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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第六章 ディナビア半島編~停戦して交渉して解放した~
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第一話 停戦交渉

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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「よし、停戦だ! 双方それまで! 戦いをやめろ!」

 魔王の弟であるガリオスの大音声が、ダイラス荒野に響き渡った。

 ガリオスの声を聞いた人間も魔族も、その声の大きさと内容にただただ驚いた。しかし驚きは図らずしも、ガリオスの指示に従う結果となり、両軍は戦いの手を止めた。


「ロメ隊長! これは……」

 炎のような赤い鎧を着たアルが、視線をさまよわせる。

 私もガリオスの宣言を聞き、感慨深かった。


 人類の仇敵と言える魔王軍。それも戦いの申し子ガリオスとの間に、停戦が成立するとは思わなかった。しかし私たち連合軍はガンガルガ要塞の攻略に成功した。円形丘陵に聳える要塞にはヒューリオン王国の太陽の紋章にフルグスク帝国の月の旗、ヘイレント王国の銀の車輪にホヴォス連邦の五つの星とハメイル王国の大鷲の旗、そして我がライオネル王国の獅子の旗が翻っている。


 戦略的重要拠点であるガンガルガ要塞が連合軍の手に渡った以上、魔王軍が戦闘行動を続けることに意味はない。ガリオスの決断は妥当と言えた。


「アル。聞いての通り停戦が成立しました。直ちに戦闘行動を中止してください」

 私が命じると、アルは頷いて高らかに声をあげた。

「停戦だ! 戦いをやめろ! 停戦だ! 早馬を出せ! 停戦を伝えろ!」

 アルの指示に驚きながらも、兵士達が戦いの手を止める。そして馬に乗った兵士が四方に散らばり停戦の情報を伝えていく。


 停戦の情報が広がっていく。だがまだまだ遅い。何より制圧に成功したガンガルガ要塞にも、停戦が成立したことを伝えなければいけなかった。


「レイ! 貴方はガンガルガ要塞へ行きなさい。主塔の上にはハメイル王国のゼファー様達がいるはずです。停戦に合意したことを伝えてください」

 私は南に聳えるガンガルガ要塞を見た。連合軍の旗が翻る要塞にはハメイル王国のゼファーやホヴォス連邦のレーリア公女、ヘイレント王国のヘレン王女達がいるはずだ。


「ガンガルガ要塞の中には、まだ魔族が残っているはずです。停戦が成立した以上、彼らを殺してはいけません。投降するように促してください」

「はっ、お任せを」

 レイは頷くと空のように蒼い鎧と蒼いマントを翻した。そしてその場にうずくまったかと思うと、垂直に飛び上がった。レイの跳躍は私の身長を軽く超え、まるで鳥が飛んだかのように舞い上がる。するとレイの周囲で風が巻き起こり、マントが翼のように広がった。


 風魔法の使い手であるレイは、自ら生み出した風に乗り空高く跳躍する。だがいくら高く跳躍出来ても、ここからガンガルガ要塞まで飛んでいくことは出来ない。しかし天高く飛び上がったレイに、急接近する影があった。薄い皮膜のような翼を持つ翼竜だった。


 接近する翼竜の口には手綱、背には鞍がつけられ、首に巻かれている布には獅子の紋章が刺繍されている。魔王軍から奪い、現在はライオネル王国で飼育している翼竜だ。

 レイは空中で身を翻すと、急接近する翼竜の背に飛び乗り手綱を握る。レイは一度翼竜を旋回させると、ガンガルガ要塞へと向かっていった。


 一直線に飛んでいくレイを見送っていると、背後から名を呼ばれた。振り返ると赤い服に眼鏡をかけた秘書官のシュピリがいた。


「ロメリア様…………これは、本当に停戦が成立したのですか?」

 眼鏡の下にあるシュピリの丸い目は、動揺に揺れている。先ほどまで死にかけていたのに、突然停戦と言われても受け入れがたいのだろう。気持ちは分かるが、これが戦争だ。


「聞いての通りです。それよりも負傷者の収容はどうなりましたか?」

 私は周囲を見回した。シュピリにはガリオスと戦い負傷した兵士たちの収容を任せている。

「はい、負傷したカイルレン、オッテルハイム、グランベル、ラグンベルの四人の将軍は、負傷していますが命に別状はありません」

 シュピリの報告に、私は胸をなでおろす。カイルにオットー、グランとラグンの四人は、ガリオスに立ち向かい倒れた。命があったのは僥倖といえるだろう。


「ですが、四将軍以外の兵士は、その……現在生き残っているのは五十人に満たず、立って動けるのは十人もいません」

 続くシュピリの言葉は、矢となって私の胸を射抜いた。


 私はガリオスと戦うため、千人の兵士を率いて立ち向かった。その中で生きているのは五十人もいないのだ。全て兵士を率いた私の責任だった。

 彼らの失われた命や苦しみを思えば、目の前が暗くなるほどの絶望だった。しかし私は指揮官だ。悲しみを顔に出すわけにはいかない。


「……そうですか、わかりました」

 手を固く握りしめながら、私は静かに頷いた。対するシュピリは、視線を一瞬だけ私の手に移した後、寄り添うように私の側に立ち目を伏せた。

 私はシュピリの気遣いに感謝しつつ、同じく目を伏せた。そして死した兵士に哀悼した。


 戦場に一陣の風が吹き、私の頬を撫でて通り過ぎていく。


「……さて、仕事に戻りましょう」

 目を開けた私は、シュピリに向き直った。悲しみに暮れている時間は私にはない。少しでも被害を減らす行動をするべきだ。


 シュピリも力強く顎を引く。早速指示を出そうとすると、嘆きの声が聞こえてきた。

 声に驚き視線を向けると、ヒューリオン王国の兵士達が必死に走っているのが見えた。彼らが向かう先には、大きな旗が翻っている。王冠を戴く太陽の紋章。王だけが掲げることを許されるヒューリオン王国の国王旗だ。


 旗の下には一組の男女がいた。太い旗竿を一人で支えるのは、燃え盛る金髪に日に焼けた肌を持つヒューリオン王国のヒュース王子だ。そして王子の傍らに寄り添うように立つのは、月のような銀髪のフルグスク帝国のグーデリア皇女だった。


 二人の前には、赤い天鵞絨の外套を着こんだ白髪の老人が倒れていた。老人の顔の横には、宝石がちりばめられた黄金の冠が転がっている。地に伏すこの老人こそ、太陽王とも称される、第十四代ヒューリオン王だった。王は倒れたまま動けず、起き上がることすら出来ない。


 ヒュース王子達の下に、戦闘を中断したヒューリオン王国とフルグスク帝国の兵士が駆け寄る。ヒュース王子はヒューリオン王国の兵士に国王旗を預けると、倒れているヒューリオン王に歩み寄り膝をついた。そこに兵士達をかき分けて、傷を治す力を持つ癒し手が到着する。癒し手はすぐにヒューリオン王の治療を始めようとしたが、王の赤い外套を外した瞬間に手が止まった。傷口を見たであろうヒュース王子も目を伏せた。


 おそらく手の施しようがないほどの深手なのだろう。ヒュース王子の表情や癒し手の動きからヒューリオン王が助からないことが予想出来た。


「ロメリア様……ヒューリオン王国はどうなってしまうのでしょう」

 悲嘆にくれるヒュース王子や兵士たちを見て、傍らのシュピリが漏らす。


 ヒューリオン王はあまりにも偉大な王であった。王の死はヒューリオン王国に大きな打撃となるだろう。事実、兵士達は倒れた王を前に動けないでいる。


 連合軍の盟主でもあるヒューリオン王国が動けなければ、連合軍は瓦解する。私とシュピリが息をのんだ時、切り裂くような声が戦場に響いた。

 よく通る声で指示を出したのはグーデリア皇女だった。ヒューリオン王国と双璧を成す帝国の皇女は、背筋を伸ばしフルグスク帝国の兵士達に命じていく。


 次々と命令を出す彼女の口調は厳冬の如く鋭く、兵士達に対して異論を挟ませない。しかし私は氷の様に冷たいその横顔に、悲嘆にくれるヒュース王子に対する気遣いを見た。

 私がシュピリを見ると、彼女は眼鏡の奥にある目を引き締めた。

 ヒューリオン王国の兵士たちが動けないのなら、私たちが支えるべきだろう。

「シュピリさん。フルグスク帝国と協力して負傷兵の救助に当たってください」

 私が命じると、彼女は頷き踵を返して走っていった。


「ロメ隊長!」

 シュピリと入れ替わるように、赤い鎧のアルが、数人の兵士を引き連れ戻ってくる。

「停戦命令は全軍に行き渡りました」

 空を見上げれば、連合軍の軍勢からは赤と青の狼煙が昇っていくのが見えた。停戦を告げる連合軍の狼煙だ。南に目を向ければ、ガンガルガ要塞からも同じく赤と青の狼煙が揚げられる。ガンガルガ要塞を制圧したゼファー達も、停戦に応じているのだ。


「後は魔王軍がどう出るかですが……」

 アルが竜の旗を掲げる魔王軍を見る。

 旗の下では山のような巨体を誇るガリオスの周りに、黒い鎧を着た魔族が集まっていた。上半身が裸で岩のような鱗を見せるガリオスは、兵士達に太い指を差して命じていく。

 魔族の兵士達はガリオスの指示に異議を挟むことなく、命令を聞いては頷き、走り出してく。


「大丈夫そうっすね」

 アルの言葉に私も頷く。ガリオスは何よりも戦いを好む男だった。しかし敵に突進するだけの猪ではないらしい。その振る舞いには、歴戦を経た将軍の風格すらあった。


 魔王軍の行動に注目していると、大きな足音が軽快な拍子で刻まれる。私が目を向ければ、ずんぐりとした魔族が忙しそうに走り回っていた。その横には装甲のような鱗を纏った竜が、同じく足音を響かせて歩いている。


 このずんぐりした魔族は、ガリオスの七男であるイザークだ。隣にいる装甲竜と呼ばれている中型の竜だった。イザークは負傷した魔族を助け起こし、担いでは負傷者が集まる場所へと運んでいた。付き従う装甲竜も、背中に負傷者を乗せて輸送している。

 ガリオスの息子であれば、王族に連なる血筋のはずである。しかしイザークは雑用をこなす使用人の様にせかせかと働き、右に左に走り回っている。


「レイと戦っているのを見ましたが、ガリオス並みに強いのに、腰の軽い奴ですね」

 アルが感心した声をあげた。

 確かにレイと戦っていた時のイザークの力はすさまじく、父であるガリオスを彷彿とさせた。


「きっと気のいい魔族なのでしょう。つまり、成長したら強敵になる」

 アルの評に私は頷いた。


 イザークは間違いなくガリオスに匹敵する器の持ち主だ。しかし戦いが終われば率先して働き、末端の兵士に交じって雑用もいとわない。苦楽を共にするイザークの姿を、魔王軍の兵士達は忘れないだろう。イザークが経験を積み将軍となれば、魔王軍の兵士達はイザークのために喜んで命を投げ出す。


 イザークは将来の大きな障害となりうる。出来るだけ早めに排除したい相手だが、停戦が成立した今は動けない。後で対策を考えなければいけないだろう。

 魔王軍の新たな脅威を頭にしっかり刻み込んでおくと、巨大な咆哮が響き渡った。


 私は思わず身をすくめ、アルが槍斧を構えて私を守る。

 身を震わせる大音声を放ったのは、家ほどの大きさもある巨大な竜だった。ごつごつとした鱗で覆われる巨体を、二本の後脚で支えるその姿は伝説に語られる暴君竜だ。


 竜の王とも呼ばれる暴君竜は口には、巨大な氷の塊が押し込まれていた。

 暴君竜は口の中の氷を吐き出そうとするが氷は口に挟まり、吐き出すこともかみ砕くことも出来ない。苦しみ藻掻く暴君竜の周囲では、鎖を手にした魔王軍の兵士が取り囲んでいた。暴君竜は凶暴で、竜を祖先とする魔族ですら完全に飼い慣らすことはできないでいる。

 魔王軍の兵士が一斉に鎖を投げる。鎖は暴君竜の体に引っかかるも、暴れる竜に鎖を投げた魔族が振り回されていた。


「ああ、じれってぇ。俺が殺しちゃだめですか?」

 アルが苛立ちながら私を見る。暴君竜は脅威であるため、可能ならば倒してしまいたい。しかし暴君竜は魔王軍の持ち物だ。勝手に殺せば条約違反となる。ここは魔王軍に任せるしかなかった。


 戦場全体を見回せば、停戦の混乱が収まり始めていた。ヒューリオン王国は北へと移動し、フルグスク帝国と共にディナビア半島へと続く通路を封鎖している。ホヴォス連邦とヘイレント王国はヒルド砦の西に布陣していた。我がライオネル王国はハメイル王国とヒルド砦の南にある円形丘陵に集結している。一方魔王軍はガリオスが連れてきた軍勢は西の森の前に移動し、ヒルド砦から出撃した部隊は一時ヒルド砦に戻っている。


 混沌と交わっていた軍勢は、まるで時を巻き戻したかのように綺麗に分かれていた。後はヒルド砦に立てこもる魔王軍が、停戦に合意して砦を明け渡してくれるかどうかだ。


新章スタート

さて、この話がどう転ぶでしょうか

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[一言] ガリオス「おう、ギャミ。帰ったらお前の結婚式だからな」
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