第八十五話 暗殺者への依頼
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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燃え落ちた白鳥宮の離宮、私はその中の一室に入り込んだ。
部屋にあった二つの椅子のうち、一つに腰を下ろす。するとレットとシュローが駆け足で私の前にやって来た。
「ロメリア様。アルとレイに使いを送りました」
「兵士二十名に、部屋の外を固めさせました」
レットとシュローの報告に私は頷く。
「分かりました、貴方達は部屋の外に待機していてください」
私の指示に、二人は頷き外へと向かう。出ていく二人を見送った後、私はそばに立つ橙色のドレスを着た女性に目を向けた。秘書官のシュピリだ。彼女は顔を青ざめさせ、今にも倒れそうだった。
「シュピリさん。座りなさい」
「で、ですが……」
「いいから座りなさい」
私が座るように促すと、シュピリは右側にある椅子に腰を下ろす。だがその目は部屋にいる人物に、ずっと注がれ続けていた。
私が視線を追うと、そこにはシュピリと全く同じ顔をした暗殺者が縛り上げられていた。
暗殺者の左右には、同じ顔をしたグランとラグンがいる。
二人は屈辱に顔を歪め、唇を噛んでいた。
「ロメリア様、申し訳ありません」
「すべては私達の失態です」
縛られた暗殺者を挟んで、グランとラグンが跪き、首を差し出すように頭を垂れる。
双子が謝罪しているのは、暗殺者の攻撃に対して、対応が遅れたことだろう。そもそも暗殺が実行されたこと自体、すでに失態と言える。とはいえ二人を責めるのは少々酷であった。
暗殺者は自分と同じ顔をしたシュピリを、秘書官として私の元に送り込んできた。シュピリは当初私と敵対していたものの、懐柔されて今では私の下で働いてくれている。だが暗殺者はシュピリが懐柔されることを予想し、私が油断すると読んでいたのだ。
実際、私が暗殺者の入れ替わりに気づかなければ、暗殺は成功していただろう。
グランとラグンの対応は遅れたが、それも数秒のことだった。その数秒の隙を生み出すために、相手は準備を整えてきたのだ。相手が上手であり私にも油断があった。グランとラグンだけを責めるわけにはいかない。
とは言え、このままお咎めなしにすることも出来なかった。周囲も納得しないだろうし、何より本人達が自分を許せないだろう。
「……魔王軍を退け、平定したディナビア半島ですが、まだ領土内には多くの魔物がいると聞きます」
私は新たに出発した、ジュネブル王国の国土を思い浮かべた。魔王軍は撃退したが、山や森には多くの魔物が住み着いている。
「貴方達を客将としてジュネブル王国に預けます。新生ジュネブル王国軍を鍛え、領土内の魔物を全て駆逐しなさい。それまで私の元に帰ることを禁じます」
私が命じると、二人は深々と頭を下げた。
異国の地で魔物狩りという厳しい環境は、双子が望む罰となるだろう。また、ジュネブル王国にとっても必要なことだった。
連合軍としては、いつまでもジュネブル王国の面倒を見ていられない。早々に国を立て直し、自立してもらわねば困るのだ。
国家を支える土台として、強力な軍隊の保有と高い治安は必要不可欠だった。
槍を持てば世界にも通じるといわれるグランとラグンが鍛えれば、ジュネブル王国軍の兵士の練度は上がることだろう。そして帰国のために双子がディナビア半島の魔物の討伐に励めば、それだけジュネブル王国の治安も改善される。
「さて、問題は貴方ですね」
私は二人の間で縛られている暗殺者に目を向けた。
「あの、ロメリア様」
私の右横から、シュピリが弱々しい声を出す。彼女は自分と同じ顔をした暗殺者を何度も見ている。
「その、この私と同じ顔をされている方は、本当に暗殺者なんですか?」
シュピリの確認に私は頷く。短剣に毒薬が入ったと思しき小瓶も見つかった。
「では、その……暗殺者を送り込んだのは……」
シュピリが息を呑む。
暗殺者はシュピリと同じ顔をしていた。しかし二人の間に血縁はおそらくない。偶然同じ顔の暗殺者がおり、シュピリは利用されたのだ。そしてシュピリを私の元に送り込んだのは、ライオネル王国のアラタ王だ。つまり黒幕はアラタ王と言うことになる。
「で、私を生かしてどうするつもり? 言っておくけれど、尋問や拷問されても、何もしゃべらないわよ」
「別に貴方に聞きたいことは、何もありませんよ」
すでに死を覚悟しているのか、暗殺者の態度はふてぶてしい。だがすでに黒幕は分かっているので、尋問も拷問も必要ない。
「まず先に言っておきますと、私はこの一件を公表するつもりはありません。全てもみ消すつもりです」
私としては、これ以外方法がなかった。黒幕が自国の王である以上、問題に出来ない。王に死を命ぜられれば、臣下としては死なねばならない。しかし私はここで死ぬわけにはいかないし、反旗を翻して国を割るつもりもない。全てをなかったことにするしかないのだ。
「あと、貴方を殺すこともしません。この後で解放することを約束しましょう」
「本気?」
「ええ、いたって。ただ、貴方には伝言を頼みます」
「伝言? なんで私がそんなことを」
「別に貴方でなくてもいいのですが、私の暗殺に失敗し、何も成果がないとなれば、それこそ殺されてしまうのでは?」
私がにっこりと笑うと、暗殺者は顔を歪めた。
「それで、何? 何を伝えろって?」
「簡単なことです。私をこのまま連合軍に派遣し、魔王軍との戦いの最前線に残してほしい。そう雇い主に伝えてください」
「ロメリア様、それは……」
「ライオネル王国に帰らぬおつもりですか……」
黙って話を聞いていたグランとラグンが、驚きの顔で私を見る。故郷に帰らぬと言う決断だが、それが一番いいのだ。
アラタ王は私が謀反を起こすことを恐れている。私にその気はないが、謀反を起こせる立ち位置にいることが問題なのだろう。なら物理的に謀反を起こせない位置に居ればいい。
「救国の聖女であるロメリアは、魔王軍を殲滅するまで国に戻らぬと誓い、王は仕方なくこれを許可する。そういう筋書きにしましょう」
私は大まかな流れを決める。軍を常に派遣することは、多額の出費になるだろう。だがその分、連合軍に貢献したと言える。アラタ王は内外にその名を知らしめることが出来るし、政敵の私が遠くに居れば、安心できるだろう。私としても、魔王軍との戦いの最前線に居られるなら文句はない。
「ありえない。そんな話、呑むわけがない」
「それを考えるのは、貴方ではありませんよ」
私は秘書官と同じ顔をした、暗殺者に向けて笑みを浮かべる。
それにおそらくアラタ王は私の条件を呑む。暗殺に失敗した以上、次の手はないからだ。
「グラン、ラグン。この方を宮殿の外まで案内してあげなさい」
私の指示にグランとラグンが頷き、暗殺者を連れて部屋から出ていく。その背中を見ていると、シュピリが大きく息を漏らす。
「じ、自分と同じ顔の人って、いるんですね」
シュピリは茫然としていた。まさか自分と同じ顔の人間が、暗殺者として送り込まれるとは思いもしなかっただろう。
「大変な思いをされましたね」
私はシュピリを労った。今回の一件で、一番の被害者は彼女かもしれない。シュピリは私達を油断させるために、アラタ王に送り込まれた。いわば暗殺の道具だ。しかも場合によっては、暗殺の実行犯に仕立て上げられていたかもしれない。
「しかしロメリア様、よく見分けることが出来ましたね」
感心の目が今度は私に向けられる。
「なんというか、双子には縁がありまして」
私は何と言っていいのか分からなかった。ただグランとラグンを見分けるコツが、命を助けることになるとは思わなかった。
「私や暗殺者、グランベル将軍とラグンベル将軍以外にも双子を知っているので?」
「まぁ色々と、ああでももう一つ、そっくりさんの問題がありましたね……」
私は放置している問題があることを思い出した。あちらも一応ケリをつけておかねばならない。
「シュピリさん。外にいるレットとシュローを呼んでください。あとジャネット女王に面会したいと伝えてもらえませんか?」
私はシュピリにお願いした。
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時系列が本編に合わないので、本編ではなく別シリーズとして掲載することにしました。
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またこれは今後の展開ですが、現在連載中のディナビア半島編の連載が終われば、小学館ガガガブックスから電子書籍限定で発売している『ロメリア戦記外伝①』の掲載を『ロメリア戦記外伝集』で掲載していこうと思っております。これからもよろしくお願いします。