第四十四話 ジャムールの攻防➁
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「セイ、タース。貴方達は解放された人々を受け入れてください。ここに陣地を敷きます、メリルとレットは野営の準備を。シュローはジュネブル王国とホヴォス連邦に使いを出し、軍議をしたいのでお集まりくださいと伝えてください。アルとレイは私と共に軍議に出席するように」
私はクリートを除く面々に指示を出す。命令を受けて、セイたちは即座に行動を開始する。
兵士達が解放された人々に手を振って誘導し、天幕が張られ陣地が構築されていく。
私はアルとレイを引き連れ、見晴らしの良い丘の上でジャネット女王とディモス将軍を待つ。
しばらくするとディモス将軍が、護衛の兵士と共に現れた。ジャネット女王より後ろの位置を行軍していたはずなのに、かなり早い到着だ。
「これはディモス将軍。お早いですね」
「ええ、ロメリア様。実は貴方のお耳に入れておきたいことがございまして」
ディモス将軍は切り出しながら、私の背後に立つアルとレイを一瞥する。
「分かりました。アル、レイ、下がっていなさい」
私はアルとレイに命じると、ディモス将軍と歩き、人のいない場所に向かう。
「それで、お話とはなんでしょう」
「実は……ジャネット女王のことなのですが、やはり偽物ではないかと思うのです」
ディモス将軍が切り出した話を聞き、私は少し呆れた。私にはジャネット女王が本物にしか見えなかったからだ。
「ディモス将軍。私は囚われる前のジャネット女王とお会いしたことはありません。ですがあの堂々とした態度は、替え玉には思えないのですが?」
私は連合軍の代表を相手に、交渉したジャネット女王を思い出した。話した内容は事前に考え、決められていたのかもしれない。だがただの替え玉が、あそこまで堂々と話せるだろうか?
「私が気になっているのは、まさにそこなのです。私は本国に問い合わせ、ジャネット女王をよく知る者がいないか、確かめさせました。残念ながら私以上にジャネット女王を知る者はいませんでした。ですがジャネット女王の婿となった、マーナンが書いた手紙が送られてきたのです」
ディモス将軍は懐から手紙の束を取り出した。
ジャネット女王の夫であるマーナンは、ホヴォス連邦から婿としてジュネブル王家に入った。マーナンは故郷に手紙を送っていたのだろう。
「手紙にはジャネット女王はマーナンを愛し、常に一緒にいたがったそうです。しかしその分、政務に興味がなかったと」
「それはよくあることでは? 優秀な官僚が支えれば良いだけのことです」
ディモス将軍の言葉を、私は興味なく答えた。政務に無関心な王族はたまにいる。よいことではないが、周りがしっかりしていればそれでいい。
「それはそうなのですが、王族であれば避けられない仕事というのもございます。それはご存じでございましょう?」
ディモス将軍の言葉に私は頷く。例えどれほど政務が嫌でも、式典や賓客を迎えての挨拶などの公務は、王本人が行わねばならない。
そこまで思考して、私はあることに気づいた。
公務を他人に代行させることはできない。替え玉を用いても、よく知る相手には偽物と見破られてしまう。だがジャネット女王には、他者には見分けがつかないほど同じ容姿をした替え玉のタリアがいたのだ。
私が目を見開くと、ディモス将軍は顎を引いた。
「はい。マーナンからの手紙には、ジャネット女王は公務を替え玉のタリアに代行させていたそうです。私はジャネット女王と面会したことがありますが、その時にお会いしたのもタリアだったかもしれません」
ディモス将軍の話を聞き、私は顎に手を当てた。
王としての振る舞いや気品というものは、王族に生まれるだけで得られるものではない。政務や公務を行うことで身についていく。タリアがジャネット女王の公務を代行していたとすれば、王としての振る舞いや指導力を獲得していたかもしれない。
「もし我々の目の前にいるジャネット女王が、替え玉のタリアであったとすればこれは大問題です。庶民が王の振りをするなど許されません」
ディモス将軍が語気を荒げる。王を僭称することは、許されない罪だ。
「現在、タリアとジャネット女王。両方を知る者がいないか探しております。まだ見つかっておりませんが、タリアはこのジャムールが生まれ故郷と聞きます。先ほど解放された者達の中に、タリアをよく知る者がいるかもしれません」
「……わかりました。そちらの調査は、お任せしてもよろしいですか?」
私はディモス将軍に調査を丸投げした。
確かに気になる話だが、私はそれ以上に魔王軍がこの地に残った理由が気になっていた。ジャネット女王が本物か偽物かは、魔王軍を倒した後でもできる。
ディモス将軍が顎を引くと、背後から複数の足音が聞こえた。振りむくと喪服を着たジャネット女王が、ゾレル枢機卿と共にこちらに向かってきていた。




