表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
363/462

第百話 ロメリアを守る者達

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

漫画アプリ、マンガドア様で無料で読めるのでお勧めですよ。


 


「……様! しっかりしてください、ロメリア様! 誰か馬を! 馬を持ってきて!」

 悲痛な声に私が目を開けると、秘書官シュピリが私に肩を貸し、必死に前へと歩いていた。


「シュピリ、さん?」

「ああ、よかった! 気が付いたのですね! 誰か! 馬を、馬を! 早く!」

 シュピリが後ろに叫ぶ。私も振り返り見ると、大きな穴の底にいるガリオスと目が合った。ガリオスの周りには、多数の兵士の死体が転がっていた。兵士達は弓や弩を捨てて、剣でガリオスに向かって行く。だが彼らでは時間稼ぎにもならない。棍棒の一振りで殺されていく。


「駄目です、逃げなさい! 逃げて!」

 私は叫んだが、声は届かず、兵士達は次々に殺されていく。

「ロメリア様! ご無事ですか! この馬に乗って逃げてください! 早く!」

 馬に乗った一人の兵士が私の下にやって来て、私を馬に乗せようとする。だがその時、空気を切り裂く咆哮が響き渡り、馬が驚き暴れて逃げて行ってしまう。


「いいや、逃がさねぇ」

 穴から怪物が顔を出す。咆哮をあげたガリオスだった。

 その体は血と臓物にまみれ、まるで母の腹を引き裂いて産まれてきたかのようだった。


「貴方達、逃げなさい!」

 私は目の前にいるシュピリと兵士に命じた。ここで命を散らしても無意味だ。ガリオスの狙いは私一人。シュピリや兵士が逃げても追わないはずだった。


「い、嫌です! 貴方を見捨てて逃げるなんて。出来ません!」

 兵士が叫び、懐から布に包まれた黒い物体を取り出す。爆裂魔石だった。

「自爆か? それは効かねぇなぁ。とはいえ、やめろとは言わねー。来い、受け止めてやる」

 ガリオスが手招きをすると、兵士は息を呑み、決意を固めてガリオスに向けて突撃していく。私が止める声も聞かず。


 爆発が起き、土煙が周囲を覆う。しかし煙を縫って現れたガリオスは無傷だった。

 私に肩を貸すシュピリが、なお私を逃がそうとする。しかしもはや逃げることは叶わない。


「シュピリさん。もういい、もういいのです。貴方だけでも逃げなさい」

「駄目です! 私は貴方の秘書官です! 私は最後まで、貴方と共にいる義務があります!」

 シュピリは顔をくしゃくしゃにしながらも叫んだ。シュピリの言葉に、私は少し感心した。この秘書官も随分と変わったものだ。なら、最後の仕事を頼もう。


「……分かりました。ではシュピリさん。私の秘書官に命じます。私の最期を見届けなさい」

「それは……はい……」

 シュピリが涙ながらに頷く。私は一人で立つと、背後のガリオスに向き直った。

 ガリオスは大きな胸板を見せ、棍棒を肩に担ぎ私を見下ろしている。いつでも殺せただろうが、私達の覚悟が決まるのを待ってくれていたのだ。


「お待たせしましたね……」

「うん。意外に落ち着いているな。腹が据わっていて嬉しいよ。泣かれたり、喚かれたりするのが嫌でな。特に女の場合だと、なんか俺が悪者みたいになるからよ」

「私もこれまでに、死ぬような目には何度も遭ってきましたから」

「その割には、簡単に諦めんのな。抵抗しねーの?」

「生き残る道があるのなら足掻きもしますが、さすがにこの状況では、活路がありません」


 私は周囲を見回した。穴の底ではカイル達四将軍が倒れている。まだ息はあるようだが、倒れたまま動けないでいる。連れてきた千人の兵士達も、ほとんどが死に絶えていた。生きている者もいるようだが、まともに戦える者はいない。


 私は視線をヒュース王子に向けると、巨大な旗を掲げる王子の傍らに、グーデリア皇女がいた。氷結の皇女も、もはや打つ手なしとヒュース王子と最期を共にする覚悟が見えた。

 最後にヒルド砦を見たが、東からは、装甲竜に跨がるイザークが、ヒューリオン王国の軍勢を斬り裂くようにこちらに向かって来ていた。そしてその背中を追いかけるように、暴君竜も向かって来る。魔族と竜が切り開いた道を、二万体の魔王軍が追従していた。イザーク達だけではなく、いずれ魔王軍もここに到着する。


「もはや打つ手はありません。貴方の勝ちです」

 私は負けを認めた。これまで死ぬような目には何度も遭ったが、ここまで活路がない状況は初めて、いや、二度目だ。カシュー地方で兵を挙げた頃に一度あった。あの時も、もうどうしようもないと諦めた。奇跡的に助かったが、あのようなことはもう起きない。


 私が過去を思い返していると、ガリオスが覗き込むように私を見ていた。巌のような鱗に大きな口と牙を持つガリオスは、実にいかめしい顔をしている。しかしその瞳はつぶらで、子供のようだった。


「……死を前にしても、お前の目は変わらねぇなぁ。一体何を見てやがんだ?」

 ガリオスの口から、疑問のような呟きが漏れた。


「何がですか?」

「……昔、お前と同じ目をしている奴がいた。最初に俺を真剣勝負で負かした奴だ。にいちゃんもだ。お前らが倒した俺の兄貴も、そいつと同じ目をしていた。強くなったら俺もその目が出来るのかと思っていたが、どうも違うみたいだ。本に書いてあるかと読み漁ってみたが、どこにも答えはねぇ。お前らは何を見てるんだ? どうしたらその目が出来る?」

 謎かけのようなガリオスの問いだったが、私はその意味するところが即座に理解出来た。しかし答えることは出来ない。口に出して答えても、文字に書き記しても意味がないからだ。


「貴方は……子供のまま、強くなってしまったのですね……」

 私は呆れた。ガリオスの強さは極まっている。武の頂点と言っても間違いではない。そして今ガリオスが問うた答えは、普通ならば頂に至る過程で、挫折と苦難を乗り越えれば自然と身に着くはずのものだった。しかしガリオスは竜の体を持ちながら、その心は子供だった。


 童のように邪気がなく純真無垢。それゆえに夢中になって強さを求め、竜の体は彼を最強たらしめた。だがそのせいで、ガリオスは迷子になってしまっている。


「何を聞きたいのかは分かりました。しかしその答えを、私が答えることは出来ません」

「ん? なんだそりゃ、答えは知ってるけど、教えねぇってのか?」

「貴方自身が、見つけるしかないのです。ただ一つ忠告すれば、貴方自身、その答えに気付きかけているはずです」

 私の忠告にガリオスは鼻を鳴らした。


「ふん、これだから頭のいい奴は嫌だ。答えを教えないくせに、賢しげに忠告だけはする。俺が答えを見つければ自分の助言のおかげ、見つからなければ俺のせい。そういうことだろ?」

 ならばもう用はないと、ガリオスが不機嫌そうに棍棒を向けた。

 私とガリオスは敵同士。勝負がついた以上、互いの死以外に決着はない。


「一つお願いがあるのですが?」

「なんだ? 命乞いなら聞かねぇぞ」

「そうではありません。生き残っている者達は、奴隷にしないでもらえませんか?」

 私はシュピリをはじめ、兵士達のために嘆願した。魔王軍は捕らえた人間を奴隷にするし、時には嬲り殺しにする。戦争であるため命を取られるのは仕方がない。だがせめて人としての尊厳は守ってあげたかった。


「んなことか。いいぜ、敵を嬲るのは好きじゃねぇ」

「ありがとうございます」

「それはいいけど、お前自身の望みはねぇのか? 誰かに言葉を残すとかさ。まぁ俺に言われても、誰にも伝えてやれねーけど」

 ガリオスに問われ、不意に二人の男性の顔が脳裏をよぎった。


 アルの燃える炎のような顔に、力強い声。情熱を秘めた真紅の瞳。

 レイの透き通った空のような横顔と、涼やかな声。優しさの籠った蒼の瞳。

 何故この時になって、二人のことを思い出したのか分からない。分からないが、最後に一目会いたいという気持ちが胸に湧き上がった。しかし彼らがいるのは遠い祖国。無理な願いだ。


「……いえ、ありません」

 私が小さく首を横に振ると、ガリオスが棍棒を掲げる。


 振り上げられた棍棒を見て、私は目を瞑った。

 巨大な棍棒が振り下ろされ、風を切る音が迫る。私は痛みと死に備えたが、痛みと死が来ることはなかった。代わりに目の前で、激しい金属音が鳴り響いた。


「え?」

 私が驚いて目を開けると、目の前には二人の男性が立っていた。

 左には、炎のような燃える髪に、同じく燃えるような真紅の鎧を着た騎士。

 右には、澄んだ空のような髪に、蒼天の如き蒼い鎧を着た騎士。

 赤騎士は巨大な槍斧を、蒼騎士は槍を掲げ、二人でガリオスの一撃を防いでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「旅の剣士Aです」「同じくBです」 とは、いかんのでしょうねw ガリオスだって、それなりの目をしているはず。 鏡で自分の目を視ることができても、 それを他人と見比べることはできない。
[一言] 二人に対して意外と脈があったようでビックリ。 癒し手の彼とか、動機や実情はともかく行動を起こしたアンリとか、他者の為に動くのがタイプだけどその対象にロメリア様は含まれず、 ロメリア様の為に!…
[良い点] ヒーローが現れた! [気になる点] アルとレイから、ロメリア様があとでめっちゃ怒られそうで戦々恐々としています。 [一言] ガリオスはロメリアと会えて良かったね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ