第九十五話 四将軍
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「ガリオス! 私が相手です!」
白馬を駆り現れたのは、鈴蘭の旗を掲げる、ライオネル王国の聖女ロメリアであった。背後には千人程の兵士達を従えている。
「おお、嬢ちゃん。お前か!」
ロメリアを見たガリオスは、穴の底で大きな口を開けて笑った。ロメリアといえば、セメド荒野の戦いで、ガリオスと戦い勝利したことは有名である。しかしガリオスは自らを破った相手を見て、雪辱に燃えるどころか嬉々としていた。
「目標ガリオス、弓兵! 三射!」
ロメリアが白い指先をガリオスに向ける。ロメリアの指揮の下、三百人の弓兵が穴の縁に並び、ガリオスに向けて矢を放つ。だが降り注ぐ矢を、ガリオスは防ぎもしなかった。実際、放たれた矢はガリオスの皮膚に弾かれ、突き刺さらない。
「おいおい、俺様にこんなもんが効くかよ」
ガリオスが笑う。だがロメリアはすぐさま次の命令を下す。穴の縁には、いつの間にか六百人からなる兵士が弩を構えていた。
「弩兵! 狙え! 放て!」
ロメリアの号令の下、弩兵が一斉に矢を放つ。これにはさすがのガリオスも、両腕で顔を覆って矢を防いだ。弩は盾や鎧を貫通する威力を持つ。鋼鉄の如きガリオスの皮膚にも、弩の矢が突き刺さった。大量に突き刺さった矢のせいで、ガリオスの体は針の山のような姿となる。だが――。
「ふん!」
両腕で顔を守っていたガリオスが勢いよく手を振るうと、反動で体に突き刺さっていた矢が全て抜け落ちる。
「それなりに考えてきたようだが、この程度で殺られるかよ。まぁいい、嬢ちゃんとは、もう一度会いたかったんだ。ちょっと話でもしようぜ」
体に矢が刺さっていたはずだが、ガリオスは血の一滴も流さない。対するロメリアは手を上げ、兵士達の攻撃を中止させた。ガリオスの不死身ぶりを目の当たりにしても、ライオネル王国の聖女の顔に焦りはない。
「私と話をしたいと言うのなら、私の兵士達を倒してからにしてもらいましょう」
ロメリアはガリオスを前に、堂々と言い切る。
「ああ? そりゃそこの雑魚共のことか? その中に俺に勝てる奴がいるってのか? どこのどいつだ? 出て来いよ、相手してやる」
「もうここにいるよ」
その声はガリオスの背後から発せられた。見ればガリオスの背後に、黒い服に黒い鎧を着込んだ兵士が立っている。ライオネル王国の将軍カイルレンだ。
「お前、いつの間に」
ガリオスが振り向きざまに、棍棒を薙ぎ払った。カイルレン将軍は宙返りをして棍棒を避けた。ガリオスはさらに棍棒を振り下ろし、突き、跳ね上げる。だがカイルレン将軍は豹を思わせる身のこなし、猿の如き身軽さで回避する。変幻自在ともいえる動き、ヒュースの目にはカイルレン将軍の姿が複数に見えたほどだ。
「小僧! お前も覚えてるぞ! さらに速くなったな!」
「そりゃどうも」
カイルレン将軍が、宙返りをして後ろに下がる。入れ替わるように、猛々しい足音がガリオスに向かう。足音の主は、大きな戦鎚を抱えるオッテルハイム将軍だ。
「今度はお前か! 久しぶりだ、な!」
声と共にガリオスが棍棒を振り下ろす。オッテルハイム将軍も戦鎚を振りかぶり、雄叫びと共に振り抜いた。
極大の金属音が、戦場を駆け抜ける。ガリオスの一撃を受け、オッテルハイム将軍は後ろへと吹き飛ばされた。しかしその足は大地を掴み、転倒することなく踏みとどまる。
自身の攻撃を耐えた相手を前にして、ガリオスは嬉しそうに笑う。しかし何かが足りないと思ったのか、周囲を見回す。
「ん? おめーらがいるってことは、あいつらもいると思ったんだが、来てねーのか?」
「それってもしかして、アルのことかな? ラグン」
「あいつらと言っていたから、レイのことも入っていると思うよ。グラン」
槍を携えてガリオスに歩み寄るのは、同じ顔のグランベル将軍とラグンベル将軍だった。
「おっ、双子だ。俺、人間の双子見るのは初めてかも。で、お前ら戦えるのか? 双子を使った手品を見せてくれるのなら大歓迎だが」
「手品は出来ないけれど」
「こんなことなら出来るよ」
棍棒を肩に担いで見下ろすガリオスに対し、双子将軍がそれぞれ槍を構えた。ただし、グランベル将軍は右に槍を構え、ラグンベル将軍は左に槍を構える。
確か二人は両方とも右利きのはず。ヒュースが違和感に気付いた時には、すでに二人はガリオスに向かって突撃していた。グランベル将軍が先行し、ラグンベル将軍はすぐ真後ろにつく。ガリオスから見れば双子の姿が一人に見えたことだろう。
グランベル将軍が槍を繰り出し、鋭い三連突きを見せる。双子将軍は槍の名手としても名高い。見事な槍捌きであったが、ガリオスは巨大な棍棒を巧みに操り、槍を受けきる。そしてお返しとばかりに棍棒を振るった。だがその直後、グランベル将軍がくるりとその場で反転、背後にいたラグンベル将軍が前に出る。
入れ替わるように現れたラグンベル将軍が、槍を大きく振るいガリオスの棍棒を横から弾く。槍を振るった勢いで、ラグンベル将軍の体が反転して背中を見せる。だがそこには背中を合わせて立つグランベル将軍がいた。グランベル将軍は回転した勢いのままに槍を突く。
「おおっ? なんだそりゃ?」
背中を合わせて戦う双子将軍に、ガリオスも目を丸くする。
ガリオスは棍棒を振るって戦うも、グランベル将軍とラグンベル将軍は背中を合わせたまま右に左にと回転し、時には左右同時に槍を繰り出す。
二人の槍捌き体捌きは、もはや息が合っているなどというものではない。背中合わせに槍を振るっているというのに、互いの動きを邪魔するどころか、重心を預け合うことでより力を増している。ヒュースの目には、二人は二面四臂で槍を振るう武神に見えた。
「下手な手品より、沸かせてくれるじゃねぇか、よ!」
ガリオスが二人の間に棍棒を振り下ろす。グランベル将軍とラグンベル将軍は、分かたれたように離れたかと思うと、それぞれが槍を繰り出し、ガリオスの右腕と左足を突き刺す。ガリオスが僅かに体勢を崩した隙を見て、双子将軍は後方へと下がり再度背中を合わせた。
カイルレンとオッテルハイム、グランベルにラグンベル。ライオネル王国を代表する四人の将軍が、ガリオスを相手に互角の戦いを見せていた。
「おもしれぇ、久々に戦場に出た甲斐があった」
ガリオスは、満面の笑みを浮かべた。
ロメリアないしょばなし
グラン「ガリオスもああ言っていたし、今度手品でもやってみようか」
ラグン「いいねデートで披露したらモテそうだ」