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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第八十二話 ヒューリオン王②

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 天幕には黄金の椅子に座るヒューリオン王がいた。黄金の冠を戴き、赤い天鵞絨の長外套を羽織るヒューリオン王の背後には、二人の親衛隊が彫像のように侍っていた。


「おお、よく来たな、二人共。まぁこっちへ来い。近こう寄れ」

 天幕に入って来たヒュースとレガリア将軍を見て、ヒューリオン王はたるんだ頬を弾ませ、機嫌よく手招きをした。ヒュース達は言われるままに王の前まで進んだ。


「来る途中でお前達が窮地に陥ったと知らせを聞いたが、元気そうでよかった。レガリア、負傷したと聞いたが、怪我はもういいのか?」

 ヒューリオン王は、右手で黄金の椅子の手すりを撫でながら、レガリア将軍を見た。


 気さくなヒューリオン王の態度に、ヒュースは驚いた。ヒュースの知る父は、いつも顰め面で、機嫌の良い時など見たことがなかったからだ。いつもと違いすぎる態度に、ヒュースは何か不吉な予感がした。


「兄上、どうしてこのようなことをされたのです」

「ん? まぁそれよりも、お前には礼を言わせてくれ」

 問い詰めるレガリア将軍に、ヒューリオン王は座りながら左手を伸ばして、弟の肩に手を置いた。


「れ、礼ですか?」

「ああ、お前はよく余に仕えてくれた。お前は国の宝、余の誇りだ」

 突然の賛美にレガリア将軍が驚く。ヒューリオン王は右手を椅子の手すりに置きながら、左手を引いて弟を抱き寄せ、力強く首を掴んだ。


「兄上、そのように私を思っていただけていたとは……」

 レガリア将軍の口から、感極まった声が出た瞬間だった。椅子の手すりに置かれた、ヒューリオン王の右手が動いた。手すりの一部が外れて、銀色の刃が姿を現す。ヒューリオン王はためらうことなく、椅子に仕込まれた短剣でレガリア将軍の腹部を突き刺した。


「ぐっ、がっ……なっ、ぜ……」

 刺されたレガリア将軍は口から血を吐き、ヒューリオン王から離れようとした。しかしヒューリオン王は首に回した手を放さず、突き刺した短剣をひねり、傷をえぐる。


 レガリア将軍が短い悲鳴をあげると、その四肢から力が消えうせる。弟が死んだことを確認したヒューリオン王は、死体を捨てるように横に突き倒した。

 全てを目の当たりにしたヒュースは、止めるどころか、声を発することも出来なかった。


 今まさに兄が弟を殺したのだ。それも何の理由もなしに。

 ヒュースの知る限り、レガリア将軍は忠臣だった。これまであらゆる命令に従ってきた。殺さなければならない理由など、何一つなかったはずだ。


「相変わらず甘い男だ。だから殺す理由がなかったが、もう生かしておく理由もなくなった」

 息絶えたレガリア将軍の亡骸に、ヒューリオン王がつまらなそうに言葉をこぼす。


「理由、理由がなくなっただと! 貴方はただそれだけで、自分の弟を殺したのか!」

「まぁ、そう怒るな。おい、片付けろ」

 声を荒らげるヒュースを、ヒューリオン王はつまらなそうに見たあと、背後に控える親衛隊二人に命じた。


物言わぬ親衛隊は、荷物でも運ぶようにレガリア将軍の亡骸を担ぐと、外へと運び出していく。

 親衛隊が出て行ったのを確認すると、床に残された血の染みを挟んで、椅子に座るヒューリオン王は口を開いた。


「こうして二人きりになるのは初めてだな。いや、お前が生まれた時に抱いたことがあったか?」

 ヒューリオン王が過去を追想していたが、覚えてもいない生まれた時の話など、ヒュースにはどうでもいいことだった。


「息子を殺し、弟までも殺し、貴方は何がしたいのです!」

「ここに来た時に言ったであろう、余はお前を次の王にすると。レガリアが王位に野心がないことは分かっておったが、担ぎ上げる奴が居るかもしれんからな。その前に消しておいた」


「何故私なのです、私は王の器ではありません。王になりたいとも言わなかったのに」

「お前を選んだ理由。それはな、『声』がしたからだ」

「声? 誰の声です」

「天からの声だ。余は『天啓』と呼んでおる。その声がお前を王にしろと言ったのだ」

 ヒューリオン王の答えを聞いた瞬間、ヒュースは父がおかしくなっているのだと理解した。


 老いか、それとも病か。どちらにしても太陽王と称された明晰な頭脳は失われ、幻聴に従う老人となっている。

 ヒュースは秘かに拳を固めた。このような男を王座に座らせておけば、災厄を周囲に振り撒くことになる。父を手にかけてでも、王座を妄想に囚われた男から解放すべきだった。


「ふん、余のことを頭がおかしくなっていると思っているな? かもしれん。だがそれは昨日今日のことではない。王国の大聖堂でこの王冠を頭に戴き、王となったその時、天から声が降り注いだ」

 ヒューリオン王は首を右に傾げ、頭に載る王冠を右の指先で指した。


「余はこれまで多くのことを成してきた。だが自分で判断したことはほとんどない。全て天啓の声に従ったにすぎぬ。余が成した全ての偉業は、声が命じたことよ」

 ヒューリオン王の告白は、ヒュースには到底受け入れられないものだった。


 若くして王となり、数々の偉業を成し遂げた第十四代ヒューリオン王は、ヒューリオン王国に住む国民すべての誇りだった。だが王の言葉が事実なら、偉業の源泉は妄想と幻聴ということになってしまう。

 受け入れがたい告白に、ヒュースは愕然とした。


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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、前評判と当人の描写のギャップはこれか。 ハナっから天啓の操り人形だったわけだ。 ……だとすると王位後継者は再び天啓の操り人形として選ばれたって解釈でいいのかな?
[一言] NHK「受信機があると聞いて」
[一言] そういえば、ロメ様とエリザベートも謎の声を聴いてるんでしたよね(おそらく、エカテリーナと呂姫も) で、従い続けた結果があれと
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