていれば遠目には人間の騎士にも見える装備だった。

 だが何より違うのは、槍を持ち構えるその身のこなしと、肌がヒリつくような殺気にあった。

「どこかの騎士から奪った武具だな。こっちは親衛隊、そして次期王蟻候補と言ったところか」

 レイも馬上で槍を構えて相対する。


 アルと対峙する王蟻が、片手で無造作に槍斧を振るう。

 小枝のように振るわれた槍斧は、周囲にいた兵隊蟻の数匹を巻き込み、粉砕し、両断しながら迫る。

 アルは両腕で槍を振るい、槍斧を受け止める。激突音が戦場に鳴り響き、槍斧を受けたアルの体が馬ごと後退する。

 さらに王蟻は、小虫でも払うように槍斧を振るう。

 うなり声をあげる槍斧は、周囲にいた兵隊蟻をも巻き込みながら大地をたたき割り、自ら乗っていた輿を粉砕する。アルは槍で受け、はじき返すも防戦一方となり手が出ない。


「アル!」

 王蟻の怪力にレイが声を発するも、助けに行くことはできなかった。

 二条の刃が自身に迫り、慌てて槍を繰り出しはじくも、さらなる連撃が繰り出され防戦一方となる。

 レイの前では甲冑に身を包んだ二匹の近衛蟻が、鏡写しのように動き、槍を振るい連撃を放つ。その穂先がわずかにレイの頬をかすめる。


「レイくん、そっち手伝おうか?」

 近衛蟻の鋭い槍さばきを見て、アルが軽口をたたく。

「そっちこそ、代わってほしいんじゃないのか?」

 頬から一筋の血をこぼしながら、レイが肩越しにアルを見る。


「ぬかしやがれ、やっと歯ごたえのある敵と、会えたと思ってたところだ」

 アルが槍を構え、横薙ぎの一閃を放つ。

 王蟻が槍斧で軽く振り払おうとするが、大地さえも砕く槍斧がはじかれる。自身の力に絶対の自信を持っていた王蟻が、顎を動かし驚愕する。

 王蟻がアルを見据え、足幅を広げて初めて両腕で槍斧を握り締める。

 全身の力を込めて放たれた槍斧は、唸り声をあげてアルに迫るも、振るわれた槍斧は槍にはじき返された。


「どうした、それで全力か? 確かに力は強いが、オットーほどじゃないな、何より」

 アルが馬を操り、槍を繰り出す。王蟻が槍斧で迎撃するも、力は互角なのか、互いの武器がはじかれる。

 王蟻が再度槍斧を放とうとするも、それより早くアルの槍が繰り出され、受けに回らざるを得ない。


「お前には速さが足りない」

 アルの槍は繰り出されるたびに速度を増し、王蟻に反撃のいとまを与えない。

 王蟻が必死で受け続けるも、アルの槍はさらに加速し速度を上げる。そしてついに槍斧の防御を破り、衣服に包まれた王蟻の胸を突いた。


 一方、二匹の近衛蟻と対峙していたレイを見ると、三本の槍が交錯し、激しい火花を散らしていた。

 レイは速度を上げて迫りくる槍を叩き落すも、近衛蟻たちは槍を交差させて受け、左の蟻が槍を抑えつつ、右の蟻がレイめがけて槍を跳ね上げる。

 レイが槍を引いて迫る刃をはじくが、はじかれた右の蟻人の槍が、レイの持つ槍をからめとるように回転し、その隙を狙って左の近衛蟻が胴を狙ってくる。

 槍を返して胴への一撃を防ぐも、さらに連撃が加えられ、防戦一方となる。


「やるな、どうやって覚えたのかは知らないが、ちゃんとした槍術になっている」

 近衛蟻の槍さばきに、レイが素直に感心した。

 ただ手に持った武器を振り回しているだけではない。相手の動きに合わせて抑え込もうとする動きは、体系だったものがあった。

 魔物に槍術を教える者がいたはずもなく、見様見真似か、自分たちで工夫して考えたのだろう。

 

「連携も悪くない。でもね、うちの双子ほどじゃない」

 右半身に構えた槍をレイが繰り出す。二匹の蟻がからめとろうと槍を回転させるも、巻き込もうとする回転に合わせてレイの持つ槍が回転する。

 右に回ったかと思えば左に回り、近衛蟻が右に回せば、合わせるように右に回し、相手の槍の上を取る。二匹が追いつこうと槍を回転させるも、レイはさらに槍の回転を速める。

 その槍捌きは、もはや蟻人の動きに合わせるどころか、先回りするように穂先が動き、複雑な曲線を描く。


 二匹の近衛蟻が槍に追いつこうとするも、互いの槍が邪魔をして動きが止まる。

 一瞬の隙を見逃さず、レイは槍の間を滑り込むように突きを放ち、右の近衛蟻の左肘を突き刺す。

 左の近衛蟻が槍を繰り出すも、レイの槍が回転し、刃の根元に結わえられた飾り布が旋回、生きた蛇のように蟻人の槍に絡みつき槍を封じる。

 レイはそのまま槍を交差させ、飾り布をほどくと同時に槍を下にたたき落とし、反動で自身の槍を跳ね上げ蟻人の右脇を切り裂く。

 肘と脇を貫かれた蟻人達は槍を落とし、痛みに耐えかねてか膝をつき大地に手を当てる。

 レイの槍が蟻人の頭部めがけて繰り出された。


 アルが放った赤の槍が王蟻の胸を捕らえ、レイの蒼き槍が近衛蟻に向けて放たれた。必殺の好機だったが、王蟻の怪力さえも上回ったアルの槍は甲高い音を立ててはじかれ、正確無比なレイの槍は大きく逸れ、絶好の機会を逃した。


「「なっ」」

 二人が同時に驚愕の声を上げる。


 切り裂かれた王蟻の衣服の下からは、光り輝く鎧が見えた。

 王蟻が衣服を破り捨てると、金剛石のごとく輝く結晶が、まるで鎧のように黒い外皮の上を覆っていた。


 一方レイが馬の足元に目を向けると、乾いた大地の一部だけが泥濘と化していた。

 泥沼に馬が足を取られ、レイの精妙な槍捌きを乱したのだ。しかし周囲を見回しても、他に泥沼などはなく、先ほどまでこんなものはなかった。


 王蟻が槍斧を掲げ、大顎を広げて叫ぶ。

 ガラスをこすり合わせたような声が戦場に響いたかと思うと、体を覆っていた金剛石の鎧が、まるで生きているように成長し始める。

 露出していた王蟻の腕や頭部にまで広がり、指先に至るまで全身を覆っていく。


 地面に手を突く近衛蟻の二匹も、顎を広げて何事かを叫ぶと、泥沼が渇いた大地の上でシミのように広がり、馬の足を飲み込み周囲を侵食していく。

 馬が逃げようともがくも、足に絡みつき、なかなか脱出できない。


 金剛石の鎧に突如出現した泥濘。異常な光景だが、二人の頭には原因が思いうかんだ。


「魔法か」

 アルが小さくつぶやいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ピーンチ! どうなる!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ