表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第六章 ディナビア半島編~停戦して交渉して解放した~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

417/468

第四十五話 ジャムールの攻防③

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。




 ゾレル枢機卿を伴い、喪服を着たジャネット女王がやって来る。そして薄いヴェール越しに赤い唇を動かす。


「ロメリア様にディモス将軍。何をお話ですか?」

「いえ、素晴らしい景観であると見惚れておりまして」

 ディモス将軍はジャムールの姿を一瞥して頷く。その場しのぎの嘘ではあるが、雄大なディーナ山系を背景に、階段状に連なる古都ジャムールは名勝地として名高い。


「ジュネルに遷都されて以来、止まってしまった都市ですよ。貴族達の避暑地として別荘が建てられて見た目はいいですが、それだけです」

「しかしお懐かしいでしょう。確かジャネット様はこちらのお生まれだとか?」

「いえ、ディモス将軍。私の生まれは王都ジュネルですよ。父の生まれはここですが」

 ジャネット女王はヴェール越しにディモス将軍を見る。


「おや、そうでしたか。これは失礼を」

 ディモス将軍はシレっと答える。彼女の正体が替え玉のタリアだった場合、引っかかってこの街の生まれだと言うことを期待していたのだろう。だがそうはならなかった。果たして女王は本物か偽物か、それはディモス将軍に任せよう。


「しかし懐かしいのは本当です。ここには毎年避暑に来ておりました。そう言えばジュジュを授かったのもここです。私の懐妊を知り、マーナンがとても喜んでくれたのを覚えています」

 ジャネット女王が、目を細めてジャムールを見つめる。そして一度目を瞑り、一息吐いて目を開いた。


「ではロメリア様、軍議を行いましょう」

 ジャネット女王の言葉に頷き、私は兵士達が建てた天幕に目を向けた。すでに天幕の設営は完了している。ジャネット女王達を先導して天幕の中に入ると、内部には机や椅子が置かれていた。机の上にはジャムールを中心にした周辺の地図が置かれている。


「ロメリア様、ディモス将軍。私は軍を率いた経験がありません。また、我が国に生き残った将軍はおらず、指揮する者がおりません。軍略に関してはお二人に考えていただき、それを私が採用する。という形でどうでしょうか?」

 ジャネット女王の提案に、私とディモス将軍は目を見合わせる。指揮権を譲っていただけるのはありがたい話である。問題はどちらが指揮を執るかだが、ディモス将軍の目的は魔王軍を倒すことではなく、ジャネット女王の正体だ。ディモス将軍は私に譲るように手を差し出した。


「では私が一時指揮をとらせていただきます」

 私は二人に対し会釈して居住まいを正した。

 指揮権をもらえたのはいいことだが、他国の軍隊の行動を考えるというのはなんともやりづらいものがあった。自分の軍隊ではないから無理をさせるのは気がひけるし、戦場となるのも他国の土地だ。思い切った手は打てない。

 私は地図を指差しながら口を開いた。


「魔王軍がジャムールに立て篭っているので攻城戦となります。攻城戦の基本は包囲しての兵糧攻めですが、今回それは行いません」

「立て篭もる魔王軍の数が少ないからですね」

 頷きながら答えるジャネット女王を見て、私とディモス将軍は互いに目を見合わせた。


「その通りです。よくお分かりですね」

 私はちょっと驚いた。

 ジャムールに残る魔王軍は三千体しかいない。魔王軍がどれほど食料を蓄えているか不明だが、そもそもジャムールは数万人が居住可能な都市だ。食料もそれなりに備蓄されているだろう。兵糧攻めは相手に時間を与えるだけだろう。


「そうなると正面から攻撃を仕掛けねばなりません」

 私は机に置かれた地図を見た。地形を生かしたジャムールのつくりは堅牢だ。魔王軍の数が少ないことを差し引いても、練度の低いジュネブル王国軍には勝てそうにない。しかし私は、簡単にジャムールを攻略する方法を思いついていた。この方法ならば、一日でジャムールを攻略可能。さらにほとんど損害を出さずに済むだろう。しかしこの手段を使うわけにはいかなかった。

 私は頭で考えていた方法とは、別の作戦を口にした。


「まずジュネブル王国軍には南から攻めてもらいます。そして圧力をかけているところに、我が国の騎士のアルビオンとレイヴァンを突撃させましょう。壁の一点を打ち崩し、そこを突破口とする。というのはどうでしょう?」

 私はジャムールの南の壁の一点を指さした。


 とんでもない力技だが、ジュネブル王国軍と連動してジャムールを攻略するとなれば、これぐらいしか取れる手がない。私はジャネット女王を見ると、喪に服する女王は黒いヴェールの下で赤い唇を緩ませた。


「駄目です。賛成できません」

 ジャネット女王の硬い声に、私とディモス将軍が目を丸める。


「私の策に従っていただけるのでは?」

「もちろん従います。ロメリア様、私はあなたを尊敬しています。女の身でありながら軍隊を率い、あのガリオスをも撃退した。さらにガンガルガ要塞攻略戦においても、決定的な働きをされたと聞きます。その軍才は疑いようがありません。ロメリア様の策に、私が異を唱えるなどありえません」

 ジャネット女王は私の戦歴を語り持ち上げる。


「ですがそれもロメリア様が本心で、これだと言う策である時だけです。ロメリア様。本当はもっと良い方法を思いついているのではありませんか? 我らを気にして、それを言えないのではないですか?」

 ヴェールの下からジャネット女王の黒い瞳が私を見つめる。


「しかし……」

 私は言いよどんだ。確かに私には必勝の策があった。しかしこの作戦を他国で行うわけにはいかない。

言葉に詰まる私に、ジャネット女王が微笑みかける。


「よいのです、ロメリア様。よいのですよ」

 諭すように話すジャネット女王の目を見て、私は背筋に寒気を覚えた。

 その目があまりにも暗く、まるで深い穴を覗いたようだったからだ。


今年最後の更新です。皆様よいお年を

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点]  第三百六十四話 ジャムールの攻防③ ↑ 謎のスペース
[一言] 深淵見ちゃった?
[気になる点] 実は本人で、愛する夫と親しかった影武者の死で、何かが覚醒したのかもしれない……ってコト?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ