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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第九十四話 ライオネルの聖女

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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「やった、やったぞ!」

 ヒュースは白い息を吐きながら、歓声をあげた。

 ガリオスの体は全身が凍りついている。まるで何千年も前に滅んだ太古の生物が、氷漬けにされているようだ。周りにいる月光騎士団も喜びに沸く。


 未だ戦いは終わっていないが、魔王の弟ガリオスを討つという大戦果は、ガンガルガ要塞を攻略した以上の価値がある。ガリオスの死を知れば、魔王軍も戦意を喪失するだろう。あとはいかにして勝つかだ。


 ヒュースは勝利の立役者と言える、グーデリアに目を向けた。

 グーデリアは大きな魔法を使ったため、辛そうに俯き顔を顰めていた。だがヒュースの視線に気付くと、顔から表情を消して背筋を伸ばした。

 やせ我慢と分かっていても、すまし顔の彼女は氷の女王ともいうべき美貌を備えていた。


「浮かれるな、お前達。魔王軍はまだ残っている。月光騎士団三十人はここに残れ。残りはガリオスが連れてきた、魔王軍の掃討に当たれ」

 グーデリアが細い指を向けて指示を出し、月光騎士団が素早く動き戦場へと向かって行く。

 指示を終えたグーデリアが、銀の髪の下、青い瞳をヒュースに向けて歩み寄る。


「ヒュースよ。言っておくが、お前を助けに来たわけではないぞ」

「分かっているさ」

 ヒュースは笑って頷いた。グーデリアは私情で軍を動かすことはしない。それでもここに来たのは、ガリオスを倒す自信があったからだ。ヒュースが助かったのはそのついでだ。


「もちろん、そなたを助けに来たわけでもないぞ、ヒューリオン王よ」

 倒れたままのヒューリオン王に、グーデリアが氷の瞳を向けた。ヒューリオン王は身動きすらせず、何を考えているのか分からない。


 グーデリアはヒューリオン王から目を外し、ヒュースを見た。その青い瞳には憂いが込められていた。ヒュースもその瞳を見返す。

 今は戦時である。色恋にかまけている時間はない。しかし公人であるヒュースとグーデリアが、余人を交えず本音をさらけ出すことが出来る時は、今をおいて他になかった。


「グーデリア、その……」

「ヒュース、私は……」

 ヒュースとグーデリアが同時に口を開き、何かを言おうとしたその時だった。かすかな振動と音にヒュースが気付いた。振動と音は徐々に大きくなり、グーデリアや周囲を警護する月光騎士団も気付き始める。


「なんだ? これは?」

 ヒュースは不吉な予感を覚え、グーデリアとの話を一時中断して、振動と音の発生源を探した。すると目の前にある巨大な氷山が、小刻みに震えていることが分かった。

 氷が溶けて崩れる前兆なのかと、氷山を生み出したグーデリアに目を向けた。その顔を見てヒュースは驚く。常に冷静沈着なグーデリアの顔が強張り、青ざめていたからだ。


「そんな馬鹿な、ありえぬ!」

 グーデリアの目は見開かれ、その声は震えていた。

 振動と音は大きくなり、氷山に一筋の亀裂が走る。亀裂はさらに増え、氷山が割れ始める。


 ここに至ってヒュースは異常事態の原因に思い至った。だがそんなことはありえないと、氷山に閉じ込められたガリオスを見る。

 棍棒を掲げるガリオスは、膨大な氷に封じ込められ、完全に死んでいるはずだった。しかし凍てついているはずの目は爛々と輝き、その体はわずかに膨張しているように見えた。


「まさか! 生きているのか!」

 戦慄がヒュースとグーデリア、この場に残った月光騎士団三十人の間を駆け抜ける。

 氷に閉ざされたガリオスの瞳が、徐々に赤く染まり始める。


「生きている! ガリオスはまだ生きているぞ!」

 ヒュースが叫ぶと同時に、残っていた月光騎士団がガリオスに向かって動いた。だがそれは勇敢さからではない。今ここで、この怪物を殺さなければ自分は死ぬと、生存本能が命じたからにほかならない。月光騎士団は恐怖に駆り立てられ、自ら死に向かって行ってしまった。


「馬鹿! 行くな、戻れ!」

「グーデリア! 危ない! 伏せろ!」

 月光騎士団を止めるグーデリアに、ヒュースは覆いかぶさった。直後、ガリオスの瞳がカッと開かれる。轟音と共に氷山が真っ二つに割れ、氷の封印よりガリオスが解き放たれる。


 氷山より解放されたガリオスの体は、筋肉がはち切れんばかりに膨れ上がっていた。

 月光騎士団が三十の刃を向けるが、ガリオスは目を真っ赤に燃やし、高らかに掲げていた棍棒を振り下ろす。身を伏せたヒュースの体に衝撃が駆け抜け、轟音が後から耳を貫く。

 ヒュースは痛みに耐えながら何とか起き上がると、目の前の光景は一変していた。


「なっ、なんだ! これは! これを一体の魔族がやったのか!」

 ヒュースの目の前には、巨大なすり鉢状の穴が開いていた。

 大きく抉られた地面の底では、棍棒を振り下ろしたガリオスが蒸気のような息を吐いている。周囲には月光騎士団や馬の死体が転がり、生きている者は一人としていない。


「そうだ! グーデリア! 無事か!」

 ヒュースはかばったグーデリアを見ると、銀の髪を乱してグーデリアも起き上がる。氷結の皇女と称される女傑も、地形を一変させるガリオスの一撃を見て戦慄に震える。

「おお、寒かった。しもやけになるかと思ったぜ」

 氷漬けにされていたガリオスが穴の底で、ゴキゴキと首を鳴らしてグーデリアを見上げる。


「ねーちゃんやるな。これだけの魔法を使う奴は、魔族にだってそうはいねーぞ。でも俺のにーちゃんほどじゃねーなー。俺はガキの頃からにーちゃんとよく喧嘩してよ。魔法はよく食らってるんだ。そのせいか魔法はあんまり効かねーのよ」

 敵であっても頓着をせず語るガリオスの言葉を聞き、ヒュースは愕然とする。


 ガリオスが魔王の実弟であることは周知の事実。つまりガリオスが語る兄とは、魔王ゼルギスにほかならない。伝聞では、ゼルギスは巧みに魔法を操ったと聞く。だが魔王と称される者の魔法でも、ガリオスを倒すことは出来なかったのだ。


 気丈なグーデリアが膝をつく。自身の魔法に絶大な自信を持っていた彼女は、その拠り所を失ってしまったのだ。

 ヒュースもグーデリアが勝てない相手を、どうやって殺せばいいのか思いつかなかった。


「待て! ガリオス!」

 ヒュースが絶望に暮れたまさにその時、希望の光のように凛とした声が響き渡った。


悲報、ガリオス復活

原因はフラグを立てたヒュース

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― 新着の感想 ―
セリフ以外それっぽい描写がないのにタイトルがロメリアなのか。
溶ける氷の中のガリオスさんに球乗り仕込めるかな
[一言] そら、魔王の魔法を喧嘩のたびに食らってりゃ耐性もつくわな……(いや、よく考えたら最初に受けた時に死ぬでしょ普通) >必ず成功するチート天啓 いやま、成功=本当に欲っする物、幸せとは限りませ…
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