第百九話 ガリオスの停戦
前回が短かったので今日も更新
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ガリオスの口から意外な提案がなされた。
「ロメリア。魔王軍は停戦を申し込む。呑むか?」
「……本気ですか?」
穴の底で見上げるガリオスに、私は問い返した。
これまで人類と魔王軍が、停戦や休戦といった戦時条約を公式に結んだことはない。それが魔王軍の側から、しかもガリオスの口から出るとは思わなかった。
「本気だ、嘘は言わねぇ」
堂々とガリオスは答える。敵ではあるが、ガリオスの言葉は信じられた。
あらゆることを力で押し通せるガリオスは、嘘や偽りを言う必要がない。やるといったら必ずやる。それがガリオスだ。それにガリオスの目は、先程とは少し違っていた。ただ楽しいことだけを追い求める、純真な子供の目ではない。瞳の奥に、深い知性を感じさせた。
「ついに答えを見つけたのですね」
私の言葉に、ガリオスは太い顎を引いた。
ガリオスが求めていた答え。それは言葉にすれば簡単、しかし本人が見つけるしかないもの、理想と呼ばれるものだった。
道を究めんとする者は、誰もが必ず失敗し、挫折を経験する。そして迷いながらも自分の理想を見つける。大きな理想や目標がなければ、困難を振り払い、前に進むことが出来ないからだ。だが竜の体に童の心を持つガリオスは、ひたむきに強さを追い求め、理想を持つことなく最強の頂にたどり着いてしまった。
「何故です。何故停戦を! 父上の力があれば……」
ガリオスの停戦が受け入れられないのか、息子のイザークが口を挟んだ。
「ああ、俺は生き残れるだろう。だが他の奴はどうだろうな?」
ガリオスの言葉にイザークは黙った。
戦況はガリオスの言うように混迷を極めている。このまま戦えば強い者だけが生き残る乱戦となる。停戦は現実的な判断と言えた。
「だが言っておくがロメリアよ。譲歩してんのはこっちだぞ。あと少しすればヒルド砦から出てきた二万の兵士もやってくる。そうなればここも乱戦だ。お前はそこの青い奴と一緒に空を飛んで逃げられるだろう。だがそこの旗持ってる男前と、氷のねーちゃんの首はこっちが取る。困るのはそっちだろうな」
ガリオスは的確にこちらの急所を突いてくる。
ヒュース王子とグーデリア皇女を失えば、ヒューリオン王国とフルグスク帝国は、指揮を執る者がいなくなってしまう。両国は戦うことも撤退することも出来ず、全滅に近い形になるだろう。
人類を代表する大国の軍勢が消滅すれば、後の世界がどうなるか予想も出来ない。
「停戦するのはいいとして、条件は?」
私は肝腎の条件を尋ねた。停戦するにしても魔王軍に有利な形で結ぶわけにはいかない。
「とりあえず、丸一日の戦闘行動の停止。要求は捕虜の解放と十日分の食料。こっちから出すのは、ガンガルガ要塞とヒルド砦の明け渡しだ」
ガリオスの提示した条件は、双方に利のあるものだった。
魔王軍にとっては、もはやヒルド砦に立て籠もる理由はない。一方で連合軍も、ガンガルガ要塞を攻略した以上、無理に魔王軍と戦う必要はない。
「どうだ、呑むか?」
ガリオスの提案を断る理由はなかった。そもそもガリオスが言い出さなければ、私は後退して魔王軍をローバーンへと逃すつもりだった。
「ヒュース様。これでよろしいですか?」
私は巨大な国王旗を支える、ヒュース王子に尋ねた。
ヒュース王子は、ヒューリオン王から次期国王の指名がなされている。連合軍の盟主として、停戦の判断を下す決定権があると考えていい。
「父上、これでいいな」
「好きにせよ」
ヒュース王子が倒れ伏すヒューリオン王に同意を求め、ヒューリオン王もこれに頷く。
私はガリオスを見て、合意したと頷く。
「よし、停戦だ! 双方それまで! 戦いを止めろ!」
ガリオスの大音声が、戦場に響きわたる。
人類と魔族、双方の歴史において『ガリオスの停戦』と語り継がれる停戦条約が結ばれ、ここにガンガルガ要塞をめぐる攻防戦が終結した。
これにてガンガルガ要塞攻略編完結
これで書籍掲載分が終わりました
来週からは新章が始まります。お楽しみに