第六話 救援の騎士①
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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双剣を構えるガオンを前に、ゼータは数秒後に訪れる自らの死を覚悟した。だがその時、左後方から大きな鬨の声が聞こえてきた。あまりの大きな声に、対峙するガオンが目を向け、ゼータも釣られて見る。
左後方にはライオネル王国が陣を張っていた。そしてそのさらに左奥から、騎兵の一団が土煙をあげて現れた。
突如現れた三千人程の騎兵は、左翼から魔王軍へと突撃する。その動きは速い。騎兵突撃には自信のある、ゼータの目から見ても風の如き速さだった。特に先頭を走る赤い鎧を纏った騎士の馬は速く、後続を引き離して単騎駆けとなっていた。
「なんだ、あの騎士団は!」
ゼータは目を見張った。ライオネル王国とは同じ同盟軍ではあるが、他国ゆえ全ての兵士や騎士団を知っているわけではない。
ゼータが目を凝らすと、現れた騎士団は炎の紋章を旗印に掲げていた。
「炎の紋章! ライオネル王国の焔騎士団か! ならばあの先頭を駆ける騎士は!」
ゼータは半ば単騎駆けとなっている騎士に目を凝らした。騎士は炎の如き鎧に身を包み、その右手には長大な槍斧を抱えている。
「炎の騎士アルビオンか!」
ゼータは目を見張る。炎の如き鎧に槍斧といえば、ライオネル王国が誇るアルビオンだ。
ライオネル王国最強。いや、人類最強の呼び声すらある騎士だ。しかし危険だ、速すぎる。後続の騎兵を完全に引き離していた。あれでは騎兵同士での連携が取れない。
歴戦の騎士であればそれぐらい分かりそうなものだが、アルビオンは速度を落とすことなく、単騎で魔王軍の戦列に突撃する。対する魔王軍は盾と槍を連ね、鉄壁の守りを見せた。
アルビオンが馬足を緩めず槍斧を振りかぶる。直後槍斧からは炎が吹き出した。
炎を纏う槍斧が振りぬかれると、落雷のごとき爆音が鳴り響いた。空に黒い物体が舞う。何かと目を凝らせば魔族だった。槍斧の一撃により吹き飛ばされた魔族が、木っ端のように宙を舞っているのだ。
「なっ、なんて威力だ! あれは人間か!」
ゼータは信じられなかった。魔王軍の戦列を見れば、吹き飛ばされているのは最前列だけではない。その後ろに控えていた、二列目や三列目にまで被害が及んでいる。
一撃で魔王軍の戦列が破壊され、そこに後続の焔騎士団が突撃する。防御を完全に崩された状態では、いかに魔王軍でも騎兵突撃を防ぐことは出来ない。
先陣を切るアルビオンは、槍斧で魔族を蹴散らしながらゼータのもとに向かってくる。罠にはまった隼騎士団を救出しようとしてくれているのだ。
「来たか。おい! ガストン! アルビオンが出てきたぞ! そんな雑魚は放っておけ!」
ゼータを前にするガオンが声を張り上げた。ベトレーと戦っていた剣竜に跨るガストンは、双頭の槍を一薙ぎしてベトレーと距離をとる。
「ようやく出てきたか。ここまではギャミの予想どおりだな。ギャミはアルビオンを止めるだけでよいと言っていたが……」
「ああ。我らでアルビオンの首、取ってくれようぞ!」
ガオンが双剣の刃を重ね、滑らせて火花を散らす。ガストンも双頭の槍をアルビオンに突きつける。二体の魔族は目の前にいるゼータではなく、アルビオンしか見ていなかった。
「行くぞ!」
ガオンが怪腕竜を駆り、アルビオンに向かっていく。さらにガストンも続く。
自分を無視する二体を許せず、ゼータは追いかけようとした。しかし制止する声が飛ぶ。
「駄目です! ゼータ様! お引きを。このままでは我らが全滅します」
止めたのはベトレーだった。副隊長は生き残っている隼騎士団を指揮し、まとめ上げようとしていた。周囲を見ればガオンとガストンはアルビオンへと向かったが、両者が率いていた重装歩兵はこの場所に残っている。そして四方からは魔王軍が隼騎士団に攻撃を仕掛けていた。
このままこの場に残れば全滅は必至だ。だが焔騎士団の攻撃により、魔王軍の陣形には乱れが生じている。囲みを突破するのは今しかない。
父の仇をみすみす逃すことに、ゼータは歯噛みした。しかし今は隼騎士団が優先である。
副隊長のベトレーは兵士をまとめるだけで精一杯。敵軍の弱い部分を見つけ、脱出路を見極めるのはゼータの仕事だった。
ゼータは再度魔王軍を見まわした。周囲はすっかり黒い鎧の魔王軍に埋め尽くされている。だが焔騎士団の攻撃により、魔王軍の右翼は乱れが生じていた。こちらからも攻撃を仕掛ければ、部分的には挟撃となる。さらに焔騎士団と合流が出来れば、突破も可能だ。
「ベトレー、焔騎士団との合流を目指す。隼騎士団の兵士達よ! 俺に続け!」
ゼータは手綱を引くと、嘶きと共に馬が前脚を掲げる。馬が脚をつくと同時に、魔王軍と戦う焔騎士団を目指した。
ベトレーや隼騎士団の兵士達もゼータの後に続く。進路の先ではガリオスの息子であるガオンとガストンが、焔騎士団を率いるアルビオンと対峙していた。
ガオンが双剣を煌めかせ、ガストンも呼吸を合わせ双頭の槍を漕ぐように振り回す。
二体の連携はまるで左右の手の如く、変幻自在で隙がない。いや、それだけではない。二体の攻撃に加え、怪腕竜がその名に相応しい巨大な腕で攻撃を繰り出す。さらに剣竜も身をひねり、棘のついた尻尾を鞭のようにしならせる。
ガリオスの息子二体だけでなく、大型竜二頭の猛攻がアルビオンを襲う。しかし炎の騎士アルビオンはまるで動じず、迫り来る四枚の刃を巨大な槍斧一本で防ぎ切る。そして二頭の大型竜の猛攻には、馬を華麗に操り人馬一体となって回避した。
そのあまりの技の切れと馬術は、敵陣からの突破を試みるゼータも見惚れるほどであった。
「前よりも腕を上げたな、ガオン、ガストン」
二体の猛攻を防ぎ切ったアルビオンは、赤い髪の下、不敵な笑みを見せる。
「だがお前らでは相手にならん。ガリオスを呼んでこい!」
「ぬかせ! 父上が出るまでもない!」
「お前の首を切り落とし、父上に捧げてくれよう」
アルビオンの挑発にガオンが吠え、ガストンが槍を掲げる。
「ほぉ、やれるもんならやってみな」
アルビオンが槍斧を振りかぶった。




