第六十五話 ジュネル攻略戦②
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ジャネット女王が手を掲げると、兵士が勢いよく太鼓を打ち鳴らした。
勇ましい音を聞き、整列していたジュネブル王国の兵士達が前進を開始する。
進む兵士達の手には剣や弓、長い梯子を持つ者もいた。さて彼らがどれだけ戦えるか。
勇ましい声を張り上げて、ジュネブル王国軍がかつての王都ジュネルに向かって前進する。城壁の上にいる魔王軍は、弓を手に矢を番える。そして指揮官の号令のもと矢を放った。
一斉に放たれた矢が弧を描き、上空で黒い雲となる。そしてジュネブル王国軍に降り注いだ。
矢の雨に対し、ジュネブル王国軍は盾を掲げながら前進する。しかし全てを防ぎ切ることはできず、何人かの兵士が矢を受けて倒れる。
戦場から悲鳴が上がり、本陣にいる私達のところにまで届く。
ジャネット女王の右手側には、ジュジュ王女が袖を掴んで立っている。
凄惨な戦場の光景と聞こえてくる悲鳴に、ジュジュ王女は大きな眼をさらに広げていた。その小さな手は救いを求めるように母親の袖を掴んでいたが、ジャネット女王は娘を気遣うそぶりはない。
「ジュジュ王女、天幕で少し休みませんか?」
私は微笑みを浮かべながら提案した。子供に戦場の光景は衝撃的すぎる。しかしジュジュ王女は大きな瞳を私に向けた後、視線をあげて母親を見た。ジャネット女王は食い入るように戦場を見ている。
戦場ではジュネブル王国軍の兵士が、ジュネルの城壁にまで辿り着いていた。兵士達は壁に梯子を掛けて登り始める。
対する魔王軍は登らせまいと、矢を放ち石を投げ落とす。
ジュネブル王国軍の一人の兵士が、猛攻を掻い潜り梯子の上部にまで登る。だが一本の矢が兵士の頭を打ち抜き、梯子から落ちる。
兵士は頭から落ちていった。おそらく助からないだろう。
悲惨な光景に、息を呑む音が聞こえた。
ジャネット女王からだった。彼女はヴェールの下の目を瞑り、おそらく死んだであろう兵士を悼んでいた。
名も知らぬ兵士の死を悲しむジャネット女王を見て、ジュジュ王女が母親に半歩だけ歩み寄る。
私は自分の考え違いに気づいた。ジュジュ王女は、母親の助けを求めるために側にいるのではない。母親を守るために側にいるのだ。
子供の身では、母が何を悲しんでいるか分かっていないだろう。しかし懸命に母に寄り添い、助けようとしているのだ。
私は目を瞑りうなった。
母を想う子の愛情。しかしジャネット女王は名も知らぬ兵士の死を悼む心はあっても、娘の想いに気づくことはないのだ。
何故こうなってしまったのか。この親子はどこまで行っても交わらない。
私も母とは折り合いが悪く、母は私を愛さなかった。そして私も母を愛せなかった。だがジュジュ王女は違う。母に愛されずとも、母を愛しているのだ。
私は祈った。行く当てのない子の愛が、いつか母に気づかれることを。
ちょっと短くてゴメン。GWで何かと忙しかった
ごめんね




