第二十八話 イザークの苦悩④
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ライオネル王国の陣地を見学したイザーク達は、ロメリア達と共に寝泊まりする天幕へと向かった。
用意された天幕が見えてくると、可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。目を向けると、柵の向こうには分厚い鱗を持つ竜がいた。竜はイザークを見て嬉しそうに瘤の付いた尻尾を振っている。
イザークの親友とも言える、装甲竜のルドだ。
ルドはイザークに会えて嬉しいらしく、柵を乗り越えそうになっていた。装甲竜の巨体と重量の前では、木の柵など簡単に破壊される。柵を壊させる訳にはいかないので、イザークは慌ててルドに歩み寄り宥めた。
鼻先を撫でてやるとルドは嬉しそうに喉を鳴らし、瘤のついた尻尾をブンブンと振るう。
「こちらもよく懐いておりますね」
「ええ、甘えん坊で困りますよ」
もっと撫でてくれと頭を擦り付けるルドを見て、ロメリアが頬を緩ませる。
「この子はいくつぐらいなのですか?」
「もう十歳になります。いい年齢なのですけれどね、子供っぽさが抜けなくて」
「子供の頃から育てられたので?」
「私が五つの誕生日に、父上から卵をいただいて育てました」
甘えるルドにイザークは手を焼きながらも、笑ってロメリアに答えた。
「イザーク様、そろそろ中に入りましょう」
ギャミに促され、イザークはロメリアに頭を下げる。
「ロメリア様、今日はありがとうございました」
「いえ、こちらも有意義な時間でした。またお話をお聞かせ願いますか?」
「もちろんです」
ギャミが頷くと、ロメリアは会釈した。
これで会談は終了となり、ロメリアは護衛のレイヴァンと共に去っていく。
帰っていくロメリアの背中を見て、イザークは問題なく終わったと、内心胸を撫で下ろす。すると不意に視線を感じ、イザークは首を返した。
傍ではギャミがイザークに視線を投げかけており、そばに控えるアザレアは目を伏せていた。
ギャミは一瞬だけ渋面を作りイザークを睨んだが、何も言わず踵を返し天幕の中に入っていく。その後をアザレアが静かに追いかけていった。
両者の非難めいた視線と態度に、イザークは何か失敗したかと今日のやりとりを思い返した。だが思い当たることは何もなかった。
首を傾げるイザークが天幕に戻ろうとした時、天幕の入り口に歩哨として立たせたサーゴがいないことに気づいた。
どこに行ったのかと周囲を見回す。すると入り口から離れた天幕の影から、なにやら話し声が聞こえた。覗いてみると大きな樽を挟んでサーゴがユカリと話し込んでいた。
ユカリを前に、サーゴは緊張しぎこちない笑みを浮かべている。一方でユカリもまんざらでもないらしく、時折サーゴに視線を向けていた。
「何をしている、サーゴ」
「あっ、違うんだイザーク。ユカリさんにお手伝いを頼まれて」
「すみません。私が樽をこちらに運んでくださいと、サーゴさんに頼んでしまって」
問いただすイザークにサーゴが慌てて否定し、ユカリも目の前の樽を見る。
「いえ、それならかまいませんが」
ユカリを叱るわけにもいかず、イザークは仕方がないと頷く。
「で、では、私はこれで」
ユカリは恥ずかしそうに視線を彷徨わせると、そそくさと立ち去ろうとする。だがその前に一度振り返り、サーゴに向かって微笑みを返す。
笑顔を向けられたサーゴは、小さく手を振り返した。イザークは惚気た態度を見せるサーゴにため息をついた。
「別に話すなとは言わんが、しっかりしてくれよ」
「分かっているさ。少し話をしただけだ」
サーゴがむくれて言い返し、歩哨の仕事に戻った。
今回もちょっと短めでゴメン




