第五話 抜け駆け③
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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流暢に人間の言葉を話す魔族を見て、ゼータは目を丸くする。
「人間の言葉が喋れるのか?」
「話すぐらいならな。名乗りをあげておくか。我こそはガリオスが三男、双剣のガオンである」
ガオンは高らかに名乗りをあげる。魔王軍は武を尊ぶ。騎士のように名乗る文化があるのだ。
「ならば私も名乗ろう。我こそはハメイル王国隼騎士団隊長。ゼブル将軍が次男ゼータ!」
ゼータの名乗りを聞くと、ガオンは爬虫類の瞳を丸くした。
「ほぉ、ゼブル将軍の息子か」
「父を知っているのか!」
「知っているも何も、ゼブル将軍の首を取ったのはこの俺よ」
ガオンが堂々と胸を張る。
「なんだと、貴様が!」
ゼータは握る槍に力を込めた。魔王軍が武人の気質を持つとすれば、挑発のために武功を偽るとは思えない。つまり目の前にいるガオンは、まさに父の仇なのだ。
「ゼブル将軍は立派だった。将軍の首を取ったとき、この戦争に勝ったと思った。だが勝利を確信した直後に、ガンガルガ要塞は落ちた。自らを囮として要塞を落とす。見事であった」
ガオンは息を吐き頷く。その声に偽りがあるようには思えず、ゼータは胸が熱くなるのを覚えた。ガンガルガ要塞を攻略したのは二年前のこと。しかもゼブル将軍とガオンは敵同士である。だがガオンは、今も敵の武勇を語り継いでいるのだ。
「父上の仇、とらせてもらう!」
「やれるものならやってみろ。ゼブル将軍は我が右剣で斬った。お前はこの左剣で屠り、父のもとに送ってくれよう」
ガオンが右の剣と左の剣を交互に掲げる。
「覚悟!」
ゼータは馬を走らせ、ガオンに斬りかかる。槍を突き、払い、そして薙ぐ。対するガオンは双剣を自由自在に振り回し、ゼータの槍を受ける。
攻防の応酬は十数合に及んだ。しかし互いの刃が相手の体を捉えることはない。
ゼータは息を弾ませながら、ガオンとの距離を測る。ガオンの双剣に加え、怪腕竜の両腕による攻撃が厄介だった。しかし押しているのは自分である。自分の槍は魔族にも通じるのだとゼータは意気込む。一方、ガオンはなぜか双剣を下げた。
「どうした、臆したか!」
「ふん。ゼブル将軍の息子というからどれほどのものかと期待したが、父には遠く及ばぬ」
「なんだと!」
侮蔑の言葉にゼータは目の色を変える。だがガオンは眉間に皺を走らせる。
「視野が狭い!」
一喝したガオンは目を細め、左へと動かす。ガオンの視線の先では、ベトレーが剣竜に跨るガストンと戦っていた。そして隼騎士団はというと、ガオンとガストンが引き連れてきた重装甲の歩兵と戦っている。
ガオンの重装歩兵部隊は、ほかの魔族よりも体格に優れており、全身鎧も相まって高い防御力を誇っている。隼騎士団は完全に足を止められていた。しかしそのことはゼータも理解している。であるからこそ、一刻も早く目の前のガオンを倒さねばならないのだ。
ガオンが細めた目をゼータへと戻す。いや、違う。その縦に割れた瞳孔は、ゼータのさらに背後を見つめていた。
ゼータは視線の意味に気づき、馬上で振り返った。ゼータと隼騎士団は魔王軍を裂くように進軍した。だが振り返ったその先に切り裂いた傷跡はなく、左右に別れた魔王軍はピタリとくっつき元に戻っている。いや、元に戻るだけではない。魔王軍の戦列の前には、どこから現れたのか三本角竜に跨る魔族が重装歩兵と共に陣取っていた。
「なっ、いつの間に!」
ゼータは愕然とした。前進を開始していたハメイル王国軍は、ゼータ達隼騎士団と合流しようとしていた。しかし三本角竜と重装歩兵に阻まれている。
ゼータの全身に悪寒が駆け抜けた。
騎兵は歩兵と連動せねばならない。しかし今や両者の連携は完全に分断されていた。しかもゼータ達は前進を阻まれ、騎兵の強みである機動力も失っている。左右を見回せば、敵に囲まれ、逃げ場もない。
「なっ、馬鹿な。なぜこうなる!」
ゼータはわけが分からなかった。先程まで勝利は目前であったのに、今や死地に陥っている。
「馬鹿はお前だ。気持ちよく進軍していたのだろうが、あれは我らが道を開けていたのだ」
ガオンの言葉にゼータは衝撃を受けた。だがそのようなこと、出来るわけがない。兵士とは指揮官が思い描くように動いてはくれない。長い訓練を経て、ようやく前進や方向転換が可能となる。ガオンが言うような行動をとるには、入念な準備と訓練が必要となる。
「これぞ特務参謀ギャミの必殺の策よ、お前は頭から罠に飛び込んだのだ」
ガオンが下げた双剣を構えなおす。
「さて、父の元に送ってくれよう。寂しがることはない。お前の部下達も一緒だ」
ガオンが左手に持つ剣を煌めかせる。
ゼータの顔は蒼白となった。自分の先走りで自分が死ぬのは構わない。だが鍛えた部下達を死なせるわけにはいかなかった。ゼータは活路を探した。だが相手がこの状況を仕組んだとなれば、逃げ道があろうはずもない。ならばやるべきことは一つ。
「だったら! お前を倒して突き進むのみ!」
槍を構え、ゼータは馬を走らせた。退路がないのならば、前進するよりほかはない。
「ふん、それが出来るつもりか?」
槍を突くゼータに対し、ガオンが左右の双剣を繰り出す。自由自在に動く双剣は、まるで舞う鳥の翼の如く。多彩な動きにゼータはついていけず、右腕に傷を負う。
腕から出血したゼータは顔を歪める。先程までとはまるで違う、美しいとさえいえる剣技であった。
「包囲が完成するまでの間は守勢にまわっていた。だがここからが本番だ」
ガオンが翼を広げた鳥のように、双剣を構える。ゼータは斬られる自分の姿を幻視した。




