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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第百五話 走るレーリア 


 ガンガルガ要塞内部へと走り出したレーリアだが、もちろん無茶をするつもりはなかった。主塔を登れば、途中に連合軍の兵士がいるはず。彼らにこの旗を託せば、レーリアの任務は終了だ。あとは戻ってヘレンと一緒に居ればいい。


 大きな主塔の内部へと入ると、主塔の一階は食堂らしく幾つもの机が並んでいた。食堂では魔王軍の兵士が何体か倒れていた。だが連合軍の姿はない。レーリアは階段を見つけ、すぐに登った。二階からは兵舎となっているらしく、大部屋の中に寝台が並べられていた。ここでも魔族の屍は見つかるが、連合軍の姿はない。


 レーリアは背嚢を抱えて階段を探して上へと登っていく。三階、四階へと廊下を走り、階段を駆け上がる。廊下には魔族に交じって、連合軍の兵士も倒れていた。中には生きている者もいたが、重傷で動けない。ヘレンのように、癒しの技が使えないことが恨めしい。


 四階の廊下を走ると、五階へと続く階段を見つけた。レーリアは再度階段を駆け上がり、五階に到達する。息が切れてきたが、上の階から剣戟や叫び声が聞こえてきた。あと一つ階段を登れば、味方がいるはずだと、レーリアは息を整える。すると叫び声と共に、灰色の鱗を持つ魔族がレーリア目掛けて走って来る。その手には血に濡れた剣が握られていた。


 戦う術を持たないレーリアは、悲鳴をあげて目を塞ぐことしか出来なかった。

 目を閉じるレーリアの耳に、何かが倒れる音が聞こえる。恐る恐る目を開けると、襲い掛かってきた魔族が倒れていた。死体の向こうには、剣を振り下ろしたゼファーの姿があった。


「レーリア様? どうしてこんなところに」

「そういう貴方こそどうしてここに? 戦場は上でしょ」

 レーリアは上を見た。石造りの天井の上からは、剣戟や怒声、激しい足音が聞こえてくる。兵士を率い、最前線に立つべきゼファーが何故ここにいるのか。


「実は連合軍の旗を運搬していた兵士がいなくなり、誰も旗を持っていないのです。私は旗を捜しに戻ることに……」

「旗? 旗ならあります。ここにあります!」

 レーリアは背嚢の口を開いて旗を見せた。


「本当ですか! 助かります!」

 レーリアが背嚢を渡そうとしたその時、またしても一体の魔族が、廊下の奥から現れた。

「上に行ってください! レーリア様! 上に行けば兵士がいますから!」

 ゼファーが向かい来る魔王軍に立ちはだかり、肩越しに廊下の奥を視線で示す。


「わっ、分かった!」

 レーリアはゼファーが心配だったが、ここに残っていても、自分に出来ることはない。今はゼファーの勝利を信じることしか出来なかった。


 レーリアは必死に走り、階段を見つけてすぐに登る。六階の広い廊下では、連合軍と魔王軍が入り乱れ、激しい乱戦となっていた。マイスやベインズが兵士の先頭に立ち戦っていたが、対する魔王軍も普通の兵士ではなかった。赤い全身鎧に兜、大きな盾を装備しており、槍捌きも鋭い。おそらく要塞を守る守備兵の中でも、鍛え上げられた精鋭部隊だろう。


「マイス、ベインズ!」

「姫様? どうして?」

 魔王軍と斧で切り結ぶマイスが、レーリアを見て驚く。


「旗を持ってきたの! 最上階はまだなの⁉」

「この上がたぶん最上階です。そこから塔の上に行けるはずなんですが、こいつらが……」

 マイスが廊下の奥に目を向ける。魔王軍が守る通路の先には、階段が上に伸びていた。

 敵を倒すべくマイスが斧を振るう。だがやはり敵は精鋭らしく、マイスの斧を受けきる。手強い敵にマイスが業を煮やす。


「ええい! さっさと道を開けろ!」

 斧を振りかぶり、マイスが強引に敵に接近して斧を振り下ろす。兜ごと魔族の頭を両断して倒した。しかし無理攻めをしたマイスに、側に居た魔族が槍を放つ。マイスは食い込んだ斧が抜けず、防ぐことが出来ない。


 マイスは斧を捨て、後ろに下がって槍を回避した。しかし回避した弾みで転倒する。すぐに起き上がれないマイス目掛けて、追撃の突きが放たれる。その時ゼファーが現れて、一人と一体の間に飛び込む。そして剣で槍を弾き、倒れるマイスを守った。

 突如現れたゼファーに、魔族は狙いを変えて突きの連打を放つ。突きに押され、ゼファーは後退を余儀なくされる。


「ゼファー!」

 追い詰められていくゼファーに、レーリアが思わず声をかける。だがそれがいけなかったのか、後ろに下がるゼファーが右足を滑らせ右膝をついた。好機と見た魔族は、狙いすました突きを放つ。だが足を滑らせたゼファーはすぐに体勢を立て直し、突きに合わせて前に出た。


 足を滑らせたのは、突きを誘うための演技だったのだ。前に飛びだしたゼファーは、跳躍し槍を踏む。そして槍を足場にしてさらに跳躍、宙返りをして魔族の後ろに着地する。


 魔族は振り返ろうとしたが、ゼファーはさらに素早く、半回転しながら水平斬りを放つ。魔族の首が切断され、頭部が転げ落ちる。首の断面から赤い血液が噴水のように吹き出し、ゼファーと、そして尻餅をついたままのマイスに降りかかった。

 マイスは血の雨が降るのも気にならないのか、呆然とした表情で自分を助けてくれたゼファーを見上げていた。


「大丈夫ですか?」

 起き上がらないマイスに、ゼファーが手を差し伸べて立たせる。

 マイスを立たせたゼファーは、次の敵を倒すため近くにいる魔族に向かって行く。立ち上がったマイスの視線は、ゼファーに注がれ続ける。


「……あの子って、あんなに動けたの?」

 マイスが心ここにあらずといった様子で呟く。確かにゼファーの立ち回りは見事だった。足を滑らせて、突きを誘発するのはまだ分かる。だがそこから槍を踏み台にして跳び越えるなど、命知らずもいいところだ。繊細さと大胆さが同居している。


「ヤバい。キュンと来たかも……」

 マイスが熱い息を漏らす。その顔は血にまみれていたが、頬はほんのり上気し、目じりは下がり、潤んだ瞳はゼファーを追い続けていた。


「え? ちょ、駄目よ、そんなの! その、ほら。今は戦闘中でしょ!」

「分かっていますよ。ゼファー! 援護する」

 レーリアは遮るように間に立つと、マイスは斧を掴んでゼファーの隣で戦う。


 背中を預け合う二人を、レーリアは下唇を噛んで眺めた。だが今はそんなことを考えている場合ではないと、首を横に振った。


珍しく普通に恋愛

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― 新着の感想 ―
ようやく本領発揮ですね、ゼファーくん。 草葉の陰で見守ってくれてるよ、
[一言] 血のシャワー浴びながら育つ恋の花って……あり?
[良い点] 普通に恋愛ってなんだったっけ?? [気になる点] 死亡フラグか… [一言] 鈍感系主人公枠はもう埋まってるんで!
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