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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第六章 ディナビア半島編~停戦して交渉して解放した~
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第三十一話 イザークの苦悩⑦

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 月さえも落ちた深夜。空には無数の星が瞬き、壮大な星の大河を作り出していた。

 イザークは天幕の前で、歩哨に立ちながら星空を見上げた。


 星々の美しさだけは、どこで見ようとも変わらないなとイザークは故郷に思いを馳せた。しかし望郷の念も一瞬のこと、思考は昼間に犯した失態を思い出した。


 ロメリアを前に、素直に話して余計な情報を与えてしまった。

 なんたる失態と、イザークは悔恨に顔を顰めた。一方で感心するのは、同行したアザレアのことであった。


 同じ物を見ていたはずなのに、彼女は見えない物を見ていた。素晴らしい慧眼と言える。それに思い返せば彼女は所作が洗練されており、歩く姿にも気品があった。高い知性と教養が、銀の仮面の下から感じられる。


 自分もかくあらねばと、イザークは気を引き締めた。そして警備に精を出すべく、大きく息を吸い込んで周囲を見回す。

 もし何者かが自分達を害そうとするならば、それは間違いなく夜のうちだ。夜陰に紛れて行われるだろう。


 イザークは天幕に近づく者がいないかと、四方に目を配った。

 左に目を向けると、天幕の周囲を覆う柵が途切れることなく続いている。左に異常がないことを確認したイザークは、今度は右へと首を返した。

 右を見ると、同じく木の柵が続いている。ただし右にはもう一つ天幕が設置されていた。アザレア達女性陣のための天幕だ。こちらには誰も警備は立っていない。


 女性陣の天幕は静かなものだった。夜も遅いため、すでに眠っているのだろう。イザークが視線を前に戻そうとした時、天幕から漏れ出る光の点が視界に引っかかった。


 移しかけていた視線を戻し、イザークは光の点をまじまじと見た。改めて確かめてみると、やはり女性陣が使用している天幕の布に、穴が開いて光が漏れていた。

 天幕の布が破けるのはよくあることだった。しかしここは敵地の真ん中だ。もしかしたら人間たちが内部を覗き見るために、開けたものかもしれない。


 早急に修復しておく必要がある。だが既に暗いため明日にするしかない。イザークはどれぐらいの穴が空いているのか、今のうちに確かめておこうと女性陣の天幕に歩み寄った。


 天幕に空いた穴は腰の位置程の高さにあり、イザークは膝を折って確かめた。幸い穴は小さく、補修は簡単そうだった。

 明日しっかりこの穴をふさいでおこうと、イザークが立ちあがろうとしたその時だった。空いた穴から天幕の内側で動く影が見えた。


 黒い毛皮の長外套を着たアザレアであった。アザレアは机に向かい、何か書類仕事をしていた。

 図らずしも覗き見をしてしまったことに、イザークは慌てた。覗きなど男のすることではないと、すぐに立ち去ろうとした。だが目を逸らそうとした瞬間、イザークの視線はアザレアの顔に吸い込まれた。


 アザレアの顔を常に覆っていた腐病の面は取り外され、素顔が顕となっていたからだ。イザークの視線はアザレアに吸い付き離れなかった。心を占める感情はただ一つ。


 美しい……。


 イザークの心は美への感動に満たされた。


 アザレアが身につけている腐病の面とは、病により顔が腐り落ちた者が、醜く爛れた顔を隠すために使用するものだ。しかしアザレアの素顔には傷ひとつなく、美の結晶とでも言うべき姿がそこにあった。


 赤い鱗にはしみひとつなく、艶やかな輝きを放っている。紅玉の如き瞳には長いまつ毛で彩られ、鼻はスッと長い。口の周りはほんのりと赤く、花の様に色づいている。下唇から喉にかけては、鱗ではなく柔らかそうな白い皮に覆われ、呼吸のたびに艶かしく蠕動している。


 目や鼻、まつ毛の一本に至るまで、精緻な美しさがあり、その全てが完璧な均衡で配置されていた。

 まさに美の女神の降臨。美しいと言う概念が形を持った姿とすら言えた。


 あまりの美しさにイザークは固唾を呑む。だがその音に気付いたのか、書類に目を落としていたアザレアが不意に顔を上げた。


 覗き見をしていた気まずさから、イザークは慌ててその場を離れた。そして持ち場に戻り、警備をしていた様に取り繕う。


 アザレアが出てくるのではないかと、イザークの胸は動揺に高鳴る。だが幸いアザレアはイザークに気づかなかったのか、外に出てくることはなかった。

 イザークがホッと息を吐きかけたその時、背後から突然声をかけられた。


「イザーク、交代だ。……って、どうかしたのか?」

 背後に立っていたのはゴノーだった。しかしイザークは驚きのあまり心臓が止まりそうになり、すぐに返事が出来なかった。


「……い、いや、なんでもない。あとは頼んだ」

 イザークはボロを出さないように、すぐに交代して天幕に入った。


 天幕では衝立を挟んで二つに区切られている。奥はギャミの部屋であり、手前にはイザーク達三人が眠るべく、三つの布が敷かれている。布の真ん中ではサーゴが横たわり、いびきをかいていた。


 イザークも眠るべく、サーゴの左に身を横たえる。今日は色々あり、体は疲れ切っていた。しかし頭は興奮して眠れなかった。無理矢理目を瞑っても、瞼にはアザレアの素顔が焼き付いている。

 アザレアの素顔を思うだけでイザークの胸は高鳴り、悶々とした感情が頭の中を占領する。そしてついに一睡もすることなく朝を迎えた。




イザーク君おやおや

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― 新着の感想 ―
[一言] イザーク君、覗きはいけませんな
[一言] だめよ、イザーク君。 アザレア様はギャミ様のなのだから。
[良い点] あらあらー なんかみんなエンジョイしてますなあ
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