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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第八十三話 ヒューリオン王③

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 ヒューリオン王の告白を聞き、ヒュースは震えた。

「そんな馬鹿な、嘘だ、ありえない」

「信じたくないか? だが事実だ。天啓の声は常に正しく、従えば必ず成功した。そして声が命じたのよ。子供達や弟を殺せ、そしてお前を王にせよと。余はその声に従ったにすぎぬ」

「それでは貴方は王ではない! 声に従う奴隷ではないですか!」

 ヒュースは怒りのままに叫んだ。言われた通りにするなど、王のすることではなかった。


「自分で考え、行動しようと思わなかったのですか!」

 ヒュースは思わず叫んだ。するとヒューリオン王のたるんだ頬が一変した。顔中にあった皺がさらに深く刻まれたかと思うと、目を見開き、悪魔のような形相が浮かび上がる。


「思わなかったかだと! 思ったに決まっておろうが!」

 これまで聞いたことのない、ヒューリオン王の怒りの声が天幕に響いた。

「余とて王位を継いだ時は、良き王になれると信じていた! 降り注ぐ声も幻聴の類いと無視しておったわ! だがな! 声はいつも正しい。声に逆らうということは、間違えるということ! 声に逆らったが原因で戦に負け、国民を飢えさせて無駄に死なせたのだ!」


 ヒューリオン王の喉から絞り出された声は、慟哭となっていた。その時ヒュースは王国の歴史を思い出した。太陽王と讃えられるヒューリオン王も、王位を継いだ初期は失敗が多く、戦争に負け、国民は飢えに苦しんだことがあったと。だがそれ以降、ヒューリオン王は政策上の失敗が一切なくなり、国は大きくなっていった。


「しかし……我が子を、弟を、家族を愛する心はないのですか」

「国だけが我が嬰児よ! 余が愛するのは国のみ! それが王の仕事だ!」

 ヒューリオン王の激しい言葉が、天幕の中に響いた。

 興奮して肩で息をしていたヒューリオン王は、呼吸が整うと一転して目じりを歪めて笑みを浮かべた。底意地の悪い、いやらしい顔だった。


「ところでヒュースよ。グーデリアと言ったか。あの娘のことをどう思っておるのだ?」

「グーデリアは関係ないでしょう!」

「怒るな、何もせぬ。お前達が子供の頃から、通じ合っていることは知っておった」

 ヒューリオン王の言葉を、ヒュースは嘘だと思った。確かにグーデリアは一時期ヒューリオン王国に滞在していた。グーデリアに与えられた離宮はヒュースの部屋に近く、グーデリアとよく遊んだ。しかし人目を忍んで遊んだため、二人の関係を知る者はいないはずだ。


「グーデリアにあてがった離宮が、お前の部屋の近くだったのは、偶然だとでも?」

 ヒューリオン王の嘲笑交じりの声に、ヒュースは愕然とした。


「まさか……そんな!」

「そうだ。あの時も声が、お前達の部屋を近付けるように言ったのだ。先程、余のことを声に従う奴隷と申したが、お前達は声に操られる人形よ」

 ヒューリオン王が笑う。皺を歪めたその笑みは、醜悪そのものであった。


「お前は余の代わりよ。余の後を継ぎ、この王冠を戴けば、今度は声がお前に降り注ぐ」

 ヒューリオン王は首を傾げ、黄金と宝石がちりばめられた、王冠を見せつける。

 誰もが求めてやまぬ王冠だが、ヒュースの目には禍々しい呪物のように見えた。


「さぁ、余の後を継げ」

 ヒューリオン王が右手を伸ばす。その足元にはレガリア将軍が流した血の跡が、深い血の沼の様に広がっていた。

 ヒュースは恐ろしくなり、身をよじって後ろに逃げた。


「わっ、私は、王になどなりません!」

 ヒュースが悲鳴のような声をあげると、ヒューリオン王は伸ばした手を引っ込めた。しかしその顔には、獲物を逃さぬ肉食獣の笑みがあった。


「好きにせよ。だが声はお前が次の王になると言った。ならばお前は必ず王になる」

 たるんだ頬を揺らして、ヒューリオン王が笑う。

 ヒュースはそのような呪われた運命を受け入れるぐらいならば、今のこの場で父を殺して自分も果てようと覚悟を決めた。しかしその時、レガリア将軍の亡骸を片付けた親衛隊二人が戻ってきてしまった。屈強な親衛隊二人を前に、暗殺は不可能だ。


「もう下がってよいぞ、ああ、明日にはヒルド砦の攻撃。お前は余の側に居れ、いいな」

 付け加えるように、ヒューリオン王が命じる。ヒュースは返事をせず、逃げるように天幕から出た。そして王の影が守護する天幕から離れる。ヒュースは陣地の中を歩いたが、どこにも行く当てはなく、どうすればいいのか分からなかった。


「ヒュース王子、ここでしたか」

 声と共に、お付のカトルが息を切らせてやって来る。

「実はさっきから、レガリア将軍の姿が見えないと、兵士達が騒いでいるのです。どこにいるかご存じありませんか?」

 カトルの言葉に、ヒュースは歯を噛みしめた。


 レガリア将軍は、叔父はもういない。殺されてしまったのだ。さほど親密な仲ではなかったが、それでも叔父だ。それが、あんな殺され方をするなど……。


「おい、カトル。お前、俺に忠誠を誓うと言っていたな。あれは本当か?」

 ヒュースはカトルの肩に右手をかけ、力任せに引き寄せた。


「え? それは……もっ、もちろん本気です。貴方に忠誠を誓います」

「よし、なら頼みたいことがある。俺の護衛隊を作ると言っていたな。あれを今すぐ作れ。ただし、王と共にやって来た兵士は混ぜるな。以前から居た者だけで構成しろ。出来るか?」


「え? それは、出来ますが。ロメリア様の策に乗る、ということですか?」

「ああ、そうだ。俺達の手でガンガルガ要塞を落とすぞ」

「分かりました、すぐに動きます」

 頷くカトルの肩を、ヒュースは強く叩いた。カトルは勢いよく走って行く。


 ヒュースは息を吐き、覚悟を決めた。

 王になるつもりなどない。しかしヒューリオン王に対抗するためには、力が必要だった。自分の手足となる戦力がいる。そのうえで……。

 ヒュースは振り返り、ヒューリオン王がいる天幕を睨んだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 天の声、ろくなもんじゃねぇな
[一言] ある意味チートスキルだけど死に戻りと同じくらいほしくないスキルだ……
[一言] ヒューリオン王というか天啓の主は、ヒュースが護衛隊を作って親殺しをして王位に就くシナリオを書いてる?
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