第六十七話 ジュネル攻略戦④
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アルビオンの乗った石の船が、ジュネルの港に接舷した。
「よし、乗り込め!」
アルビオンは兵士に命じつつ、自身は船の縁を蹴って跳躍し桟橋に飛び移った。
横に広く長い桟橋には、所々に膝ほどの高さの石の柱が飛び出ている。船を繋留するための舫い杭だ。杭には太い鎖が巻かれ、海を渡り隣の桟橋へと伸びている。船の接舷を阻止するための鎖だ。これさえなければ、桟橋をもっと広く使える。
アルビオンは港を封鎖している鎖に駆け寄りながら、槍斧を振るう。槍斧の後ろからは炎が吹き出し、槍斧が勢いよく加速する。アルビオンの一撃は鎖を断ち切り、ちぎれた鎖は海へと落ちていく。
「よし! こっちからも乗り込め!」
アルビオンが桟橋から指示すると、後続の船が桟橋に接舷する。後ろを見れば、上陸した兵士が他の船の接舷を手伝っている。
黒いローブを着たクリートも上陸しており、青い顔をして舫い杭にしがみついていた。
「よぉ、宮廷魔導士。大活躍だったな。お前のおかげで上陸作戦は大成功だ! だがまだ終わりじゃないぞ、もうひと働してくれ」
「ふざけるな! これ以上何をしろと言うんだ!」
「何って、それはお前……」
アルビオンは桟橋の奥、港を顎で指した。港には十体の魔王軍兵士が、槍を持ちこちらに向かってきていた。数は少ないため、一番近くにいた部隊が駆けつけたのだろう。
「早い連中だ、もう来やがった」
アルビオンはぼやいた。クリートが風魔法を使ったおかげで、予定より早く上陸できた。しかしそれがなければ、魔王軍の方が先に桟橋に到着していたかもしれない。もちろん十体で千人からなる兵士の上陸は防げないが、それでも上陸作戦に遅れが生じただろう。さらに上陸に手間取っていれば、さらなる魔王軍の援軍が到着し、場合によっては上陸が失敗していたかもしれない。
「でもまぁ、ちょっと遅かったな」
アルビオンは槍斧を構えながら桟橋を走った。対する魔王軍も槍を構え、体当たりするように突撃してくる。命がけでもアルビオン達を海へと落とし、上陸を阻止しようと言うのだ。
死を覚悟した魔族の、勇敢さや決意には敬意を表する。しかし状況がアルビオンに有利すぎた。
雄叫びと共に、アルビオンは槍斧を薙ぐ。槍斧の付け根からは火が吹き出し、唸り声を上げて魔族に迫る。
狭い桟橋では逃げ場がなく、横薙ぎの一撃を避けることは出来ない。そして鎖すら易々と両断した一撃は、三体の魔族の胴を輪切りにした。
決死の覚悟をした魔族達も、アルビオンの力に驚き足を止める。
「俺を相手にするには、場所が悪すぎたな」
アルビオンは笑みと共に歯を見せ、頭上で槍斧を旋回させる。ブルンブルンと振るわれる槍斧が発する風に、魔族達は思わず後退した。その間にもアルビオンの背後からは、兵士達が続々と上陸を果たす。
時間を掛ければかけるほど、アルビオン達の兵力は増強される。魔族の兵士は槍を手に破れかぶれの突撃を敢行した。
アルビオンが槍斧を薙ぐ。二体の魔族が防ごうとするも、耐えきれず海に落とされる。体勢を崩しながらも槍斧を避けた魔族のもとに、アルビオンの兵士達が槍を突き出し串刺しにした。
「終了」
アルビオンは踵を返しながら、槍斧を振って血糊を払う。戦いの一部始終を見ていたクリートは目を見張っていた。
「クリート。俺達は敵の中で孤立している。遊んでいたら、死ぬぞ?」
アルビオンが忠告すると、クリートが首を何度も上下させる。
視線を上陸している兵士達に向ければ、船は続々と桟橋に接舷し兵士達が登ってくる。上陸を果たした兵士の数は、ざっと見て五百人ほど。その中には部隊長として連れてきたメリルにレット、シュローの姿もある。
海に目を向ければ、最後尾の船が港に到着していた。蒼い鎧を着たレイヴァンの姿も視認できる。レイヴァンは跳躍して船と船を渡り、桟橋に舞い降りる。
「よし、メリル、四百人集めろ!」
アルビオンは仲間に指示を出すと、メリルが頷き兵士達に声をかける。
「レット、シュロー。敵の後方を襲撃するぞ! 目標は敵司令部があると予想される白鳥宮の制圧。そして造船所の確保だ」
アルビオンは槍斧で港から見える壮麗な王宮と、巨大な造船所を指し示す。
敵の司令部を叩けば、指揮系統が乱れて戦争に勝てる。そして重要な生産設備である造船所は、無傷で手に入れねばならない。
「クリート! お前は魔法兵を指揮し、桟橋を出て港に土塁を築け」
アルビオンは次に槍斧を港へと向けた。いずれ魔王軍の部隊がここに押し寄せるだろう。簡単な防壁でも、あるとないとでは大違いだ。
「レイ! お前はここに残り、上陸を指揮しながら防衛線を構築しろ!」
アルビオンは瞳をレイヴァンへと向ける。レイヴァンは細い顎を引いて頷く。
レイヴァンという大駒は戦闘に使いたい。しかし場合によっては船での撤退もあり得る。風魔法を操るレイヴァンがいなければ、船に乗り込んでも立ち往生するだけだ。レイヴァンは港に残しておかねばならない。
「アル! 兵士四百! いつでも行けるぞ!」
メリルが報告する。その背には整列した兵士達が並んでいる。
「よし、俺とメリル、レットとシュローがそれぞれ百ずつ率いる。いくぞ!」
アルビオンは槍斧を掲げ、走り出した。背にはメリル、レット、シュローの後に四百人の兵士が続いた。




