第六話 港造り⑥
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。
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マグコミ様で連載中ですよ。
やって来た馬車が、広場に次々に停車していく。止まった馬車からは幌が外され、荷台に積まれた資材が下ろされる。荷台には建設作業に使用する鶴嘴や杭を打つための木槌、石を割るための楔や土を運ぶ手押し車が見えた。別の馬車には足場用の木材が積まれている。その次の馬車からは何人もの男達も降りてくる。彼らはギリエ渓谷の金鉱山で、金の採掘を行っていた人達だ。彼らはどことなく表情が暗い。金が思ったように出なかったため、稼ぐどころか借金をする羽目になったからだろう。
当てが外れて残念だと思うが、こちらとしては労働力が確保出来てありがたい。ここでしっかりと働き、借金を返してくれればいいと思う。
到着した資材や人々を見ていると、特に問題はなさそうだった。これならばあとは任せてもいいだろうと思っていたその時、ボロボロの馬車が二台、広場に入ってきた。
使い古された馬車は、資材や作業員を運ぶためのものとは思えなかった。なんの馬車だろうと幌がかけられた荷台を覗こうとした時、子供達が荷台から飛び出てくる。その数は四、六……いや、七人。まるで独楽鼠のように走り回る子供達は、私の左右を駆け抜けて行く。しかし最後尾を走っていた五歳ぐらいの男の子が、石に躓き転倒した。
「大丈夫?」
私は男の子に駆け寄り、屈んで顔を覗き込む。転んだ男の子は起き上がるも、右膝を両手で押さえていた。指の間から覗く膝小僧には血が滲んでいる。
男の子は痛みに顔を顰めた。私はてっきり泣くかと思ったが、男の子は痛みに耐えると膝から手を離し、先に駆けて行った子供達の後を追った。元気な子だ。
「こら! 走っちゃ駄目って言ったでしょ!」
馬車の中から鋭い声が飛ぶ。首を伸ばして子供達を叱りつけるのは、ゆったりとした青い服を着た女性だった。長い金髪を後ろで結び、左胸に流している。そのお腹は大きく膨らみ、臨月間近であることが分かった。
青い服の妊婦は私に気付くと、頭を下げた。
「すみません、言うことを聞かなくて」
妊婦が馬車を降りようとするので、私は歩み寄り手を差し伸べて降りるのを手伝う。
「どなたか存じませんが、ありがとうございます」
「いえ、それより元気なお子さんですね」
私は全力で駆け回る子供達を見た。子供にとって全力疾走は善だ。
首を返して馬車を見ると、馬車からは次々と人が降りてくる。三人降りてきたかと思えばさらに五人続き、十人を数えてもまだ途切れない。年齢もさまざまで、乳飲み子を抱える夫婦らしき男女もいれば、腰が曲がった老女もいた。走り回っている子供達に、御者を務めていた者を含めれば二十人以上となる。
彼らが乗っていた馬車は、それほど大きくはない。どうやってこの人数が一台の馬車に乗っていたのか、不思議でならない。
馬車から降りた一団は、長旅に疲れた体を伸ばしてほぐしつつ、もう一台の馬車の荷台にかかる幌を外した。二台目の馬車には、机や箪笥がこれでもかと詰め込まれていた。あらゆる隙間という隙間に物が詰め込まれ、それでも入りきらなかった鍋や薬缶は縄で括りつけられている。持てる物を全て持ってきたのだろう。
「あの、もしや移住希望の方ですか?」
私は先程の妊婦に話しかけた。現在この港では移住者を募っている。港に住みつき働いてくれる人が必要なのだ。
「ええそうです。ここに来ると家を無料でもらえると聞いて、もしかして関係者の方ですか? まだ空きはあります?」
「ええ、空いていますよ。好きな場所を選んでください」
妊婦の問いに、私は笑顔で頷いた。
早期の移住者には、建設した家を無料で提供することを約束していた。しかしそれでもなお、移住者は全く集まっていなかった。カシューは辺境なので、移り住みたいと思う人はいないらしい。目の前にいる人達は、一族総出で移住しに来てくれたのだろう。ありがたい話だ。
「つかぬことをお聞きしますが、どうしてこちらに移住を決められたのですか?」
私はこの出会いを利用し、聞き取り調査を行うことにした。移住者の生の声を聴いて、彼らが欲していることを知っておきたい。
「実は私の息子がここで働いていまして」
「へぇ、一体誰です? 私の知っている人ですかね?」
私が尋ねたその時、後ろから上擦った声が響いた。
「ポリセラ母さん?」
振り向くとそこには書類を片手に持つボレルがいた。目を見開くボレルに対し、ポリセラと呼ばれた妊婦が柔らかな笑みを見せる。
「あら、ボレル。元気にしていた?」
「え? あ、うん。元気だけれど……」
ボレルは目を白黒させていた。私としても驚く。ポリセラさんが先程語っていた息子とは、ボレルのことらしい。
「でも母さん。どうしてロメリア様と?」
「ロメリア様?」
ボレルに対しポリセラさんが首を傾げる。そういえば自己紹介がまだだった。
「母さん、この方は俺の上司にあたるロメリア様です」
ボレルが私に手を向けて紹介する。そしてその手をポリセラさんに返す。
「ロメリア様。こちら私の母のポリセラです」
「どうも、初めまして。ロメリアと申します」
私が会釈を返すと、ポリセラさんの顔に驚きが走る。そして居住まいを正して頭を下げた。
「貴方がロメリア様でしたか、そうとは知らずご無礼を」
「いえ、構いませんよ。それよりもお会い出来て光栄です」
「こちらこそ、息子がお世話になっております」
私が声をかけると、ポリセラさんは再度深々と頭を下げる。
「でも、母さん。どうしてここに?」
「ここで移住者を募っているって聞いたから。ほら、うちも手狭だったでしょ? 弟夫婦に家をあげて、皆で越してきたのよ」
ポリセラさんは右手を小さく振りながら、朗らかな笑みを見せた。
「それなら言ってくれればいいのに。毎月手紙を出していたでしょ?」
「迷惑がかかると思ったのよ。私達のことはいいから、自分の仕事を頑張りなさい」
ポリセラさんはボレルの肩を力強く叩く。ボレルは母親の行動力に呆れていたが、気持ちのいい人だと私は思う。その時、さっきまで走っていた子供達がボレルに気付き駆け寄ってくる。
「あっ、ボレルにーちゃんだ!」
「にーちゃん久しぶり!」
「遊ぼ―、抱っこしてー」
子供達はボレルにまとわりつく。一人の男の子などは、ボレルの膝に抱きついて体をよじ登ろうとする。
「こらこら、今仕事中だから駄目。登らない。ああ、もう。仕方ないな」
ボレルは子供の両脇に両手を差し込み、一人に肩車をして、もう一人を抱っこする。さらに足にしがみついていた男の子が背中までよじ登る。それを見て別の男の子はボレルの膝を蹴って登りお腹にしがみつく。体中に子供をくっつけたボレルは、まるで子供が成る木のようだ。
思わず笑ってしまうと、ボレルも苦笑いをする。
「すみません、ロメリア様。ほら、にーちゃん仕事だから。あっちで遊んでな」
ボレルは子供達を下ろすと、子供達はまた全力で駆けて行く。
「しかしボレル、大家族ですね」
「ええ、でもこれで全員ではないんですよ。数年前の曾曾じいちゃんの葬式の時は、親族だけで五十人ぐらい集まりました」
ボレルの話に私は驚く。今ここには二十人程がいるが、それでも半分に達しないのだ。
驚きの家族構成に、私はただただ驚いた




