第七十九話 地下通路
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。
BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。
マグコミ様で連載中ですよ。
教会に隠されていた通路の扉が開き、私はその前に立った。
「メリル、レット、シュロー。調査に行きましょう」
私が指示すると、メリルが教会の燭台を手にし、蝋燭に火を灯す。隠し通路の内部は暗いので、明かりにはちょうどいいだろう。
「ロメリア様、敵はいないと思いますが、念のために最後尾に」
メリルが先頭に立ち、レットとシュローが剣を抜いて続く。私は三人の後を追って階段を下る。
「おい、この隠し通路は何だ? どこに続いているんだ?」
別についてこなくてもいいのに、クリートが階段を降りながら声を投げかける。螺旋状に続く階段は長く、どこまでも続いている。
「ジュネブル王国の隠し通路です。おそらく海沿いの洞窟に繋がっているはずです」
長い階段を降りながら、私は簡潔に答えた。私の予想では隠し通路はジュネルの外にまで伸びているはずだ。
ジュネルの周辺は海に面した岩壁があり、洞窟も多くあるようだった。そのうちの一つが、この隠し通路と繋がっているはずだ。
「そんなものを調査してなんになるんだ?」
続くクリートの問いに、私は答えなかった。この先に私が求めるものがあるのかどうか、それはわからないからだ。
ただズオルムは財宝を持ち、ジュネルから逃げようとしていた。あれほど大量の財宝だ、徒歩で逃げると言うわけにはいかない。食料のことを考えれば、馬や馬車。あるいは小舟でもあるかもしれない。そしてその荷物の中には手帳や書類、手紙の一つもあるかもしれなかった。
運が良ければそれらの中に、ズオルムがディナビア半島に残った理由が書かれているかもしれない。
長い階段を降りると、細長い廊下に出た。灰色の石が敷きつめられた回廊は、どこまでもまっすぐに伸びている。
メリルを先頭に私達は進む。そして私の後ろを、クリートもついてくる。
「おい、まだか?」
後ろからクリートの声が飛ぶ。別に着いて来なくてもいいのですよと、内心うんざりしたが口には出さない。ただ口からはため息が漏れた。その時だった、メリルが持つ燭台の灯りが揺れた。
私のため息が明かりを揺らしたのではない。隠し通路の先から、風が流れ込んでいるのだ。
私達がさらに通路を進むと、流れ込んでくる風は強さを増す。空気は湿り気を帯び、潮の匂いが漂ってくる。
「扉があります。ロメリア様」
先頭を歩くメリルが燭台を掲げる。見ると確かに小さな扉が通路を遮っていた。太い閂が扉の間に渡されており、向こう側からは入れないようになっている。
扉の隙間からは、風が吹き込んでいる。風に乗って微かに波の音も聞こえた。出口は近い。
シュローがメリルの横を抜けて閂を退け、そして扉を開いた。
扉を開けた先は広い空間だった。壁や床が石で敷き詰められ、蝋燭の光に照らされた海面と、船の舳先が見えた。しかし見えたのは一瞬だけだった。扉を開けると同時に強い風が吹き込み、蝋燭の炎を一瞬にしてかき消してしまったからだ。
周囲は無明の闇に覆われ、自分の鼻すら見えなくなる。
メリル達が火をつけようとするが、完全な暗闇のためなかなかうまくいかない。
「ああ、もう仕方がないな」
私のすぐ後ろで、苛立たしげなクリートの声が響く。次の瞬間、眩い光が周囲を照らした。右手で影を作り、光を直視しないようにしながら光の発生源に視線を向けた。そこには右手を掲げるクリートが、光を放つ球体を生み出していた。光を生み出す魔法だろう。魔法使いは色々便利だ。
「これは一つ貸しだからな」
不機嫌な横顔を見せるクリートに、私は会釈を返しておく。
私の笑みにクリートは眉間に皺を刻みながらも、生み出した光の球体を扉の奥へと移動させた。
光に照らされ、扉の向こうが明らかとなった。
別シリーズとして、外伝作品を掲載する『ロメリア戦記外伝集』がございます。
時系列が本編に合わないので、本編ではなく別シリーズとして掲載することにしました。
作者名をクリックしていただけると、ホーム画面に移動できますので、そちらからご覧ください。
またこれは今後の展開ですが、現在連載中のディナビア半島編の連載が終われば、小学館ガガガブックスから電子書籍限定で発売している『ロメリア戦記外伝①』の掲載を『ロメリア戦記外伝集』で掲載していこうと思っております。これからもよろしくお願いします。