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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第六章 ディナビア半島編~停戦して交渉して解放した~

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第七十二話 ズオルム総督②

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 ジュネーバ総督ズオルムとガダルダが、小さな教会で対峙する。


 ズオルムを見ていたガダルダの視線は、床に残された鞄に向けられた。


 ガダルダが鞄に歩み寄り、蹴り飛ばす。すると中身が床に溢れた。

 床には金貨や銀貨がこぼれ、金の盃が転がる。中には真珠のネックレスや宝石があしらわれたブローチもあった。ズオルムが白鳥宮よりかき集めた財宝の数々だ。

 目も眩む輝きを放つ財宝を前に、ガダルダは軽蔑の眼差しと共に鼻を鳴らした。


「兵や民には死ぬまで戦えと言っておいて、自分は宝を持ってトンズラか。相変わらず、自分以外のことは興味がないようだな」

 ガダルダがズオルムを睨む。一方ズオルムの視線はガダルダではなく周囲に向けられていた。

 縦に割れた瞳孔が忙しなく動き、周囲にガダルダの仲間がいないかを確認する。


「ああ、俺の手勢ならここには居らんぞ。白鳥宮に残っている幹部達を始末しに行っている。お前で最後だ」

 ガダルダの言葉を聞き、ズオルムは笑った。

 ズオルムにとって、もはや白鳥宮に残っている部下の命などどうでもう良かった。そして目の前にいる敵がガダルダだけというのであれば、恐れることは何もない。


「魔王軍の恥晒しめ。恥が広がる前に死ね」

 ガダルダは三つの宝玉が取り付けられた杖を、ズオルムへと向ける。白、緑、黄のうち、黄色い宝玉が光ると電撃が迸りズオルムへと向かう。しかし紫電は白い壁によって阻まれた。ズオルムが展開した魔法を防ぐ壁、魔法障壁である。


「はっ! 魔導院を出ているくせに、魔道具がなければ魔法も使えない落ちこぼれが何を言う!」

 ズオルムはガダルダの魔法をかき消すと、自身の右手に魔力を集中させる。右手の上に、黄色い光で複雑な図形が浮かび上がった。


「恥晒しはお前だろうが! 魔術というのはな! こう使うんだ!」

 黄色い魔法陣から極太の電撃が疾る。ガダルダは杖に取りつけられた白い宝玉を光らせ、魔法障壁を展開した。だが電撃を防げたのは一瞬だけ、ズオルムの放った電撃は、易々と魔法障壁を打ち破りガダルダに直撃した。

 全身を電撃で焼かれ、ガダルダの鱗は黒焦げとなる。


「雑魚が! 魔導院の模擬戦闘で一度も俺に勝ったことがないくせに、よくこれたものだな」

 ズオルムは黒焦げのまま、立ち尽くすガダルダを見て吐き捨てる。


 おそらく電撃のせいで体が硬直し、死んでもなお倒れることが出来ないのだろう。ガダルダのことはどうでもいいが、奴の足元にある財宝は取りに戻る必要があった。

 ズオルムはガダルダの足元の鞄と、外に溢れた財宝に向かう。そして鞄を取ろうと左腕を伸ばした時、死んだはずのガダルダがズオルムの腕を掴んだ。


「なっ、お前! 生きていたのか!」

 ズオルムは目を見開いた。ガダルダはズオルムの強力な電撃を受け、全身に重度の火傷を負っている。だが縦に割れた瞳孔は、ズオルムを捉えて離さない。


「こ、この! 死に損ないが!」

 ズオルムはガダルダの手を振り解こうとした。しかし振り払えない。掴む腕の力は鋼鉄の鎖の如く、どれほど引っ張ろうとガダルダは手を離さない。


「おのれ! さっさと死ね!」

 ズオルムは右手に再度電撃魔法を構築し、ガダルダの左肩を掴み直接電流を流し込んだ。

 電撃がガダルダの体を内部から焼き、体からは煙が上がる。しかしズオルムの腕を掴む、ガダルダの手は緩まない。それどころか力が増し、ズオルムの腕の骨が軋む。


 ズオルムは激痛に耐えられず、苦鳴をあげて魔法を中断した。腕を掴むガダルダの力はさらに強まり、にぶい音を立てて腕の骨がへし折れる。

 ズオルムは悲鳴をあげて後ろに倒れ、ガダルダが掴んでいた手を離す。解放されたズオルムは、折れた腕を抱えて周囲をのたうちまわった。


「その程度の傷で喚くな」

 顔すら黒焦げのガダルダが、ため息をもらす。


「こ、この! 筋肉馬鹿が!」

 ズオルムは腕を抱えながらなんとか立ち上がった。そして右手の上に、赤く光る魔法陣を構築する。


「吹き飛べ!」

 ズオルムが叫ぶと同時に、赤い光の球を放つ。光の玉は閃光となってガダルダの体に着弾。大きな爆発が起きた。


 爆炎に包まれるガダルダを見て、ズオルムは勝利を確信し笑った。爆裂魔法はズオルムが最も得意とする魔法だ。跡形もなく吹き飛んでいる姿を予想した、だが必勝の笑みは驚愕に変わる。

 爆煙が晴れたそこには、ガダルダが不動の大樹の如き姿で立っていたからだ。

 黒く煤けたガダルダの瞼が動き、瞳があらわとなる。その眼光は鋭く、爛々と輝いている。


「馬鹿な! お前は不死身か!」

 ズオルムは信じられなかった。これだけの魔法を受けて、生きていられるわけがない。


「ああ? 何言ってやがる。俺はガリオスの息子だぞ? 不死身に決まってるだろうが!」

 ガダルダは吠える。ズオルムは息を呑んだ。


「ぐっ、魔導院の落ちこぼれ……が!」

 折れた腕の痛みに耐えながらもズオルムが漏らす。対するガダルダはため息を吐いた。


「落ちこぼれ、それはそうだろうな。もとより魔導院では魔導を極めようなど考えてもいなかったからな」

 ガダルダがせせら笑う。魔導院は魔導士を目指す者ならば、誰もが憧れる最高峰。しかしガダルダはそんなものはどうでもいいと、鼻息を飛ばす。


「あれは俺が初陣した時のことだ。俺は敵の罠にかかり、魔法兵の集中砲火を浴びた。俺は死を覚悟したが、そこに父ガリオスが助けに来てくれた。父は百近い魔法の攻撃を受けたが、魔法はまるで効かず、敵を皆殺しにした。その姿を見て、自分もああなりたいと思ったものよ」

 ガダルダは目を細め、虚空を見て続ける。


「だから俺はなぜ魔法が効かないのかと、父に尋ねた。すると父は言った。兄である魔王ゼルギス様と兄弟喧嘩をしたおり、よく魔法を喰らったと。そうしているうちに魔法が効かなくなったとな。俺が魔導院の門を叩いたのはその翌日よ」

 ガダルダの言葉を聞き、ズオルムは目を見開いた。


「おま……まさかそのために」

「ああ、俺が魔導院に通っていたのは、魔導を極めるためではない。あそこなら模擬戦で魔法使いと戦えるからな。お前らは気持ちよく俺に魔法をぶちこんでいたんだろうが、それが俺の狙いよ。昔はお前の魔法で死にかけたが、今は耐えられないほどでもないな。あと三十発ぐらいまでいけるぞ?」

 ガダルダの言葉に、ズオルムが牙を噛み締める。


 ガダルダの言うことが事実であれば、ガダルダはとんでもない魔法耐性を獲得していることになる。

 ズオルムは勝利の方法を模索したが、自身最強の魔法を受け切られた今、ズオルムにガダルダを殺し切る魔法がなかった。


「さて、これでお前を殴り殺してやってもいいんだが」

 三色の宝玉がつけられた大きな杖を、ガダルダは掲げてみせる。宝玉が取り付けられている台座には、無骨な鉄の塊が飛び出ていた。

 魔導を目指す者にとっては神聖な杖も、ガダルダにしてみればただの棍棒なのだ。


「しかし俺も落ちこぼれとは言え、一応は魔導院の出だ。魔法で止めを刺してやろう」

 ガダルダは杖についている黄色い宝玉から、火花を飛び散らせる。

「まっ、待て。幾ら欲しい? 幾らでもくれてやる。だから見逃してくれ」

 ズオルムは膝をついて懇願した。ガダルダはため息で応じる。


「お前なぁ、今更命乞いなんてするなよ。お前も魔王軍の端くれだろうが」

「なっ、なんだ。魔導院でのことを怒っているのか? なら謝る。だから許してくれ」

 続くズオルムの命乞いに、ガダルダは心底呆れた声を出した。


「別に怒ってねーよ、俺が望んだことだしな。お前のこともどうでもいい。お前を倒すのに名乗り出たのは、お前に騙された連中がちょっと哀れだったからだ」

 ガダルダが跪くズオルムを見下ろす。


「ズオルム。お前は死ぬんだよ、俺に殺されてな。それ以外の道はない。おら、さっさと立て。魔導院首席卒業だろ。最後ぐらいビシッとしろ!」

 ガダルダの煽る言葉に、ズオルムは顔をくしゃくしゃに歪めた。


「くそ! くそ! くそぉぉぉおお!」

 ズオルムの断末魔が、異教の教会に響き渡った。


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― 新着の感想 ―
この子が一番、親父どのにそっくりだなーw ガリオスのように単ju ぐほん、 純粋な脳筋は嫌いじゃありません。
[一言] ろめりあ「魔王、余計なことを」
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