第六十話 ジュネル攻略の秘策➂
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船がなければ作ればいい。そう言った私に対し、レイは目を丸めた。
「作るって、ロメリア様。船ってそんなに簡単に作れますか?」
「いえ、難しいですよ。出発前にガンゼ親方に尋ねたのですが、二十人乗りの小舟でも、普通に作れば何日もかかるとのことです」
レイの問いに答えながら、私は名の知れた建設業者であるガンゼ親方の言葉を思い出した。
船を作るには木を切り出して製材し、部品に加工して組み上げる。さらに防水加工も施さねばならないので、制作にはどうしても時間がかかるとのことだ。
「であれば、普通に作らなければいいだけの話です」
「ああ、何か思いついたんですね」
「思いついたというか、ガンゼ親方が形にしてくれたのですが……」
私は懐から、数日前に受け取った手紙を取り出して掲げた。
ガンガルガ要塞に残ったガンゼ親方は、私の思いつきを実験し、形にしてくれた。現在人員と資材を積んだ馬車と共に、こちらに向かっているはずだ。
「予定では今日にも合流するとのことなのですが……」
私は丘の上から周囲を見回した。丘の麓ではジュネブル王国軍とライオネル王国軍、そしてホヴォス連邦の兵士が、天幕を張り陣地を形成しようとしていた。
「ロメリア様。ここでしたか」
一人の兵士が丘を登ってやってくる。半分落ちた眠たげなまなこをしているのは、ロメ隊の一人であるメリルだ。兵士ではあるが事務能力が高く、武器の管理や食料の分配も任せている。
「ガンガルガ要塞から、馬車が到着したようです。ただジュネブル王国軍が通達を聞いていないと、馬車を止めているようでして」
メリルの報告を聞き、私はため息をついた。
もちろん通達は事前にしてあった。だがジュネブル王国軍内部では、どうも情報の伝達がいい加減だ。
「仕方ないですね、私が行きましょう。レイ」
「はい、護衛をさせていただきます」
私が歩き出すと、レイは嬉しそうに付いてくる。
レイを伴いながら丘をくだり、足止めを受けている馬車の元に向かう。入り乱れる兵士達の間を抜けると、ジュネブル王国軍の兵士が十台ほどの馬車を取り囲んでいた。
兵士達の前では、髭を生やした初老の男性がここを通せと怒鳴っている。しかし兵士は頑として譲らない。
「おお、嬢ちゃん」
顔に皺が刻まれた男性が、私を見つけると手を振る。ざっくばらんな態度に、私はつい笑ってしまう。
彼こそ先ほど話していたガンゼ親方だ。私とは付き合いが長く砕けた態度で話す仲だ。
「えっ、ロメリア様? それにレイヴァン将軍」
ガンゼ親方と話していたジュネブル王国の兵士が驚きに目を丸める。
私は兵士に会釈をしつつ、ガンゼ親方に歩み寄る。
「お元気そうですね、ガンゼ親方」
「おう、俺はいつも元気よ。それより、こいつに言ってくれ。全然話にならねぇ」
ガンゼ親方が親指で問答していた兵士を指す。指を向けられた兵士は、ガンゼ親方が重要人物だと気付き青ざめる。
確かに兵士の行動には、行き過ぎたところもある。だが仕事をしようとしただけなので、大きな問題にすべきではない。
私は兵士を咎めず、レイを一瞥する。レイは心得ていますと頷き兵士に声をかけた。レイは将軍として名が知られている。彼が軽く注意すれば、兵士も聞きやすいだろう。
「ところでガンゼ親方、船を作る方法はうまくいったと手紙で読みましたが」
私は早速本題を切り出した。
ガンゼ親方には、簡易に船を作る方法を研究してもらっていた。
手紙では成功したと書かれていたが、細かな方法までは記されていなかった。ただ五十艘は制作可能とあり、船を作る材料と人員を輸送するとあった。
「おう、うまくいったぞ。初め話を聞いた時は半信半疑だったが、やってみたら意外にうまくいった。むしろ今日までにここに到着する方が大変だったよ。馬車に揺られ過ぎて、尻が痛い痛い」
ガンゼ親方が豪快に笑う。
ことの起こりはディナビア半島へ進軍することが決まった日だった。魔王軍がジャムールとジュネルに立て籠っていることは、事前に予想できていた。そして小舟でも船があれば簡単に背後をつけることも、同じく予想できた。
問題は船をどうやって調達するか。ただ、解決方法は意外に近くにあった。
「なんとか五十艘分の資材は用意できた。あとは現場で作るだけだ」
ガンゼ親方が振り返り、自分が乗ってきた馬車を見る。馬車の荷台には資材と作業のための人員が乗っているのだろう。
「分かりました。では丘の向こうにある砂浜で組み立ててもらえますか?」
私が丘の向こうを指差すと、ガンゼ親方が頷く。
「よし、お前ら! 馬車から降りて荷物を運べ!」
ガンゼ親方の号令の元、馬車の荷台から作業員達が降りてくる。その中には黒いローブを羽織り、腰に黄色い宝玉がついた杖を指している者もいた。彼らは作業員ではない。ライオネル王国の魔法兵だった。




